相続税や贈与税は、後継者にとってとても重く感じるものです。少しでも軽くするために「事業承継税制」という制度を知り、よく理解して納税に活用することがよいのではないでしょうか。事業承継税制の適用を受けるためには、どうしたらよいか調べていきましょう。
目次
事業承継税制について
中小企業の事業継続を円滑にする制度
事業承継税制とは、後継者が経済産業大臣の認定を受けた非上場会社の株式等を先代の経営者から、相続または贈与により取得した場合に一定の要件を満たすと相続税、贈与税の納税が猶予される特例制度のことです。一定の要件の対象となる人は、非上場株式を相続または、取得した中小企業の後継者と、特定小規模宅地を相続した個人事業者と中小企業の後継者です。
中小企業庁では、2016年12月、中小企業、小規模事業者の事業承継を実現するために「事業承継ガイドライン」を10年ぶりに改訂しました。事業承継の準備を早めに始めることの大切さや、事業承継のいろいろな課題の対策、支援制度、サポート体制の紹介など、最近の情報が盛り込まれています。
また、事業承継税制、金融支援の認定や報告などは、各地の経済産業局が窓口でしたが、平成29年4月1日から都道府県に変更になり手続きがしやすくなりました。
相続税や贈与税の納税猶予を受けられる
事業承継支援のために、一定の手続きをとると相続税、贈与税の納税が猶予される場合があり、事業承継に係る相続税、贈与税の悩みを軽減することができます。
現在の経営者の相続または遺贈によって、親族の後継者が取得した自社株式の80%に当たる部分の相続税の納税が猶予され、贈与税は、自社株式に対応する納税が猶予されることになります。贈与税の納税猶予を受けるための手続きをするには、贈与のあった年の翌年1月15日までに、経済産業大臣の認定を受けなければいけません。そのためには、地方経済産業局を通じて認定申請書を提出する必要があります。
相続税と贈与税の納税猶予を受けるためには、会社が要件を満たすことが必要になります。中小企業であること、上場会社、風俗営業会社でないこと、従業員が1人以上いること、資産管理会社に該当しないことです。
相続時精算課税制度を併用する時
相続時精算課税制度を知る
相続時精算課税制度を利用すると、贈与税が少しでも課税されないように、税金計算を進めることができます。その理由は、2,500万円まで贈与税がかからない特別控除額があるからです。しかし、この制度を利用するには、必ず申告をする必要があるので、気をつけましょう。
平成15年1月1日以後の贈与は、相続時精算課税制度が選択できるようになりました。これは贈与時に一度軽減された贈与税を納付しますが、相続時に過去の贈与財産を加算して、過去に支払った贈与税を清算するものです。生前贈与された財産を含めて、相続時にトータルに課税するものです。
贈与税の申告時に必要書類の添付が必要
☑1.相続時精算課税選択届出書
☑2.受贈者、贈与者の戸籍謄本、または抄本その他の書類で、受贈者の氏名、生年月日、贈与者の推定相続人または、孫であることの内容を証明する書類
☑3.受贈者が20歳になった時以後の住所または居所を証明する書類
☑4.贈与者の住民票の写し、その他の書類で、贈与者の氏名、生年月日を証明する書類
☑5.贈与者の戸籍の附票の写し、その他の書類で、贈与者が60歳になった時以後の住所または居所を証明する書類
贈与税の申告書の提出期限は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までなので、必ず必要書類を添付して申告しましょう。申告書の提出先は、贈与を受けた人の住所地を所轄する税務署です。
平成29年の事業継承税制の改正ポイント
雇用確保要件が5年間平均で評価
事業承継税制の適用を受けるためには、雇用要件があります。今までは5年間の平均で従業員を80%維持する必要がありましたが、現在の状況で雇用を維持するのは大変なことなので、見直されることになりました。5人以下の従業員の場合は、1人減っても適用が可能になったのです。今まで事業承継税制を使うことができなかった経営者や後継者も制度を使えるようになりました。
この改正は平成29年1月1日以降に相続または遺贈、贈与により取得する財産に係る相続税、贈与税について適用されます。間違えないようにしましょう。
納税猶予打ち切りのリスクを軽減
事業承継税制は、平成21年度税制改正で作られた制度で、猶予税額の免除が受けられる場合もあり、上手に使うことができればメリットの大きな制度です。しかし、手続きが大変で複雑なこともあり利用する人はあまりいませんでした。
平成29年度の税制改正では、納税猶予が打ち切られても相続時精算課税を利用すれば、とりあえずは20%の税率での課税で済ませることができ、最終的には相続税以上の税率での負担はない、ということになりリスクが限定されることになりました。何回かの改正で少しずつ使いやすい制度になってきており、利用件数も増えてきていて、今回の改正でより身近な制度になると思われます。
事業承継税制の納税猶予打ち切りの事由
5年以内に後継者が代表権を失った場合
事業承継税制とは、中小企業の非上場株式に係る相続税の80%を納税猶予するという特例で、別名相続税の納税猶予といわれています。一時的に納税を猶予してもらえるだけで免除されるわけではありません。
