年金保険料控除で節税対策をする方法【厚生年金の仕組みも】

年金をはじめとしたお金にまつわる問題に頭を悩ます人も少なくないでしょう。しかし、年金についての正しい知識は、節税対策にも役立てることができます。毎月の給与から天引きされているけれど、実態がよくつかめない厚生年金の知識も身につけましょう。

厚生年金制度の基礎情報

納めた保険料によって受給額が変わる

日本の国民は、原則20歳以上になれば、全ての人が国民年金に加入する義務が生じます。そして、その国民年金に上乗せされて給付される年金の一つに、厚生年金があります。厚生年金の加入対象者は、主に会社員やサラリーマンが挙げられます。

また従来、共済年金に加入していた公務員も、2015年10月1日以降は、厚生年金への加入に一本化されました。厚生年金に加入していれば、将来、老後に国民年金に上乗せした金額の年金を受給することができます。

加入期間のみで、受給額が決定する国民年金に比べ、厚生年金の受給額は、計算式が複雑です。加入期間に加えて、加入期間中の給与の平均といった要素も含めて算出しています。簡単に計算式として表すと「平均給与×一定乗率×加入期間」となります。

したがって、厚生年金は、年収がアップするにつれて保険料もアップし、将来受給できる金額も上がっていくのです。国民年金が「定額」なのに比べ、厚生年金は、給料に比例する「報酬比例」となります。

保険料率は毎年引き上げられている

厚生年金の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に、共通の保険料率をかけて計算されます。厚生年金の保険料率は、「保険料水準固定方式」が採用された平成16年から、段階的に引き上げられてきました。

保険料水準固定方式は、少子高齢化の影響を受けて、年金の受給をまかなうために引き上げられた保険料の負担と、給付の見直しを図るために導入されたものになります。あらかじめ最終的な保険料を定めて、その範囲で可能な年金給付を行うという仕組みになります。最終的な保険料に達するまで、保険料は毎年段階的に引き上げられてきました。

そのため、平成16年から、段階的に引き上げられてきた保険料率も、平成29年以降は、18.3%で固定することになりました。保険料水準固定方式は、保険料収入の範囲内でしか年金給付を行わないという制度になりますので、将来、一人当たりの年金給付の水準が下がってしまう可能性もあります。

しかし、保険料収入が上がれば、給付水準は引き上がるという仕組みになっており、国は現役世代の平均的収入の50%以上を確保すると宣言しています。

保険料は会社と本人の折半

法人、個人事業に関わらず、5人以上の従業員がいる場合は、会社は厚生年金などの社会保険に加入しなければならない義務が生じます。そして、週の所定労働時間が20時間以上となっていれば、正社員やパートに関わらず、従業員を社会保険に加入させなければいけません。

さらに、会社は、厚生年金の保険料を被保険者である従業員と半分ずつ負担しなければならないのです。これは法律によって、事業主の社会保険料負担が定められているからであり、会社はこれを守らなければ罰せられてしまいます。

産休中と育休中は免除される

産前産後休業期間、及び育児休業期間中の厚生年金保険料は、会社からの届出により、会社負担分と被保険者負担分が共に免除されます。産前産後休業期間は、産前42日(多胎妊娠の場合は98日)、産後56日のうち、妊娠または出産を理由として、労務に従事しなかった期間のことを指します。

被保険者から、産前産後休業取得の申出があった場合、事業主が「産前産後休業取得者申出書」を日本年金機構へ提出します。また、育児・介護休業法に定められた、満3歳未満の子を養育するための育児休業等期間に基づいて、被保険者の事業主が、年金事務所に申し出ることにより適用されます。

これらの申出は、産前産後休業もしくは、育児休業をしている間に行わなければなりません。また、期間中における給与が、有給か無給であるかは問わずに免除されます。免除期間中であっても、将来、年金額を計算する際は、保険料を納めた期間として扱われます。したがって、免除を受けたからといって、将来受け取る年金額が、少なくなるようなことはありません。

