厚生年金に加入している会社員に比べ、老後に受け取る公的年金が少ない自営業やフリーランス。その差は月額10万円ともいわれています。その差をなくそうと国民年金基金が創設されました。自分で自由にプランを組み合わせて、年金を増やすことが可能です。
目次
国民年金基金を知る
公的年金と同様の優遇が受けられる私的年金
国民年金基金は、加入が義務づけられている国民年金とは異なり、任意で加入することができる私的年金です。国民年金に上乗せして掛け金を支払うことにより、将来受け取る年金額を増やすことができるものです。
私的年金でありながらも、公的年金制度と同様に、確定申告の際に社会保険料控除や公的年金控除などの優遇を受けることができ、税制面でも特典を受けることができます。毎年年末に行われる確定申告では、所得から1年間に支払った国民年金基金の掛け金全額を控除として差し引かれ、納める税金を抑えることができるのです。
1991年に設けられ全国に72団体
国民年金基金は国民年金法に基づき、自営業やフリーランスの方など国民年金第1号被保険者の方たちの老後の所得を保障する役割を果たすため、1991年4月に創設されました。国民年金に加入して給付を受ける「老齢基礎年金」に上乗せして年金を支給する組織で、会社員が受給する「厚生年金」に相当する公的な年金となります。
国民年金や厚生年金同様、一生涯受給できる「終身年金」です。47都道府県に設立された「地域型基金」と、25の職種別に設立された「機能型基金」があり、全国で72団体が設立されています。2016年末には、398,879人が加入しています。
自営業または国民年金の第1号被保険者の老後の所得を保障
公的年金には、全国民が共通で加入する「国民年金」と、会社員(公務員)が加入する「厚生年金(共済年金)」があります。会社員(公務員)は、国民年金と厚生年金(共済年金)の両方に加入でき、平均的な会社員のモデルケースとして、月額約16万円の年金が受け取れるとされています。一方で自営業やフリーランスの方が加入するのは国民年金のみとなり、平均的なモデルケースとして受け取る年金は、月額約64,000円ほどであるとされています。
このように、国民年金に上乗せして厚生年金に加入している会社員などとは異なり、国民年金のみに加入している自営業者、もしくは国民年金の第1号被保険者は、将来受け取る年金額が少ないため、自営業者などから上乗せ年金を求める声があがっていました。
国会審議などを経て、1991年に厚生年金に相当する国民年金基金制度が創設され、自営業者または国民年金の第1号被保険者も、国民年金に上乗せして掛け金を支払い、平等にゆとりのある老後を目指せるようになりました。
国民年金基金の種類
「地域型国民年金基金」「職能型国民年金基金」の2種類
国民年金基金には、47都道府県に設立された「地域型国民年金基金」と、25の職種別に設立された「職能型国民年金基金」の2種類があります。「地域型国民年金基金」は、各都道府県に1つ設立されており、各都道府県内に住所を有する国民年金の第1号被保険者の方が加入できます。
また、「職能型国民年金基金」は25の業種別に設立されており、同一の事業または業務に従事する国民年金の第1号被保険者の方が加入できます。いずれか一つの基金にしか加入できず、加入する側が選択することになります。また、任意に途中で地域型から職能型、または職能型から地域型へと移ることはできません。
どちらも事業内容は同じ
国民年金基金には、「地域型」と「職能型」の二つの形態が設けられています。地域型は、管轄の都道府県内に住む第1被保険者の方は、原則として誰でも加入することができます。しかし、その都道府県から転出する際には、加入の資格を喪失し、それまでの掛金は、国民年金基金連合会に移行され、将来、年金として連合会から支給されることになります。
一方、職能型は、その職業に従事する第1号被保険者であれば、原則として誰でも加入することができますが、その職業の資格を喪失したり廃業したりした場合には、加入の資格を喪失し、地域型同様、それまでの掛金や将来の年金支給が国民年金基金連合会に移行されます。
このように、運営している団体は異なりますが、それぞれの基金が行う事業内容は同じです。したがって、掛け金や年金支給額も同じになります。
国民年金基金のメリットとデメリット
節税対策になる
私たちは毎年、年間の所得に応じて、所得税や住民税を支払わなければなりません。所得が多ければ、その分納める税金も高くなりますが、所得から差し引かれる「所得控除」の金額が多ければ、その分納める税金を安く済ませることができます。
国民年金基金は、社会保険料控除の優遇を受けることができるため、1年間支払った国民年金基金の掛け金全額を所得から差し引くことができ、納める税金を安くすることができるのです。一方、民間で加入する個人年金の場合は、最大で40,000円までしか所得控除されません。
