仕事を辞める時、するべき手続きがいろいろありますが、重要なことの1つに、健康保険の資格喪失があります。その後の保険の選択肢の1つとして、健康保険を任意継続するものがありますが、メリット、デメリットなどを理解した上で検討するようにしましょう。
目次
任意継続被保険者の条件
継続して2ヶ月以上の被保険者期間がある
仕事を退職すると、健康保険の資格は喪失されます。その後、医療機関を利用するためには、別の保険に加入しないと全額自己負担という大変なことになります。ここで、一度は聞くのが健康保険の「任意継続」です。
任意継続ってどういうこと?つまりは、希望して継続するということです。強制加入ではありません。
任意継続に加入するには、健康保険資格喪失時に継続して2ヶ月以上の健康保険の被保険者期間が必要です。これは、もちろん退職した企業に2ヶ月以上勤務していれば、問題ありません。
では、1つの企業でなければダメかというと、そうではない場合もあります。資格喪失は退職日の翌日になります。そして加入の資格は就職日の当日からです。なので、退職日の翌日に入職していれば、2つの企業で加入期間が継続できます。
資格喪失日から20日以内に申請する
健康保険の任意継続に加入するためには退職した後に保険者である健康保険協会、または健康保険組合に申請をする必要があります。
ここで、「任意継続被保険者資格取得申出書」という書類を20日以内に提出します。そして退職した事業所からも資格喪失届が提出されます。もしも、20日を過ぎると加入はできません。事故、病気、天災などの例外的な事由で日にちを待ってくれる場合もあるようです。
任意継続の保険証が届く前に医療機関を受診したときは、医療機関では全額自己負担にはなりますが、保険証が手元に届いたときに「療養費支給申請書」を健康保険協会に提出すると保険負担分は返金されます。
健康保険の任意継続の保険料について
保険料は標準報酬月額によって決まる
ここで気になるのが保険料ですが、事業所に属していた時は個人と雇い主の折半でした。任意継続では単純に2倍になるのか?実はその保険料の目安になるのが「標準報酬月額」というものです。
月給制だった人ならば、聞いたことはあるかもしれません。過去に勤務していた事業所で支払われていた給料、その標準報酬月額には基準があり、主に、月給、残業代などの手当て、通勤手当、現物支給された報酬、などを含みます。
この標準報酬月額の金額は、4月、5月、6月分の収入により決まるそうです。標準報酬月額は自分の給与明細書に記入されている場合もあるようです。もしくは会社の事務担当者に聞いてみてもよいでしょう。
給与明細書に記載されていなくて、自分で確認したいとき、給与明細書の「健康保険料」と「厚生年金保険料」とで健康保険協会の平成○○年度保険料額表という表を見れば分かります。各都道府県、年度、年齢により違うので注意して確認してください。
そして、保険料はこの標準報酬月額に現在の住まいの都道府県別保険料率というものを掛け合わせて算出されます。保険料率は都道府県により、また、その年度が変わると変更されます。
初回納付を納付しなければ資格は喪失する
任意継続の資格取得申出書が受理されると、保険料納付の納付書が送られてきます。納付期限には注意して、必ず期限内に納付しないと資格は喪失されます。保険料納付は銀行、郵便局、コンビニエンスストアでもインターネットでもできます。
初回だから少しくらい待ってくれると思わずに、もし緊急事態で納付が遅れそうなら健康保険協会にすぐに連絡したほうがよいですね。
ちなみに毎月の納付書は、月初めに届き、期限は1日〜10日です。他に6ヶ月分の前納や12ヶ月分の前納ができます。前納すると保険料の割引があります。割引率は健康保険協会により違いがあります。
退職後の健康保険制度への加入の種類
継続する場合の健康保険任意継続
退職後の保険をどうするかには、3つの選択肢があります。先ずは健康保険任意継続。任意継続というからには、希望して届け出を出し、保険料を納めると任意継続と書かれた健康保険協会または健康保険組合の被保険者証が届きます。
任意継続の保険に加入すると、在職中の保険との違いがあります。それは、保険給付です。在職中には給付されていた、傷病手当金・出産手当金、この2つは支給されません。注意が必要です。ただし、退職したときに現に支給を受けていれば、残りの期間受けることができます。これを継続給付といいます。