個人事業の場合は国民年金に加入

農家や自営業といった職業の方、または仕事を辞めて失業者となっている方は、国民年金に加入します。平成29年度時点の国民年金受給額は、満額で月額約65,000円程度となります。ただし、満額の条件として、20歳から60歳までの40年間、しっかり保険料を支払った場合に限ります。

したがって条件を満たしていない場合は、さらに受給金額は下がります。国民年金のみでは、将来の老後に不安を感じるという声も多く、国民年金に上乗せする、国民年金基金や個人年金保険へ加入する方もいます。

年金保険料が控除される場合の条件

年金の受け取りが本人か配偶者である

国民年金や厚生年金などの公的年金に、上乗せして加入する私的年金の一つに「個人年金保険」があります。個人年金保険は、契約時に定めた年齢(60歳、65歳など)から、一定期間(5年、10年など)もしくは、一生涯に渡って毎年、一定額の年金が受け取れる貯蓄型の保険となります。

個人年金保険に加入していると、所得控除を受けることができ、納める税金を安くすることができるのです。このことを「個人年金保険料控除」といい、このような所得控除を受けるためには、一定の条件があります。そして、その全ての要件を満たしている必要があるのです。まず、要件の一つとして、個人年金保険の年金受取人が、契約者本人または配偶者のいずれかであることが条件となります。

保険料を支払う期間が10年以上

個人年金保険なら、どんなものでも個人年金保険料の控除の対象になるわけではありません。「個人年金保険料税制適格特約」が、付けられている保険に限られます。この特約を付けるには、一定の条件を全て満たす必要があり、個人年金保険料の払込期間が、10年以上であることも条件の一つとしてあげられます。

たとえば、50歳の方が55歳まで保険料を支払うプランに申し込んだ場合は、保険料払込期間は5年となるため、個人年金保険料控除の要件を満たすことはできません。しかし、60歳まで保険料を支払うプランに申し込めば、要件を満たすため控除を受けることができます。

このとき、一時払いで加入した個人年金保険は、対象外となりますので注意が必要です。また、「個人年金保険料税制適格特約」が付いていない個人年金保険の場合は、一般の生命保険料控除の対象となります。

受取人が被保険者である

個人年金保険料の控除を受けるには、個人年金保険の「年金受取人」が「被保険者」と同一人物であることも条件の一つになります。個人年金保険をはじめとした生命保険の契約は、「契約者」「被保険者」「保険金受取人」の3者で構成されています。個人年金保険に加入する場合は、これら3者を誰にするのかを決める必要があります。

被保険者とは、保障の対象者のことを指し、個人年金保険の保険料は、被保険者の年齢によって計算されるのです。契約者が夫で、被保険者および年金の受取人が妻の場合、この要件を満たしますが、妻が受け取る年金は贈与税の対象となりますので注意が必要です。

厚生年金保険料の計算方法

標準報酬月額に保険料率をかける

厚生年金保険の保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけたものになります。そして、そこで算出された金額を会社と折半にしたものが、従業員が支払う金額となります。したがって給与が上がれば、その分納める保険料も増えることになります。しかし、納める保険料が多ければ、その分、将来受け取れる年金額も多くなるのが、厚生年金保険です。

通常は、会社から支払われている毎月の給料から、厚生年金保険料が天引きされています。保険料率は「保険料水準固定方式」が採用された平成16年以降、徐々に引き上げられてきましたが、平成29年9月分からは、18.3%で固定されています。

標準報酬月額は4月から6月の報酬の平均

厚生年金保険の保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて算出されます。給料の金額に比例して決まるのですが、この保険料を毎月一人ずつ個別に計算をすると、とても膨大な作業を生んでしまいます。そこで、標準報酬月額という仕組みを使って、簡易に保険料を計算できるようにしているのです。

ここでいう標準報酬月額とは、4月から6月にかけての3ヶ月の報酬を平均した金額のことを指しています。したがって、4月から6月にかけての報酬が高くなると、1年間の厚生年金保険料も高くなるのです。

