財務諸表を作成するには時間と労力が必要ですが、会計参与はこの役割を税理士や公認会計士といった専門家に依頼し、取締役と共同して書類を作成する制度です。
仕組みをよく理解することで、企業の経営において大きな力になります。
目次
会計参与について
財務諸表の信頼性を向上するために導入
会計参与とは、賃借対照表や損益計算書といった企業の財務諸表をより信頼出来るものにするために導入された制度です。会社の財務諸表を作成する際に、資格のある専門家に加わってもらい、力を借りることができる点が特徴です。
以前は大企業が会計監査役を登用し、プロに財務諸表の監査を依頼することで、計算書類の正確性を保ってきました。一方で、この依頼にはかなりの報酬が必要でした。
中小企業は経済的な理由からプロへの依頼ができず、財務諸表の信頼性が低く、金融機関から融資を受けたり他企業と取引したりすることが難しい状態が続いていました。この状態を改善するために、2005年に会計参与という機関が会社法で定められました。
この機関の設置は任意で、義務ではありません。ただし、取締役会を設置している非公開会社は、監査役か会計参与のどちらかを設置しないといけないので、監査役がいない場合は会計参与をもうける必要があります。
また、設置する際は定款に明記します。会計参与を導入する場合、もしくはしなくなったの場合いずれも、定款を変更する必要があります。
会社法で定められている資格者がなる
会社法では、会計参与になれるのは税理士か公認会計士、あるいは税理士法人と監査法人と決まっています。ただし、すでに会社の取締役や当社の監査人を請け負ってたりする場合は着任できません。
また当然、税理士や公認会計士として業務停止中の人も会計参与に着任することはできません。
公認会計士になるためには、学歴や年齢は問われませんが、比較的難関といわれる公認会計士試験に合格し、国家資格をとる必要があります。
また、税理士になるためには、まずは大学や短大、専門学校で資格を取るか、簿記試験や司法試験といった資格をとるなどして税理士試験の受験を取得した上で、2年間事務などの実務経験を積まなければなりません。容易に取得できるものではなく、大変専門性の高い資格といえます。
会計参与は取締役と共同するので内部の立場ではありますが、不正を看過しない公正さは求められます。なお、顧問税理士全く別の機関で外部とみなされるので、会計参与と兼任することは可能です。
会計参与設置会社の企業数は増えている
会計参与を設置する企業は増える傾向にあります。なぜなら、金融機関は企業の財務諸表を見るにあたっても、きちんと信頼のおけるものを見たいと願うからです。会計参与を置いていることは、外部の人間に適切な経営をしていると示すアピールにもなります。
会参与の制度が導入される以前は、経済的に会計監査役を設置できない中小企業では監査役制度が近い役割でしたが、これには特に資格や専門性は必要無いので、信頼性は低かったといえます。
中には身内や知人などが就任し、形だけの役割になるケースもありました。その点、会計参与を設置したことで公正さをアピールできます。制度自体があまり広くは知られていませんでしたが、今後は需要が増えると予想されます。
会計参与の職務について
取締役と共同して計算関係書類を作成
会計参与は、取締役会と協働して内部の立場として、財務諸表を作成します。流れとしてはまず、取締役会が申述書という、今までのことは不正なく法に則って行われました、という旨の書類を出します。その後、両者が協力して計算関係書と会計参与報告を作成します。
このため、書類に過失があったり企業の不正に協力したことが見られたりしたら、会計参与もまた訴訟を受けたり行政処分を下されたりすることもあります。たいへん責任の重い立場です。
また、会計参与の報酬は会社の給与として支払われます。税理士が着任したとしても、支払うのは税理士報酬ではありません。このため、導入の際は支払うべき報酬と、導入で得られる社会的信用などのメリットを念頭に入れて、どちらが経営のためになるかを考慮することが重要です。
主な職務
◼ 1.計算関係書類を作成する
計算関係書類とは、賃借対照表、損益計算書、株式資本等変動計画書、個別注記表のことを指します。