また、将来、年金を受け取った際にも、節税をすることができます。年金には、生命保険など民間で加入する個人年金や、公的年金である国民年金、そして国民年金基金といった公的な個人年金がありますが、どれも一定額以上受け取ると、雑所得として税金が課されます。
しかし、国民年金基金は公的年金と同様に、生命保険などの個人年金と違って、公的年金控除を受けることができ、税制上優遇されているのです。
掛け金を自由なプランで決められる
国民年金基金の掛金月額は、選択した給付タイプ、加入口数、加入時の年齢、男女の別によって決まります。掛け金の上限は、月額68,000円となります。給付タイプは、1口目は、終身年金タイプを選択するものの、2口目以降からは、終身年金タイプのほかに、給付期間が定まった確定年金タイプなど、7タイプから自由に選択することができ、それぞれで掛け金や年金額が異なってきます。
上限金額内であれば、老後のライフプランに合わせて、給付タイプや加入口数を自由に組み合わせることができます。生活にゆとりがあるときには、口数を増やして将来受け取る年金額を増やしたり、また、節約したいときには、口数を減らすなど、無理のない自由なプランを組めることも特徴です。
万が一の場合の遺族一時金がある
国民年金では、第1号被保険者が亡くなり、それまで36ヶ月以上納金し、老齢基礎年金または障害基礎年金の支給を受けず、かつ遺族基礎年金も支給されない場合、遺族に死亡一時金が支払われます。
これと同様に、国民年金基金にも、保障期間のある終身年金A型と確定年金I型・II型・III型・IV型・V型の加入者が、年金を受け取る前に亡くなった場合、加入時の年齢、死亡時の年齢、死亡時までの掛金納付期間に応じた額の遺族一時金が支給されます。
また、保証期間中に亡くなった場合は、残りの保証期間に応じた額の遺族一時金が支給されます。保証期間のない終身年金B型のみに加入し、年金支給開始前に死亡した場合は、遺族一時金として10,000円が支払われます。遺族一時金は、非課税となります。
基本は終身年金
国民年金基金の給付タイプは7タイプあり、A型・B型、I型・II型・III型・IV型・V型から選ぶことができます。大きく分けて、終身年金タイプと確定年金タイプがあり、加入の基本となる1口目は、終身年金であるA型かB型のいずれかを選択します。終身年金であるため、一生涯年金を受給することができます。A型は、15年間の保証期間がついており、B型は保証期間がついていません。
保証付きタイプのものにすると、万が一、国民年金基金加入者が年金支給開始から保証期間内に死亡した場合に、残された遺族に、掛金に応じた一時金が支払われることになります。途中でA型からB型、B型からA型など、型を変更することはできません。受給期間が定まっている確定年金のI型・II型・III型・IV型・V型は、2口目以降から選択することができます。
支給開始年齢の引き下げがない
年金の支給開始年齢が、75歳まで引き下げられるという報道があった国民年金。正確には「75歳になるまで年金をもらわない選択もできるようにする」という制度を検討していたことによるものですが、多くの国民に「75歳になるまで年金がもらえない」という誤解を与え、不安を生み出しました。
国民年金基金は、現状定められている支給開始年齢を引き下げることはないと明言しており、一律65歳からの支給となっています。また、現行では、老齢基礎年金は、65歳からの給付となりますが、希望により60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受給することもできます。
しかし、老齢基礎年金を繰り上げて受給した場合は、本来もらうはずだった年金額に比べて、1ヶ月早めることにより0.5%減額されます。逆に支給開始を遅らせるときは、1ヶ月につき0.7%の増額となるのです。老齢基礎年金を繰り上げて受給した場合は、それに伴って、国民年金基金においても、付加年金相当分の年金が減額されて支給されることになります。
物価スライド式ではない
国民年金基金の一番大きなデメリットは、物価スライド制に対応していないことです。物価スライド制とは、物価の変動に応じて年金額を改定する制度です。
国民年金は、物価スライド方式であるため、インフレで物価が上がると、それにあわせて年金の給付額も上がる仕組みになっています。しかし国民年金基金では、物価スライド式ではないため、将来、インフレが起こってしまったときに、給付される年金額では足りず、生活がしていけない恐れがあります。