たとえば、4月から6月の残業代が増えた場合には、その分、厚生年金保険料の負担が増える、ということになります。そして、4月から6月の給与で決まった標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月までの1年間利用されることになります。

平均が変動した場合は随時改定される

標準報酬月額は、4月から6月の給与を平均したものになりますが、昇給や降給、またパートから正社員へ雇用契約が変更したりなど、報酬額が大きく変わった場合には、標準報酬月額の随時改訂が行われます。これは、報酬額が大幅に変更したにもかかわらず、標準報酬月額を変更しないでいると、実際に受け取る報酬に対し、厚生年金保険料が、多すぎたり少なすぎたりすることが生じるためです。それを防ぐために、標準報酬月額の随時改訂があります。

具体的に、どのくらいの報酬額の変動があった場合に、随時改定が適用されるかというと、変動月からの3ヶ月間に支給された報酬(残業代を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と、それまでの標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じた場合になります。

厚生年金保険には、標準報酬月額の等級が定められており、2等級以上の差が生じるかどうかについては、全国健康保険協会のホームページにある、保険料額表で確認することができます。また、随時改訂の際には、月額変更届を提出する必要があります。

賞与からも保険料をかけて算出される

従来、厚生年金保険料は、毎月の給与に保険料率をかけたもののみが引かれていました。しかし、この場合、ボーナスの多い人は、厚生年金保険料の負担が軽くなることから、平成15年4月より「賞与」すなわちボーナスからも、厚生年金保険料が徴収されるようになったのです。ボーナスとは、賃金、給料、俸給、賞与等の名称を問わず、年3回以下の回数で支給されるものを指します。

4回以上に渡って支給されるものは、ボーナス扱いとはなりません。この場合は、標準報酬月額の対象となる報酬とみなされます。ボーナスにかかる厚生年金の保険料は、ボーナスの金額から1,000円未満の端数を切り捨てた額を「標準賞与額」とみなし、そこに保険料率をかけたものになります。

計算サイトやエクセルを利用する

計算サイトやエクセルを利用して、毎月の厚生年金保険料を計算することができます。厚生年金保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけて計算されますので、自分の標準報酬月額が、いくらなのかという情報が必要になります。

標準報酬月額は、毎年4月から6月にかけての3ヶ月分の報酬の平均額になります。この報酬には、毎月支給されているものの全てが入るとみなされます。したがって、残業代や通勤交通費も報酬に含まれます。数ヶ月分の通勤定期代が、まとめて支払われる場合もありますが、この場合は、そのうちの1ヶ月分に相当する額が1ヶ月分の報酬に加算されます。

計算サイトでは、毎月の標準報酬月額給の金額を入力したり、保険料率を選択して、毎月の給与から天引きされるべき、厚生年金保険料を算出してくれます。保険料率は、平成29年9月以降、18.3%となっています。エクセルで計算する場合は、標準報酬月額と保険料率をかけて、2で割る計算式を入れれば、自分が負担する分の厚生年金保険料を、算出することができます。

たとえば、標準報酬月額をA2のセルに入力し、保険料率をB2のセルに入力した場合、計算式は「=A2*B2/2」となり、その式を別のセルに「厚生年金保険料」として入力すれば、給与から天引きされるべき厚生年金保険料を、算出することができます。

正しい知識を身につけて節税に役立てよう

国民年金や厚生年金、また個人年金保険へ加入している場合は、所得控除を受けることができ、納める所得税を安く抑えることができます。会社勤めの方は、年末調整の際に控除してくれているため、特に手続きは不要となりますが、フリーランスや個人事業主の方は、確定申告をすることによって、社会保険料控除を受けることができます。

また、会社は、給与から天引きしている、厚生年金および国民年金については把握していますが、各自で納めている個人年金保険については把握していません。したがって、個人年金保険料の控除については、年末調整の前に会社に申告しておく必要があります。年金についての正しい知識を身につけて、節税に役立てましょう。

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