開業費は費用として償却できる。正しく計上して節税につなげよう

減価償却の特徴

開業費の合計が10万円以上である

個人事業主や法人として開業する際にあたっては、事業に必要な物品を揃えたり、事業内容を顧客へ宣伝したりするための費用がかかることでしょう。個人事業主の場合は「営業を開始するまでにかかった一切の費用」、法人の場合は「法人が設立されてから営業が開始されるまでに特別にかかった準備費用」について、経費に計上することができます。計上できる費用の一例としては以下のようなものがあげられます。

☑事業宣伝のためにチラシを作成する等の広告宣伝費
☑顧客や関係者と打ち合わせを行うなどの接待交際費や旅費交通費
☑事業に必要な許認可取得のための費用
☑事業の印鑑や名刺の作成費用
☑店舗の工事費用
☑事業に必要な書籍の購入費用
☑市場調査のための費用
☑事業で使用するパソコンのソフトウェアの費用
☑webサイトの構築費

経費に計上する際、開業にかかった費用は「開業費」とよびます。この開業費は、合計が10万円以上か、10万円未満かで扱いが変わってきます。

合計が10万円以上であった場合、かかった費用は「開業費」として繰延資産に計上し、減価償却の対象となります。そして、確定申告時に「開業償却費」として経費に計上することとなります。一方、合計が10万円未満の場合は、開業日の日付で、各費用内容に該当する勘定科目を使用して経費計上することができます。

なお、1つあたりの取得価額が10万円以上となる備品については、開業費ではなく固定資産となり、別に価償却が必要となりますので注意しましょう。

5年に分けて経費計上する

「開業費」は繰延資産という資産科目で計上しますので、その後、毎年少しずつ経費として償却していくこととなります。この償却期間は、会計上では5年で均等償却することとなります。ただし、税法上は任意償却となっています。そのため、開業費のうち各年で経費とする金額については自由に決定することもできます。

経費計上で節税につながる

開業費をきちんと計上し、償却もしくは一括計上によって経費計上すると、その分課税所得が少なくなるため、節税につながります。特に開業費が10万円以上であった場合は、5年の均等償却にすると、5年間にわたって毎年一定金額が経費として計上されるため、毎年一定の節税効果が生まれます。

また、任意償却とした場合には、所得の少ない年には償却費用を少なくし、所得が多い年には償却費用を多くするといったことができます。すると、所得が多い年の課税所得をより少なくすることができ、節税につなげられるといえるでしょう。

開業費を償却する時のポイント

開業費の領収書は保管しておく

会計帳簿をつけるにあたっては、証跡がなければなりません。そのため、開業費としてかかった費用の領収書やレシートは、必ず保管しておくようにしましょう。ですが、少額の旅費交通費(バスや近距離の電車など)や接待交際費の割り勘費用、慶弔費用など、どうしても領収書を出すことができない場合もあるかと思います。

そのときは、自分で出金伝票を書いておくようにしましょう。支払が発生した理由などをメモするなどしておくと、より信頼性が担保され、自分が後で見返した際もわかりやすくなります。

仕訳帳へ入力して管理する

開業費の合計が10万円以上となった場合、「開業費」は資産の科目、「開業償却費」は経費の科目として仕訳帳に記入しましょう。

例として、4月1日に開業し、開業費の合計は200,000円で、すべて現金で支払った場合を想定してみましょう。このときの開業費の仕訳と開業償却費の仕訳を、以下で考えてみます。なお、ここでは、5年で均等償却する場合の仕訳入力を示します。

まずは、資産科目の仕訳は次のようになります。開業日の日付(4月1日)で記入します。

☑借方:開業費 200,000
☑貸方:現金 200,000

また、年度の償却金額は次のように計算します。

☑開業費全額÷5年×当該年度の月数/12ヶ月

このため、初年度の償却費は

☑200,000÷5年×9ヶ月/12ヶ月=30,000円 となります。

よって、初年度の経費科目の仕訳は次のようになります。

☑借方:開業償却費 30,000
☑貸方:開業費 30,000

なお、開業費の合計が10万円未満となった場合には、通常の経費計上の仕訳で記入しましょう。たとえば交通費が10,000円だけかかり、現金で支払ったような場合には

☑借方:旅費交通費 10,000
☑貸方:現金 10,000

となります。

この場合、日付は実際に経費がかかった日付(開業日前の日付)ではなく、開業日の日付として構いません。

任意償却で金額を自由に決められる

開業費は5年で均等償却すると決まっているわけではないため、任意償却として、毎年バラバラの金額を償却費用として計上することも可能です。なお、任意償却の金額は、0円~前期末までの未償却残高の範囲内で自由に決められます。

初年度に全額償却することも可能ですので、初年度から大幅に黒字となったような場合には、課税所得をできるだけ減らすために、初年度に開業費を全額償却してもよいでしょう。一方、開業して数年は売上があがらず、赤字になることもあるかもしれません。

その場合は、売上があがらないうちは開業費償却を行わず、数年経って売上が安定するようになってから開業費償却を行うことも可能です。

また、任意償却の未償却残高は、いつでも経費に計上することが可能です。均等償却は5年ですが、この5年を経過した後に未償却残高を経費計上してはいけないというような規定は無いため、6年目でも7年目でも経費計上をすることができます。

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減価償却資産台帳へ記入する

10万円以上の開業費を申告する場合は、仕訳帳への記入だけではなく、「減価償却資産台帳」への記入も必要です。開業費は繰延資産であり、繰延資産は取得から減価償却、売却や除去といったすべての経緯を減価償却資産台帳に記載し、管理する必要があるためです。

開業費を申告する場合は、減価償却資産台帳への記入も忘れずに行いましょう。また、もしも開業費の修正などが発生した場合は、仕訳帳と減価償却資産台帳、両方の修正が必要となります。どちらか一方の修正が漏れてしまわないように、注意するようにしましょう。

開業費は開業前の費用も含むことが可能

今までお伝えしてきたように、開業費は、開業前の費用を含むことが可能になっています。事業を行うにあたって必要となった費用は、帳簿をつけない開業前の時期のことであっても、すべて含まれるのです。

では、いったい開業した日からいつまで遡って開業費用を計上することができるのでしょうか。一般的に、開業するために必要な期間は数ヶ月から半年程度と考えられています。そのため、本当に開業のために必要であったとしても、何年も前にかかった費用を計上することは不自然に映ってしまうかもしれません。

特に、開業の準備が年単位で長くかかってしまうような場合には、領収書やレシートを保存しておくことはもちろんのこと、目的や使用用途、購入理由などをメモするなどして、証跡をきちんと残しておくことが必要だといえるでしょう。

開業費を償却して節税しよう

事業形態が個人事業主であっても法人であっても、開業に必要であった物品等の費用については「開業費」として計上できることがわかりました。

そして、計上の方法は開業費の合計金額によって異なり、10万円を超える場合には償却計上することとなります。償却する場合には、5年間の均等償却か期間の定めがない任意償却が可能であり、特に任意償却をすると、効果的な節税が可能となる場合もあります。

開業費が多くかかった場合には償却計上を行って、正しく帳簿をつけながらも節税をしていきましょう。

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