日本では、バブルが崩壊したあと、長期間のデフレになりましたが、将来、またインフレが起こる可能性は十分にあります。インフレに対応できる物価スライド式を採用していないことは、国民年金基金のデメリットといえるでしょう。
国民年金基金の掛金
掛け金は口座振替
国民年金基金の掛け金は、加入者が指定した金融機関、または郵便局からの口座振替によって納付することになっています。原則、コンビニなどで振込用紙を利用して支払うことはできません。
掛け金は、毎月1日に引き落としされます。また、国民年金基金へ申し出れば、国民年金基金の掛金だけでなく、国民年金本体の保険料も合わせて、口座振替に希望することができます。国民年金基金は、国民年金の上乗せ年金であり、国民年金保険料の納付を前提として、国民年金基金からの年金給付が行われることになっています。
そのため、掛け金を支払っていても、国民年金の保険料を納めていない期間があると、その分、将来の年金額が減額されてしまいますので、国民年金と国民年金基金は、まとめて納付するほうがよいでしょう。その場合は、国民年金保険料と基金掛け金がまとめて月末に引き落としされます。
また、国民年金保険料は、引き落としができなかった場合に、納付書が送付され、それにより窓口で支払うことになりますが、国民年金基金の場合は、次回引き落としの際に、翌月分と合わせて2カ月分を引き落とすことになります。
掛け金は増やしたり減らしたりできる
毎月の収入が比較的一定しているサラリーマンに比べ、自営業やフリーランスの方は、その時々で収入が異なることもあります。そのような自営業者ならではの生活の状況に応じて、掛け金を増やしたり減らしたりすることができることも特徴です。
収入に余裕があるときには、口数を増やして老後の蓄えを増やし、また余裕がないときには、口数を減らして掛け金を少なくすることもできるのです。事前に申し出れば、加入後であっても毎月の掛け金を1口単位で増減することが可能です。
しかし、1口目は加入の基本となるものであり、1口目を減額して掛金をゼロにするようなことはできません。口数の変更は、2口目から可能となり、7つの給付タイプからいくつかのタイプを組み合わせて口数を増やしたり、また増やした口数を減らしたり組み合わせを変更することで、掛け金を減らすことも可能です。
それぞれのプランで、年金額が確定しているため、将来のライフプランを立てやすいことも特徴です。生活にゆとりができたときには掛け金を上積みしたりなど、そのときのライフスタイルや、将来のプランに合わせた口数の増減が可能となります。口数を変更するときは、「国民年金基金増口・減口申出書」を提出して申請します。
1口の掛け金は年齢と性別で異なる
1口の掛け金は、年齢と性別によって異なり、若い方が安く、年齢が上がるほど高くなっていきます。また、男性よりも女性の方が高く設定されているのも特徴です。これは、統計上、女性の平均寿命が長いため、それを考慮し、女性の掛金額が高くなっているのです。
女性の平均寿命は、80歳代後半にまで上がっているため、年金受給開始の65歳から長期的に支給されることが予測されるためです。したがって、最も掛け金が安いケースは、20歳ちょうどの男性がB型タイプ1口のみに加入した場合となり、月額6,180円の納付となります。
同じタイプに加入した40歳ちょうどの男性の場合は、月額8,990円の納付となります。また、女性の場合は、男性よりも高く、20歳ちょうどで同じタイプに加入した場合、月額7,830円の納付となり、40歳ちょうどでは、月額13,875円の納付となります。
このように若いときに加入すれば、掛け金を安く抑えることができ、その後も、同額の納付を行えばよいことになります。さらに社会保険料控除といった税制上の優遇も、長期間に渡って生かすことができます。
また、男女の別でも平均寿命の差により、掛金額の差がでていますが、長寿国である日本では、男性の平均寿命も上がってきており、80歳を超えています。男女ともに、老後の備えは、早めに開始したほうがよさそうです。
掛け金の上限は68,000円
国民年金基金では、基本となる1口目に終身年金であるA型タイプ、もしくはB型タイプの2種類から選択し、希望により追加で7つのタイプから2口目以降を選び、自由に組み合わせをして、将来支給される年金額を自由に設定することが可能です。掛け金の上限金額は、68,000円となっており、その範囲内で何口加入するかによって、受け取る年金額が決まります。
上限金額内であれば、複数のタイプを組み合わせ、将来受け取る年金額を増やすことも可能です。生活にゆとりがあるときは、掛け金の口数を増やして、老後に受け取る年金を増やしたりなど、そのときの生活に合わせて、老後の蓄えをコントロールすることができるのです。また、特例として46歳以上の中高齢加入者には、上限を102,000円とする場合もあります。