そして、死亡に関する給付については、継続給付中、または、継続給付終了後3ヶ月以内、健康保険の資格喪失後3ヶ月以内のときは埋葬料の支給があります。
出産に関する給付でも、資格を喪失する前日まで継続して1年以上被保険者であった場合、6ヶ月以内に出産すると、出産育児一時金が支給されます。
国民健康保険係に相談する国民健康保険
任意継続に加入せずに国民健康保険に加入するという選択もあります。任意継続と違い、加入期間に期限がありません。国民健康保険の保険料は前年度の収入により決定されます。
国民健康保険料にも前納による割引があります。また同一住居で家族がいるなら、1つの世帯としての保険にしたほうが安い場合も。そして国民健康保険は自治体、市区町村により金額が異なるため、安い自治体に引っ越す人もいるようです。
また、退職理由が、倒産や解雇などの理由の時は、国民や健康保険料が軽減される制度もあります。これは、平成22年からの制度で「非自発的失業者に係る国民健康保険税の軽減」というものです。
国民健康保険に加入したいときは市区町村役場に健康保険資格喪失証明書を持って手続きします。国民健康保険の給付と健康保険の給付に違いはあるのという疑問もあるでしょう。国民健康保険の給付には、3つの種類があります。
1つ目は「法定必須給付」。これは、いわゆる医療機関で係る療養や入院費用高額療養費など健康保険と同じで必ず、支給されます。次に「法定任意給付」。これには出産育児一時金、葬祭費・埋葬料などがあります。任意とはありますが、ほとんどの自治体国民健康保険組合では支給されています。
さらに「任意給付」というものの項目に傷病手当金や出産手当金が含まれます。これは、実際にはほとんど給付されていないようです。任意継続でもこれらの手当金は無いので、同じですね。上記3つの給付は健康保険ではすべて給付されます。
被扶養者の勤務先に連絡する被扶養者
そして、3番目の選択として、家族の被扶養者として健康保険に加入するという方法。被保険者である家族が勤務する勤務先に届出します。この場合、被扶養者本人は保険料を払う必要はありません。
そして被保険者本人の保険料ですが、扶養者が加入しても保険料は上がりません。ただし、被保険者が介護保険の第2号被保険者40歳以上65歳未満で、介護保険料も控除されていれば、被扶養者も第2号であった場合は介護保険料は控除されませんが、被扶養者のみが第2号被保険者のときは、新たに介護保険料として保険料が上乗せされます。
任意継続の被扶養者の範囲
同居要件を必要としない場合
任意継続の被扶養者の要件として、同居を必要としないのは、加入者本人の父母、祖父母、配偶者(内縁関係を含む)、子、孫及び加入者の弟妹です。つまり、もっとも近い血縁関係と自分より若い妹弟です。
同居要件を必要とする場合
同居をしていれば、加入者本人の兄、姉、叔父伯母、甥姪などとその配偶者、加入者本人の子、孫及び弟妹の配偶者、配偶者の父母や子など、上記以外(同居を必要としない場合)の三親等内の親族、加入者本人と内縁関係にある配偶者の父母及び子になります。
範囲が広くて分かりにくいかもしれませんが、あくまでも同居していて生計が1つということです。同居の要件の範囲だけど、仕事をしている人がいる場合もありますよね。
任意継続の被扶養者の収入要件
家族の年収が130万円未満
もう1つ大事な要件の収入額には要注意です。家族の被扶養者の年収が130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の方は180万円未満)であるということ。そして、扶養の事実を確認できる書類が必要です。それは、収入要件を満たすことができる全ての種類のことです。
収入がない人は所得証明書または非課税証明書(市区町村発行)、アルバイトなどは、給与証明、源泉徴収票の写し・自営業や農業、不動産収入がある人は確定申告書の写し、会社を退職された人は、離職票や雇用保険受給資格者証の写し、年金収入のある人は、年金の振込通知書、改定通知書の写しなどです。年金収入は遺族年金も含まれます。
16歳未満の人は収入証明書は不必要で、高校生以上は昼間の学校名学年の記入だけで省略できます。また、同居していることが要件の場合には住民票が必要になります。
別居の場合は家族の年収が被保険者からの仕送り額より少ない
別居の場合も家族の年収が130万円未満(60歳以上または障害年金受給者は180万円未満)ということは同じです。そして、家族の年収が被保険者からの仕送り額より少ないこと。仕送り額って、証明書類みたいなものが必要でしょうか?