また、中小企業のときは「中小企業の会計に関する指針」に照らし合わせて作成します。
このため、経営に関しては取締役会に参加したり、意見を述べたりすることが可能です。
◼ 2.会計参与報告書を作成する
会計参与の責任の範囲を明確にするために、会計参与報告書を作成します。
内容としては、会社と合意した事項、資料作成の過程や方法、調査の結果を盛り込みます。
なお、もし書類の作成が遅れたり、数が揃わないものがあった際には、その理由も明記しなければなりません。
◼ 3.株主総会などで説明する
会計参与は株主総会に出席することが義務づけられています。
総会では株主に対して財務諸表のことに関して説明をしたり、株主からの質問に答えたりします。
また、経営に関する部分で意見を陳述する権限もあります。
◼ 4.計算関係書類を会社とは別に備置きする
作成した計算関係書類は、会社とは別の場所に、例えば税理士事務所などに5年間据え置き保存します。
これは、株主や債権者の求めに応じて会社の都合とは関係なく情報を開示するためです。
◼ 5.不正があった場合などは会計監査へ報告する
もし万が一不正を見つけた場合は、監査役か株主に報告することが義務づけられています。
これを看過してしまうと会計参与も処分を受けるケースもあります。
さらに、会計参与の不手際で第三者が損害を得た場合、損害賠償責任を取られることも起こり得ます。
会計参与を設置した時のメリット
決算書類の正確性が向上する
会計参与の力を借りると、決算書類の制度が高くなります。専門資格のある人がその知見に基づいて書類を作成するからです。
会計監査がいない企業にとってはなおのこと大きな助けとなります。
また専門家が作成に携わることで、企業による改ざん等の不正を防ぐことができます。
これは、株主や債権者にとっても信頼出来る会社の資産を持っているという安心につながり、プラスに働きます。このことで、企業が本来の役割に専念し、経営の質が向上します。
金融機関からの融資を受けやすくなる
会計参与を導入すると、金融機関から融資を受けやすくなります。金融機関から融資を受ける際は、財務諸表を提出して審査を受ける必要があるからです。
金融機関は融資をする際、財務諸表を見て企業が信頼できるところかを判断するからです。専門性のある資格者が作成しているということで、財務諸表が信頼できるものとみなされ、融資のハードルが下がります。
場合によっては、会計参与が関わっていると金利が優遇されるなど、金融機関が条件を良くしてくれることもあります。このことで、大手企業とも取引をできる可能性も広がります。事業のキャパシティを広げてくれる制度だといえます。
会計監査役と会計参与の違い
監査役は取締役の業務の監査を行う
会計監査は、外部の立場から取締役の業務を監査する役目があります。以前に中小企業などで監査役に知人や親族が着任しがちだった理由もここにあります。
外部の人間である点が重要だからです。反対に、会計参与はあくまで内部の役員という立場になります。
また、会計監査は取締役と共同で書類を作成せず、作られた書類を外から正しいかどうかチェックを入れる役目ですが、会計参与は取締役会と共同で書類を作成します。
つまりは、経営そのものを行う立場です。基本的に監査役は外部、参与は内部、というのが大まかな特徴です。
監査役は誰でもなれる
監査役には特別な資格は必要ありませんので、誰でもなれるといえます。もちろん、その企業の従業員は監査に就任することは不可能です。ただ、監査という役は専門性が求められません。
そのため、多くの企業で、特に中小企業では知識の少ない身内や知人が登用されるなど、形骸化してしまう現象も起きました。
一方、会計参与は税理士か公認会計士ですので安全が保障されています。これが会計監査との決定的な違いになります。
会計参与の導入で計算書類の正確性を向上
会計参与が関わることで、計算書類はより正確なものになります。参与を導入しているということで、しっかりと経営を行っているという外部へのアピールになり、金融機関や他企業とつながれる機会が広がります。
また、経営側にとっては従来計算書類を作成するのに割いていた労力や時間を本来の経営に注ぐことができ、業務の効率も向上します。このため、企業にとって会計参与は大きな力になるといえます。