「合同会社を設立するメリットって何なのだろう?」
「合同会社は株式会社よりも安く設立できると聞いたけど、何か裏があるんじゃないだろうか…?」
結論から述べると合同会社は株式会社よりも安く設立できますが、一方でデメリットもいくつかあります。
しかし、どのデメリットも些細なものであるうえ、「やっぱり株式会社が良かった…」と後悔した場合でも簡単に組織変更できます。
そのため、合同会社は低リスクで設立できる会社形態となっているのです!
この記事では、そんな合同会社と株式会社の違いや、設立するメリット・デメリットについて解説します。
記事の後半では合同会社が向いているのはどんな人なのかも解説しているので、設立の際の判断材料にしてくださいね。
なお、会社形態には合同会社や株式会社の他に、合資会社や合名会社なども存在します。
以下の記事ではそれぞれの特徴を解説しているので、これを読めば会社形態に関する知識がより深まりますよ。
目次
1.そもそも合同会社とは?大手外資企業も続々と移行している会社形態!
合同会社とは、新会社法の施行に伴って生まれた会社形態の1つです。
一般的にはあまり認知されていませんが、実はGoogleやApple、Amazonといった大手外資企業も続々と合同会社へと移行しています。
詳しくは『4.株式会社と比較したときの合同会社のメリット』でも解説していますが、合同会社は株式会社と比べて組織構造や意思決定の手続きが非常にシンプルです。
そのため、迅速な経営判断を下しやすく、それを実行するまでの期間も短く済むのです。
合同会社にはこういったメリットが数多くあるため、近年着実に設立数を伸ばし続けています。
実際に、東京商工リサーチの調査によると、2019年における合同会社の設立数は30,424社で、新設法人の約4社に1社が合同会社という結果になりました。
引用:東京商工リサーチ『2019年「合同会社」の新設法人調査』
このことから分かるとおり、合同会社は今大きな注目を浴びています。
もちろん、知名度という点では株式会社のほうがメジャーですが、今後はその差も徐々に埋まっていくことでしょう。
2.合同会社と株式会社の違い
合同会社のことをより深く理解するためにも、株式会社との違いを見てみましょう。
合同会社 | 株式会社 | |
設立費用 | 6万〜10万円 | 20万〜24万円 |
定款認証 | 不要 | 必要 |
代表者名称 | 代表社員 | 代表取締役 |
配当 | 自由 | 出資額に応じて変動 |
決算公告 | 不要 | 必要 |
社会的信用度 | 株式会社よりは低い | 高い |
増資手続きの幅 | 株式会社よりは狭い | 広い |
上場の可否 | 不可 | 可能 |
役員の任期 | なし | 最長10年 |
資本金 | 1円から | 1円から |
出資者 | 1人から | 1人から |
責任範囲 | 有限 | 有限 |
上記の表のうち、青字で書かれているものは一般的にメリットとして捉えられているもので、赤字はデメリットとなっています。
こうして比較してみると、やはり合同会社のメリットである「設立費用の安さ」や「定款認証が不要であること」が目立ちます。
逆に、社会的信用度は株式会社のほうが高いため、たとえば新規取引先の開拓を第一目的にしている方は合同会社に不満を感じるかもしれません。
とはいえ、その社会的信用度の差も実際はそこまで大きな問題ではないので、総合的に合同会社のほうが有利な面が多いです。
3.株式会社と比較したときの合同会社のデメリット
株式会社と比較したときの合同会社のデメリットは、以下の3つが挙げられます。
- デメリット1:社会的信用度は株式会社のほうが高い
- デメリット2:増資手続きの幅が狭い
- デメリット3:社員同士が対立した後の対応が難しい
一般的に、合同会社は「設立費用が安いのには何か理由があるんじゃないか?」「実際に設立して後悔しないだろうか?」と警戒されることが多いです。
しかし、これらのデメリットを読んでいただければ分かるとおり、どれも決して大きいものではありません。
また、後述のとおり株式会社への組織変更もできるので、合同会社は気軽に設立できる会社形態だといえるでしょう。
デメリット1:社会的信用度は株式会社のほうが高い
社会的信用度という点に関していうと、合同会社よりも株式会社のほうが高いです。
これは単純に、合同会社の歴史がまだ浅く、日本社会に浸透していないことが原因だといえるでしょう。
