事業を経営していると目先の利益ばかりが気になり黒字が出ているとそれだけで安心してしまいがち。ですが、黒字でも倒産をすることがあります。そこで必要になってくるのが資金繰り。正しい資金繰りの知識を身につけ倒産を回避し健全な経営を目指しましょう。
目次
資金繰りにおける基礎知識
資金は現金と預金を合わせたもの
「資金」とは、企業が現在もっている現金と、銀行や金庫など金融機関などに預けている預金のことを意味します。このうち企業が買った株などの有価証券は、価値が変動しますが資産価値はあるので、「流動資産」という資産に分類されます。企業が存続し成長するためには、一時も資産を切らさないようにやりくりする必要があります。
非常に混同されやすい点ですが、資産は利益のことではありません。資産が現状の企業の持っているものを指すのに対し、利益はまだ企業に入ってきていない分までも含めています。売掛金が発生してから利益が出るまで、タイムラグがあるからです。利益のことだけを考えて資金繰りをすると資産が足りなくなり、利益が出ているのに関わらず「黒字倒産」がおこることがあります。
資金増減の管理をすることが資金繰り
資金繰りとは増減する資金を管理することをいい、この資金繰りに企業の存続がかかっています。企業存続するにあたっては、当然さまざまな出資が必要になってきます。
☑ 1.広告:宣伝をするための広告料、印刷料などのことです。ターゲットになる層に対してどの宣伝手段が適切か、見極める必要があります。
☑ 2.人件費:人員を雇用しているときに、役員や従業員に対して支払われる報酬のことを指します。人件費を調整することは、人員の生活に影響がかかるので、慎重になる必要があります。
☑ 3.製造:製造にかかるコストのことを指します。製造コストを減らすには、最先端の技術を取り入れることや、製造の際の物の置き場所を工夫して効率よく生産できるようにする、といった方法があります。
☑ 4.仕入れ:原材料や商品を仕入れたときの金額を指します。原材料は季節などによって値段が変動することがあるので、その調整をすることも資金繰りにつながります。
以上のものはあくまで代表的な出費で、事業の種類によって必要な支出は異なります。支出を多くかけすぎたら経営を圧迫してしまいますし、逆に闇雲に少なくしてしまっても提供するサービスの価値が下がってしまい、利益が伸びません。支出の際は、得られる利益がどれほどかをしっかり見極めていくことが、資金繰りにおいては大切です。
資金繰りは資金の現状把握が必須
正しい資金繰りをするための第一歩は、手元資金の現状を正しく把握することです。通常、資金は現金以外の銀行や通帳で管理するので、きちんと把握されていないケースが少なくありません。銀行や金庫に預けている場合、通帳はもちろん小口現金も確認する必要があります。これらの記録をすべて一元化し、現在の資産がどれほどあるか、数字として把握することが必要不可欠でしょう。
現在の資金をこまめに把握していると、資金繰りの計画が立てられます。現状の資金に合わせて、支出を減らしたり、逆に増やしたりして企業にとってよりよい選択がしやすくなるからです。また、入金や出金のタイミングが調整することができ、黒字倒産のリスクを防げます。
資金繰りが悪化する原因
間違った節税対策で経費の無駄遣いをする
節税対策を誤って、経費の無駄遣いをしてしまうケースがあります。手元に資産が残っていると税金がかかるので、資産を減らすために無駄な出費をしてしまうというものです。節税のためといって安易な無駄遣いをして資産が無くなり今後の経営に支障をきたしては、本末転倒と言わざるをえません。
例としては、メリットの少ない生命保険を加入したり、「経費」と称して高級車を買ったりすることがあります。購入した瞬間だけでなく、保険料や維持費といった出費が何年にも渡って必要になってくるので、その場しのぎの税金対策には不向きといえます。
安易な設備投資や広告宣伝
設備投資や広告宣伝を安易に行ってしまうと、資金繰りは行き詰まってしまいます。必ずしも投資に見合った利益が得られるとは限らないからです。特に、借り入れをしてまで安易に支出を出してしまうのは考えものです。投資はあくまで、手元の資金をもとに行うようにしましょう。
勢いで利益重視の経営をすると、このような事態に陥りがちです。投資の際には、あくまで現状の資産の中から費用を捻出し、効率よく見返りが出せるように、設備投資や広告宣伝のコストを抑えたり、手段を講じたりする必要があります。現在は、場所代や用具代を抑える手段は多くありますし、広告に至っては目まぐるしくアプローチの方法が変わっています。その時代でベストな選択をできるよう、アンテナを張っていくことが大切です。