前納すると掛け金が割引になる
毎年4月分から翌年3月分までの1年分の掛け金を、一括して6月1日に前納する場合、掛金の割引があります。0.1ヶ月分の掛け金が割引されますので、一括で前納する額は、11.9ヶ月分の掛け金となります。前納を希望する場合は、その年の4月末日までに申し出ます。また、掛け金の納付方法を毎月納付から一年前納に変更したり、一年前納から毎月納付に切り替えることも可能です。
その場合は、「国民年金基金掛金納付方法変更届」を提出して申請します。すでに前納で支払っている場合は、変更届を提出しない限り、引き続き翌年度以降も前納の取り扱いとなります。また、割引の適用はないものの、年度内の複数月分の掛け金を一括して納付することも可能です。
未納になっても2年間は追納が可能
上限68,000円以内であれば、自由に掛け金の口数を増やし、将来受け取る年金額を増やすことができますが、もしも掛金が支払えなくなった場合には、毎月、事前に申し出ることで、加入口数を減らすことができます。生活の状況によって、口数を増やしたり減らしたりすることができるのです。しかし、口数を減らしてもなお掛金が支払えない場合には、掛金の払い込みを一時中断することになります。
この場合は、その期間が料金未納となり、未納期間に応じて、将来給付される年金が減額されることになります。しかし、未納となっても2年間は、追納をすることが可能となっています。未納掛金を追納することにより、将来給付される年金が減額されるのを防ぐことができます。
国民年金基金の加入と脱退
資料請求を行い申し込む
国民年金基金へ加入することを決めたら、まずは、資料請求を行いましょう。国民年金基金のホームページから資料請求をすることができます。「地域型基金」か「職能型基金」を選択し、住所や氏名、生年月日等を入力すると、住んでいる都道府県の国民年金基金か、もしくは選択した職能型国民年金基金から資料が送付されてきます。
送付されてきた「国民年金基金加入申出書」に必要事項を記入し、加入を希望する国民年金基金へ郵送などで提出します。また、一部の金融機関でも加入の受付を行っていますので、国民年金基金に問い合わせるとよいでしょう。
自分の都合で脱退することはできない
加入が義務づけられている国民年金とは異なり、国民年金基金への加入は任意となります。しかし、いったん加入すると、自分の都合で任意に脱退することはできません。ただし、別の都道府県に住所を移動したり、会社員になったりして、国民年金の第1号被保険者でなくなった場合などは、脱退することになります。
ほかにも加入資格がなくなり、途中脱退できるケースとして「結婚して会社員などの被扶養配偶者になったとき(第3号被保険者)」「職能型基金の加入者が廃業したり、その職業に従事しなくなったとき」「農業者年金に加入したとき」「国民年金保険料が免除されたとき(一部免除・学生納付特例・若年者納付猶予を含む)」といったものがあげられます。
第1号被保険者でなくなると加入資格を喪失してしまう
国民年金基金は、国民年金の保険料を納めている20歳以上60歳未満で、国民年金の第1号被保険者、また60歳以上65歳未満の方で国民年金の任意加入被保険者および海外居住者で、国民年金の任意加入被保険者の方々が加入できるものです。
厚生年金や共済組合に加入している方(第2号被保険者)やその扶養の方(第3号被保険者)など、第1号被保険者でない場合には、国民年金基金の加入資格は与えられません。
したがって、転職などで会社員になり、国民年金の第1号被保険者でなくなったときは、国民年金基金の加入資格を喪失することになります。加入資格を喪失した場合、基金に支払った掛金を途中で引き出すことができませんが、基金または連合会から、将来年金として支給されます。
国民年金基金を上手に活用して余裕のある老後を過ごそう
厚生年金に加入している会社員などとは異なり、国民年金のみに加入している人達は、将来受け取る年金額が少なく、将来に不安を感じる自営業やフリーランスの人も少なくありません。国民年金基金に加入すれば、将来受け取る老齢基礎年金にプラスして、年金を増やすことができます。また、国民年金基金のタイプを組み合わせることで、将来の年金額を増やし、豊かな老後生活を送ることが可能です。
掛け金の上限金額である68,000円以内であれば、口数を自由に組み合わせることができ、途中で口数を増やしたり減らしたりすることも可能なため、無理のない範囲で老後の資金を蓄えることができます。生活にゆとりができたときには、口数を増やして毎月の掛け金に上積みをすれば、将来受け取る年金額を増やすことができます。このように国民年金基金の仕組みを上手に活用すれば、余裕のある老後生活を過ごすことができます。