また、株式会社では代表者を「代表取締役」と呼びますが、合同会社はあくまで「代表社員」という肩書になります。
あまり一般的な肩書ではないため、名刺を渡した際に「この人はどういう立場の人なのだろう?」と相手に疑問を持たれることも多いです。
こう聞くと「名刺交換の際に恥ずかしい思いをするのでは…?」と心配する方もいますが、そこまで気にするほど大きな問題ではないでしょう。
なお、まれに「合同会社は社会的信用度が低いので金融機関から融資を受けづらい」という意見を聞くことがありますが、これは間違いです。
融資の際、金融機関が問うのはあくまで利益を出せる能力や自己資金であって、会社形態の違いはまったく問題ではないからですね。
そのため、「会社形態を間違えると融資が受けられないかもしれない…」と不安な方も、安心して合同会社を選びましょう。
デメリット2:増資手続きの幅が狭い
合同会社は株式会社に比べると、増資手続きの幅が狭いです。
株式会社には、特定の第三者に対して新株を引き受けさせる第三者割当増資という資金調達方法があります。
ところが、合同会社には株式会社のように第三者から増資を受ける方法がなく、増資するには必ずその会社の社員にならなければなりません。
第三者から資金調達する手段がないため、合同会社はどちらかというと小規模事業者向けの会社形態だといえるでしょう。
デメリット3:社員同士が対立した後の対応が難しい
株式会社の場合、役員同士の間で対立が生まれたとしても、株主の同意を得ればその人を解任できます。
しかし、合同会社は社員1人1人が平等に議決権を持っているため、社員同士が対立した後の対応が難しいです。
また、原則的に社員全員が業務執行に当たることになっているため、対立が起きると業務に支障が出やすいです。
ただし、定款で議決権の例外を設けることも可能なので、合同会社設立時は、慎重に議決要件を決めるようにしましょう。
4.株式会社と比較したときの合同会社のメリット
株式会社と比較したときの合同会社のメリットは、以下の5つが挙げられます。
- メリット1:設立費用が安い
- メリット2:公証役場の認証手続きが不要
- メリット3:決算公告の義務がない
- メリット4:役員任期がない
- メリット5:配当を自由に設定できる
このうち、特に大きいのが1つ目のメリットである「設立費用の安さ」です。
合同会社は株式会社よりも設立費用を安く済ませられるうえ、税務面での違いもありません。
そのため、特に株式会社にする理由がない場合は合同会社を選択するのがおすすめです。
メリット1:設立費用が安い
株式会社の設立費用が約20万〜24万円なのに対し、合同会社は6万〜10万円となっています。
合同会社は株式会社より登録免許税が少ないうえ、定款認証も不要だからですね。
具体的な設立費用の内訳は以下のとおりです。
合同会社 | 株式会社 | |
登録免許税 | 6万円 | 15万円 |
定款の認証手数料 | 0円 | 5万円 |
定款の謄本手数料 | 0円 | 2,000円 |
定款の収入印紙 | 4万円 (電子定款の場合は無料) |
4万円 (電子定款の場合は無料) |
総額 | 10万円 (電子定款の場合は6万円) |
24万2,000円 (電子定款の場合は20万2,000円) |
実際は資本金の設定額によって微妙に異なりますが、合同会社の設立費用は株式会社の半分以下となっています。
そのため、コスト面での負担が少なく、気軽に設立しやすいのです。
メリット2:公証役場での認証手続きが不要
株式会社の場合、定款に関する不正や紛争を未然に防ぐために、公証役場での認証手続きが義務づけられています。
しかし、合同会社の場合、定款の作成や変更を行うには社員全員の同意が必要となるため、「知らない間に定款の内容が変更されていた」という事態が発生しません。
つまり、公証役場という外部の組織が認証しなくても、定款に関する争いごとが起こりにくいのです。
そのため、合同会社は定款の認証手続きが義務づけられておらず、株式会社よりもスピーディに設立できます。
メリット3:決算公告の義務がない
会社法440条に定められているとおり、株式会社は毎年決算公告することを義務づけられています。
それに対し、合同会社は決算公告の義務がないため、年間6万円の決算公告費用を削減できます。
また、会社の経営状況も知られにくくなるため、取引先との関係性を重視している方も安心だといえるでしょう。
メリット4:役員任期がない
株式会社の場合、役員任期が最長10年となっており、退任でも再任でも必ず登記簿を書き換える必要があります。