目先の資金繰りに捉われている
目先の資金繰りに追われていると、かえって危うい状態を招いてしまうことがあります。売り上げだけを出したい場合、その場の利益だけを追求する場合、「安さ」だけを前面においてしまった場合、いずれも資金繰りとしてはよい方法とはいえません。
売り上げのみに注目した場合、原価が高いものを使用したり、経費を高くしたりということがあります。また、作業効率の悪い働き方をしたり、在庫を余らせたりすることもあるでしょう。ですが、その場の利益だけに注目した場合は、在庫は無駄なく売りますがやはり効率は悪くなりがちです。
いずれも、一時的に売り上げは上がるかもしれませんが長期的に見ると企業にはマイナスとなります。売り上げやその場の利益のみを考えず、全体的に利益率を上げていくことが事業の存続には大切です。
借入金の返済額を多く設定している
借入金の返済額を多く設定していると、資金繰りは危うくなります。返済と高い利息で資金繰りが圧迫され、払えなくなった場合は企業の社会的信用も失ってしまうからです。多くの企業が事業を広げたり、収益があがったりする見込みで借り入れを行いますが、後々になって返済や利息に追われてしまうケースは少なくありません。
また、新たに銀行などから融資を受けることも難しくなり、取引に支障が出ることがあります。なぜなら、業績に見合わない借り入れをしている企業は、融資をしても返済をしてくれるという信用がもてないからです。自分で返済できなくなるという最悪のシナリオを迎えないためにも、借り入れをしすぎないことが大切です。
普段から意識する資金繰り管理
資金ショート防止が重要
資金繰りで第一に考えることは、資金ショートという手持ちの資金が無くなってしまう事態を防ぐことです。一度資金ショートをしてしまうと、取引先との信用が失われてしまいます。たとえ利益は出ていてたとしても、一時的な資金不足が生まれることは、企業にとって大きな打撃となります。
資金ショートを防ぐためには、経費や出費を抑えることが大切です。手段としては、赤字を生み出している事業を縮小・廃止する、仕入れのコストを一時的にでも抑える方法を見つける、電気代や通信代、交通費といった固定費を節約するという方法が挙げられます。どうしてもやむを得ないときは、役員や従業員の給料を下げるという方法もありますが、役員や従業員の生活や士気を考えると、後回しにするべき点でしょう。
資金の早期回収を徹底する
資金はなるべく早期に回収することが重要です。取引をしてから利益が生まれるまでの時間が長いほど、資金不足のリスクが高まるからです。事業には、取引から利益の出る間のタイムラグはつきものですが、心がけによって、長引かせないことができます。その場の売り上げだけを意識して営業や取引を行うと、取引先の同意を得たいがために支払いの日を後回しにしてしまいがちです。
また、経理が資金を回収を後回ししている、催促をしないでいる、忘れていたりするということがあると、利益を上げたはずでも資金は集まりません。定期的に確認するなど、社内でしっかりシステムを構築することが必要です。取引をした後は回収を忘れないことが資金繰りの安定につながります。
将来に向け資金繰り表を作成する
資金繰り表を作成することは企業の将来にもつながります。目先の売り上げや利益にとらわれず、企業がしっかりとビジョンを持つための大きな助けとなるからです。代表的な資金繰り表としては、以下のようなものがあります。
☑ 1.経営計画書:企業という組織全体の計画書です。資金だけでなく、経営理念や目標といった、全体的かつ長期的なビジョンをまとめます。
☑ 2.事業計画書:企業が行う事業のうち、一つの事業についての計画書です。事業の展望と、それを成功させるための具体的な行動や計画を記入します。
☑ 3.資金計画:必要となる資金と、その調達の方法をまとめます。設備投資や運転資金などが該当します。
☑ 4.月次の資金繰り表:月ごとの資産や収支をまとめたものです。通常、1ヶ月内の情報はほとんどが確定されたものなので、正確に把握できる情報として扱われます。
☑ 5.半年資金繰り表:月次の資金繰りに比べ、今後の企業の予測を反映させていく必要があります。
☑ 6.年間資金繰り表:収支の結果および、予想や方針を長期スパンで考えたものを記入します。
万が一に備えて優先順位を決めておく
万が一資金が底をつきそうになったときに冷静に行動するため、予め削る出資の優先順位を決めておくという方法があります。どれを優先するかは企業ごとに異なりますが、主なものとしては次のようなものがあります。