納税が猶予されている期間のうち5年の間に1部でも継承株式を譲渡したり、後継者が代表権を失うと事業承継税制の納税猶予は打ち切られてしまいます。
改正前は先代の経営者は、贈与時までに会社役員を退社しなければなりませんでしたが、改正後は、会社の役員として残留することが認められることになりました。また、親族以外の後継者も対象になり幅が広がりました。
5年平均の雇用が8割以上維持できない場合
申告期限から5年間の間に、相続、贈与時の従業員の8割の雇用を維持できなくなると、事業承継税制の納税猶予は打ち切られてしまいます。以前は雇用の8割以上を毎年維持できないといけませんでしたが、現在は、雇用の8割以上を5年平均で維持することに変わりました。この改正により一時的に従業員が減ったとしても、5年平均でみて8割維持できていればいいので、経営者のリスクは大幅に緩和されることでしょう。従業員の数は、厚生年金保険、健康保険加入者の数を元にして判断されることになります。
雇用の8割以上を維持できないと慌てるのではなく、5年平均で見ればいいので、あまり慌てることはありません。
後継者が取得した株式を手放した場合
取得した株式を手放してしまうと、事業承継税制の措置は打ち切られてしまいます。
中小企業の経営者にとって自社株式による相続税の負担は優良な会社であるほど重くなりますが、簡単に換金できる財産ではありません。しかし、それにより事業を続けられなくなるなどのリスクもあります。
自社株式を承継させる相続、遺贈は現経営者が亡くなり、相続が発生した際に保有していた相続財産の一部として、自社株式を後継者が取得できるものがあります。しかし、遺言がなければ、現経営者が希望する通りの結果にならないこともあるので、遺言書はとても重要で無くてはならないものになります。
継承した会社が資産管理会社に該当する場合
事業承継税制の適用が認められる要件として、資産管理会社に該当しないことがあります。資産管理会社は、資産保有型会社と資産運用型会社に分けられます。資産保有型会社とは、賃借対照表の総資産に占める特定資産の割合が、70%以上の会社を指します。これは租税回避を防止するために設けられているものでもあります。資産運用型会社とは、売り上げのうち、特定資産の運用収入の占める割合が、75%以上の会社を指します。
資産管理会社に該当するかどうかは、相続や贈与の事業開始の日から、納税猶予の期限が確定するまでの期間で判定されるので、当てはまる場合は事業承継税制の適用は認められないことになり事業承継税制の適用は受けることができません。
会社が解散した場合
事業承継税制の適用を受けた場合は、会社が解散したら、相続税を納税しなければならず、経営者が死亡するか次の代に承継する以外は免除することができません。そして、申告期限の翌日から納付する日までの利子の税金まで払わなくてはいけません。そのようにならないように、会社の後継者になったときは、先のことを考えて会社を経営していくことが重要になります。
厳しい制度なので、毎年少しずつ改正されています。
☑1.災害時等の雇用確保要件等の緩和
☑2.雇用確保要件の計算方法の見直し
☑3.相続時精算課税制度の併用を可能に
毎年制度を確認することが必要です。これから会社を立ち上げようと思っている方は、頭の片隅にでも入れておくといいかもしれません。もしかしたら、自分にも関係してくることになるかもしらないからです。
会社の年間総収入額がゼロになった場合
事業承継税制の適用を受けた場合に、会社の年間総収入金額がゼロになってしまうと、要件を満たしていることにはならないので、納税猶予は打ち切られてしまいます。この適用は、納税が免除されるものではなく、納税を先に延ばすことなのでいずれは支払わなくてはいけません。収入額がゼロということは、納税ができないと判断されてしまうので、事業承継税制の適用は受けることができなく、取り消されてしまうことになります。
収入額がゼロにならないように、会社を経営していくことが大切になります。後継者になると決まったら、先のことを考えて行動していくことがよいのではないでしょうか。
継続届出書を提出していない場合
相続税、贈与税の納税猶予制度の適用を受けるには、経済産業大臣の認定が必要になり、認定を受けるには一定の用件が必要になります。贈与税の申告期限後5年間は、毎年経済産業大臣への報告と、税務署長への届け出をして、その後は3年ごとに税務署長への届け出を行うことが必要ですので、これらをしていないと事業承継税制の適用を取り消されることになってしまいます。
事業承継税制の適用を受けようとするときは、贈与した翌年の1月15日までに、継続届出書を提出して申請しなくてはいけません。審査後に認定書の交付になります。その後認定書の写しと、贈与税の申告書を提出します。納税猶予税、および利子税の額に見合う担保を提供して、納税猶予の開始になります。
内容を把握して事業承継税制を有効に使う
相続税、贈与税を支払うことになったときは、事業承継税制を有効に活用するといいでしょう。納税を先延ばしにすることで、余裕を持って対処することができるからです。相続をしたからと慌てて納税をするのではなく、このような制度があることを十分に把握し、さまざまなことを理解したうえで、対処をすることがよいと思われます。受け継いだ事業を円滑に相続、運営し、適切な使い方をしましょう。