登記簿を書き換えるには法務局への申請が必要ですから、最低でも10年に1回は手間とコストが発生するわけです。
これに対し、合同会社では役員のことを社員と呼びますが、この社員にはそもそも任期がありません。
そのため、登記簿を書き換える手間やコストが掛からないのです。
メリット5:配当を自由に設定できる
株式会社の場合、配当額は出資金の割合に応じて変わります。
それに対し、合同会社は配当を自由に決定できるため、たとえば会社に貢献した人への見返りとして多くの配当を渡すことが可能です。
特に、この恩恵が受けられるのは「出資金を捻出できない優秀な人」でしょう。
以前までは、どれほど優秀な人だったとしても、出資金が少なければそれに応じた額の配当しかもらえませんでした。
しかし、合同会社が登場し始めたことにより、「出資金を捻出できない優秀な人」に配当を多く支払うことが可能になりました。
5.合同会社がおすすめな人と株式会社がおすすめな人
上記のメリットとデメリットを知ると、それぞれの会社形態に向いている人が見えてきます。
合同会社がおすすめな人 | ・1人で会社を経営したい人 ・設立の手間をなるべく掛けたくない人 ・設立費用をなるべく安く済ませたい人 |
株式会社がおすすめな人 | ・社会的信用度を重視する人 ・資金調達のしやすさや額を重視する人 ・今後の事業拡大をすでに視野に入れている人 |
上記のとおりで、合同会社は会社設立のハードルをなるべく下げたい人や小規模事業者に向いています。
それに対し、株式会社は社員数を増やしたい方や、巨額の資金を集めて大規模事業を起こしたい方におすすめです。
6.合同会社を設立する手続き
合同会社を設立する流れは、以下の4ステップに分かれています。
- ステップ1:基本事項を決める
- ステップ2:定款や登記書類を作成する
- ステップ3:法務局で登記申請する
- ステップ4:諸官庁で手続きをする
このうち、ステップ4は設立後に行うものであるため、実質的な設立手続きはステップ1〜3までで完了します。
また株式会社の場合、ここに定款の認証も加わりますから、やはり合同会社のほうが手続きに掛かる手間が少ないといえるでしょう。
ステップ1:基本事項を決める
会社を設立するためには、まず基本事項を決める必要があります。
ここでいう基本事項とは、主に以下の8つです。
目的 | その会社で行う事業の目的や内容 |
商号 | その会社の名称 |
本店の所在地 | その会社が置かれている住所 |
社員の氏名又は名称および住所 | その会社を設立するにあたって出資した人の名前や住所 |
社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別 | その会社の社員の責任範囲(合同会社の場合は有限社員で統一) |
社員の出資の目的(有限責任社員にあっては、金銭等に限る。)及びその価額又は評価の標準 | 社員が出資しているものの種類や額、価値 |
事業年度 |
その会社の始期日と終了日によって定められた期間 |
公告の方法 | その会社の決算公告を掲載する方法 |
このうち、赤字で書かれているものは、会社法576条で絶対的記載事項と定められているものです。
「事業年度」や「公告の方法」に関しては任意なので、必要性に応じて決めましょう。
また、株式会社の場合、取締役や監査役といった機関設計を決める必要がありますが、合同会社の場合は不要です。
これは、合同会社が原則的に社員全員で経営を行うことになっているためです。
ステップ2:定款や登記書類を作成する
会社の基本事項を決めたら次に定款や登記書類を作成しましょう。
このうち、定款とは会社の決まりを定めたルールブックのようなもので、登記とはその会社の情報を法務局に登録することを指します。
この定款や登記書類を作成するに当たって、目を通しておきたいのが日本公証人連合会や法務局が公開している記載例です。
特に、法務局のサイトでは登記の申請書様式がダウンロードできるので、ぜひ活用してください。
なお『メリット2:公証役場での認証手続きが不要』でも解説しているとおり、合同会社は定款を作成しても認証手続きをする必要がありません。
また、フォーマットも特に決まっていませんが、重要な書類であることに違いはないので記載例や雛形を参考にしながら内容を埋めていきましょう。
ちなみに、定款を作成する負担を少しでも減らしたい方は、以下の記事がおすすめです。
ステップ3:法務局で登記申請する