☑ 1.得意先に関すること:取引の規模を縮小することで、資金繰りの負担はいくぶんか減ります。逆に、割に現状の資産をふまえず大きな取引をして、結局支払えなかったなどのことが起こったら、信用を失い企業が事業を続けること自体が難しくなります。
☑ 2.従業員:役員・従業員に支払う報酬を低くしたり、人員を削減したりするという手段です。メリットとしては、あくまで対内的な処置であること、従業員にも危機的状況を伝えやすくなる点があります。その反面デメリットとしては、従業員の士気が下がってしまうことと、従業員の生活、人生を圧迫してしまうことがあります。ここを削減するか否かは、企業や経営者の理念によるものが大きいといえるでしょう。
☑ 3.資金調達元:融資を受ける金融機関などは、適切に交渉をすれば応じてくれる場合があります。例えば、返済条件を変更するといった、「リスケ」と呼ばれる措置です。もちろん、この交渉をするためには資金調達元に資金繰り表などを併せて現状を適切に伝えることが重要です。
優先順位は企業のポリシーや状況などによって異なりますが、経営者側が万が一の時に備えて決めておくと、緊急事態に陥っても冷静な判断がしやすくなります。
金融機関からの信用を得る
日頃から金融機関の信用を築いておくと、資金繰りもしやすくなります。なぜなら、銀行などの金融機関は信用格付けというものを行なっており、企業が信用に価するかを段階分けして判断しているからです。この格付けは、低ければ低いほど融資はおろか、相談すら受け付けてもらえなくなります。
信用を得るためには、将来の見通しをしっかり見据えておくことが必要です。金融機関にとって、見通しを持っている企業は成長の見込みがあるとして信頼されやすくなります。この助けとなるのが事業計画書です。事業のビジョンを、資金や収益、支出といった金銭的な面にわたって細かく記載することで、企業が先行きをきちんと考えていると金融機関にアピールすることができます。
資金化で余分な借入を防ぐ
会社の持つ手元資金以外の資産を資金化することで、余分に借り入れすることを防ぐことができます。資金化できる「眠っている資金」の対策として次のようなものがあります。
☑ 1.在庫管理:普段から在庫はなるべく余らせないことが大事です。また、商品として売れておらず、余った在庫があるときはできる限り売って、資金に変えることが望ましいでしょう。多くの店舗では、在庫処分セールなど、余った在庫を安く売って利益を得ています。
☑ 2.売掛金の未回収:売掛金が発生してからまだ回収できていなかった場合、早急に取引先から回収して資金にすることが望ましいでしょう。経理や営業で、未回収が出ないようにシステムを整えることも大切です。
☑ 3.賃借対照表の確認:賃借対照表の「資産の部」には金銭でない資産についても記載されています。資金化できる固定財産や、物品が入っていることがあります。例えば、社用車や家具といったものは売ることができます。
借り入れをする前に、企業がすでに持っているものをできる限り資金化しておくことが資金繰りにおいて重要となります。
公的機関による融資や助成金等の検討
政府や地方自治体などの公的機関では、企業に向けて融資を行ったり助成金を交付したりする制度があります。
☑ 1.公的融資制度:国や地方自治体は、さまざまな企業や個人に対して融資制度を行っています。
☑ 2.助成金:返済の要らない資金調達法です。ただし、募集制になっているので、応募要件を満たした上で審査を通過する必要があります。
☑ 3.補助金:後払い制の資金補助制度です。これも助成金と同じく返済の必要はありません。事業計画書などの書類を提出し、企業の見通しをきちんと伝える必要があります。
いずれも有名なところでは、主に企業の支援をするために経済産業省が、雇用環境を良くするために厚生労働省が、助成金や補助金の制度を行なっています。また、各地方自治体でもこのような企業の支援がされています。
正しい資金繰りで事業を成長させよう
企業が存続する上で生命線ともいえるのが、資金繰り。目先の利益ばかりを追い求めて行き過ぎた投資をしたり、借り入れをしたりしては、資産は圧迫されるのみです。一度でも資金が底をついてしまえば、黒字倒産ということになり、金融機関や取引先など、周りからの信用を失ってしまいます。
このような事態を防ぎ、事業を成長させるためにも、日頃から資金繰り表を書くなどして資金や支出入をきちんと把握し、正しく資金繰りを行うことが大切です。