仕送りの送金は、金融機関への振込か、書留のみが認められるそうです。書類としては、振込のコピーか書留の表紙のコピーが必要です。
健康保険の任意継続被保険者の資格喪失になる条件
任意継続被保険者になってから2年経過した時
任意継続の健康保険は、加入期間が2年と決められています。2年経過すると、資格は喪失します。資格喪失の通知が届いたときは、速やかに被保険者証を返却しなければなりません。そして、そのときこそ、国民健康保険の加入の時期ということですね。
では、一度資格喪失して、国民健康保険に加入したら、再びは加入できないのか?という疑問が残ります。これはそうではなく、その後新しい会社で2ヶ月以上働いて、再び退職したときには、新たに加入することができます。
保険料を納付期日までに納付しなかった時
任意継続の資格は保険料を納付しなければ、喪失します。遅れて払ってもだめということです。納付期限には注意しなければなりませんね。
よく、2年の加入期間の途中で国民保険に加入したいから、とか家族の健康保険の被扶養者になるから、という理由で、任意継続を辞めたいという場合があるそうです。そのような理由での資格喪失は認められていないようです。
就職して被保険者資格を取得した時
もしも、加入期間中に、新しい職場に就職したら、どうなるのでしょう?もちろん、新しい職場での健康保険に加入となります。ということは、それまで加入していた任意継続は終了です。このときは、「資格喪失申出書」という書類を提出します。
後期高齢者医療の被保険者資格を取得した時
これは、多くない例だとは思いますが、もしも、加入期間内に年齢が75歳になったとき、資格はなくなります。75歳になれば、後期高齢者医療制度に加入するということになるからです。
じゃあ、75歳になる前に何か、手続き必要か?というとそれは、健康保険のほうから、通知が来るようです。これによって健康保険任意継続は終了されます。
いったんやめたら任意継続には戻れないので検討は慎重に
任意継続について、資格要件とか、手続きとかは大体分かったけれど、国民健康保険と一体どっちがお得なのでしょうか?特に家族の健康保険の扶養に入るという選択肢がない場合ですね。
国民健康保険と違い、2年の加入期間という縛りはありますが、それぞれの経済事情、前年度の収入によっては国民健康保険よりも保険料が安いということもあり得るでしょう。
家族がいるか扶養者がいるか独身世帯かということでも変わってくるとは思います。色々な条件で検討するのは面倒かもしれませんが、保険料を払い続け、給付の恩恵を受けることを考えると、真剣に考える必要がありそうです。
一旦退職し、親の国民健康保険に加入したら、保険料が高くなった、ということも聞いたことがあります。任意継続のメリット、デメリットは色々あります。
任意継続を途中でやめるのも保険料を納付しなければいいのだという単純な考えもありますが、いざ、国民健康保険料を払うときになって、保険料が高くなったから、やはり任意継続に再加入したいと思ってもできません。ここは慎重に検討したほうが得策だということです。
また、若い人なら医療機関を受診する機会は少ないでしょう。全額自己負担でもいいという考えの人も稀にいらっしゃるかもしれません。あるいは薬局があるから大丈夫という人も。
それは1つの考え方ですが、いつ、大きな病気になったり、大怪我をしたりするかもしれません。一度の受診で済まないかもしれません。思っている以上に医療費の全額は大きな金額です。
例えば、薬をもらわなくても注射をしなくても、診察料という医療費がかかります。「今日は、医師と話しをしただけだから、お金いらないでしょう。」とか「血液検査だけなのになぜこんなに高いの?」とか、そんな話を聞くこともあります。
一つ一つはややこしくて全てを説明しきれませんが、薬局で薬を買うようにはいきません。ただ、やはりそれ以上の意味はありますし、個人で薬局だけでは対応できない状況も出てくるでしょう。今は、健康でもいざというときに安心して医療を受けるためにも保険の加入は大事です。
退職したときの個人の状況はさまざまです。経済的事情もそれぞれあるでしょう。そういう事情も含めて健康保険加入、任意継続加入については、しっかりと検討したほうがよいかもしれません。