定款や登記書類を作成したら、いよいよ法務局で登記申請することになります。
申請方法は、以下の3種類です。
- 窓口申請
- 郵送申請
- オンライン申請
以前までは、分からないことを直接質問できる窓口申請が主流でしたが、最近はコロナ禍の影響で郵送申請やオンライン申請の需要も増えています。
提出する書類の内容が変わるわけではないので、本業の忙しさなども考慮したうえで、自分に合った申請方法を決めましょう。
なお、審査に掛かる期間はおよそ1〜2週間程度で、それが終われば晴れて会社設立となります。
ステップ4:諸官庁で手続きをする
会社設立した後も、実はいくつか済ませておかなくてはならない手続きがあります。
具体的には以下の8つです。
- 法務局で印鑑証明書や登記事項証明書を発行する
- 税務署で法人設立届出書や青色申告の承認申請書などを提出する
- 都道府県税事務所で法人設立届出書を提出する
- 市町村役場で法人設立届出書を提出する
- 年金事務所で保険に関する届け出をする
- ハローワークで雇用保険に関する届け出をする
- 労働基準監督署で労働保険に関する届け出をする
- 金融機関で法人口座を開設する
このうち、特に優先度が高いのは1つ目の法務局での手続きでしょう。
印鑑証明書や登記事項証明書は様々な場面で使う重要な書類なので、先に発行しておくと他の手続きがスムーズに進みやすくなります。
なお、ハローワークや労働基準監督署への届け出は、従業員を雇用した時に行うものなので、1人会社の場合は手続きが不要です。
従業員を採用した際に手続きしましょう。
なお、会社設立後に提出する書類は以下の記事でまとめているのでぜひ参考にしてくださいね。
7.「やっぱり株式会社が良かった…」という方は組織変更も可能
「合同会社のメリット・デメリットについて分かった」
「でも、今のところは規模が小さいけど、後から事業を拡大したくなったらどうしよう…?」
ここまで読んできた方の中には、合同会社設立の決心がまだつかない方がいるのではないでしょうか。
会社法743条に定められているとおり、実は合同会社は株式会社への組織変更が認められています。
しかも、変更に必要な期間は1〜2ヶ月程度かかりますが、最初から株式会社を設立するよりも費用を安く抑えられます。
つまり、仮に会社形態を間違って選んだとしても、リスクはほとんどないということですね。
最初から株式会社を設立した場合の費用 | 合同会社を設立した後に株式会社へと組織変更した場合の費用 | |
登録免許税 | 15万円 | 6万円 |
定款の認証手数料 | 5万円 | 0円 |
定款の謄本手数料 | 2,000円 | 0円 |
定款の収入印紙代 | 4万円 (電子定款の場合は無料) |
4万円 (電子定款の場合は無料) |
組織変更の登録免許税 | ー | 6万円 |
官報公告の費用 | ー | 約3万円 |
総額 | 24万2,000円 (電子定款の場合は20万2,000円) |
約19万円 (電子定款の場合は約15万円) |
上記のとおりで、組織変更の手間こそ掛かるものの、総額はむしろ組織変更したほうが安く抑えられます。
このことから分かるとおり、合同会社設立を恐れる必要性はまったくありません。
合同会社と株式会社で迷っているならまずは合同会社を選択し、その後、株式会社にする理由ができた時に組織変更するのがおすすめです。
まとめ
この記事では以下の内容について解説しました。
- 合同会社とは大手外資企業も続々と移行している会社形態
- 合同会社と株式会社の違い
- 株式会社と比較したときの合同会社のデメリット
- 株式会社と比較したときの合同会社のメリット
- 合同会社がおすすめな人と株式会社がおすすめな人
- 合同会社を設立する手続き
- 後から合同会社から株式会社に組織変更可能
合同会社には、「設立費用が安い」「手続きが簡単」「配当金を自由に設定できる」など多くのメリットがあるため、「設立費用が安いのには何か理由があるんじゃないか?」「実際に設立して後悔しないだろうか?」と警戒されることが多いです。
しかし、合同会社設立を恐れる必要はありません。
これまで説明したとおり、合同会社にもデメリットはありますが、どれも大きいものではないからですね。
また、株式会社への組織変更も簡単にできるので、仮に会社の種類を間違って選んだとしてもダメージは少ないです。
「それでもやっぱり不安…」という方は、今回紹介したメリットとデメリットをご自身に照らし合わせながら、設立を検討してくださいね。