個人事業主と法人の違いについて。そのメリットとデメリットとは

ビジネスを始めるとき個人事業主か、法人化して始めるか悩む方も多いのではないでしょうか。事業開始の手続きや資金面、事業を開始したあとのメリット・デメリットについて探ります。個人事業主と法人の違いを理解して自身のビジネスを成功させましょう。

目次

個人事業主と法人の違いについて

開業時の手続きが異なる

個人事業主と法人では、手続きが全く異なります。個人事業主は最寄りの税務署に「個人事業の開業・廃業届出書」を提出するだけで個人事業として事業を開始することができ、「今日から個人事業します」という宣言なようなものになります。

一方、法人は会社設立の手続きとして法務局へ届け出をします。事業計画を立て、資金の準備、定款(ていかん)の作成、法務局、公証役場での認証(合同会社の場合は不要)登記申請など、簡単な手続きで済む個人事業に比べて、多岐にわたる手続きが必要です。

事業年度と税の申告が異なる

個人事業主の場合は事業年度が1月1日から12月31日と決められています。この間の売り上げや経費を税務署に申告しますが、申告時期は翌年の3月15日までです。

一方、法人の場合は事業年度を自由に設定できます。自分の会社の都合に合わせて好きなように設定できますが、大きな企業は4月1日から3月31日を事業年度に設定していることが一般的です。この事業年度の最終日を決算日といい、その2ヶ月後までに申告と納税を済ませる必要があります。

個人事業主のメリットとデメリット

簡単に設立できる

個人事業主が事業を設立するのは非常に簡単で、すぐに事業が始められるのが大きなメリットといえるでしょう。前述の通り、最寄りの税務署に「個人事業の開業・廃業届出書」を提出すれば完了です。法人とは違い、法人の規則を示した定款の作成や事業設立登記も不要で、届け出にかかる費用もありません。

個人事業主は自分で事業を営む個人のこと。一般的には「屋号」を付けて事業をすることが多く、この屋号も開業時に開廃業届に記載するだけでOK。難しい手続きは必要なく、非常に簡単に手続きを済ますことができます。

確定申告が簡単

個人事業主のメリットの一つとして確定申告が簡単という点が挙げられます。個人事業主になると、1年に1度事業の収支を申告する「確定申告」が必要になりますが、個人事業主の確定申告は「白色申告」と「青色申告」の2種類の方法があり、開業時にどちらか選択する必要になります。

白色申告は単式簿記で簡単な形式での記帳で申告が可能ですが、控除される額はありません。青色申告は複式簿記という複雑な簿記形式での記帳が必要になりますが、最大65万円の特別控除が受けられ、大きな節税になるというメリットがあります。

複式簿記が複雑といっても青色申告の会計ソフトなどを利用すれば自分で簡単に作成することが可能です。自治体によっては無料サポートを受けられたりする場合もありますので確認しておくといいでしょう。

会計ソフトを購入すると費用は経費に計上できますし、フリーソフトなどもあるので利用してみるのも一つの手段です。

社会から得られる信用度が低い

個人事業主のデメリットとして、法人と比べたときに得られる「信用力の差」は否定できないものがあります。銀行からの融資や企業との取引において、個人事業ではどうしても取引先として信用力に欠けてしまいがちです。法人としか取引しないと決めている企業があったりと不利になる場合が多々あることは覚えておきましょう。

また、採用の面でも個人よりも法人の方が人材確保が容易ということはありますが、しかし、飲食店や美容サロン経営、など、事業内容によっては、個人の技術やサービス内容が重視されるため、さほど個人事業でも信用に影響しない場合もあります。

法人のメリットとデメリット

税金面でのメリットがある

個人事業主の場合には利益に対して所得税や住民税などの税金を納税します。個人事業主の所得税は累進課税(るしんかぜい)が採用されており、利益が増えるにつれ税率が5%から45%まで段々と増えていきます。

一方で法人の場合は「法人の利益」に対して「法人税」がかかります。法人税は税率がほぼ一律の「比例税率」が採用されており、課税所得に応じて2種類の税率に定められています。法人税率の上限は23.9%であることはポイントとして押さえておきたいところ。

所得税と法人税が逆転すると法人のほうが税金面でのメリットがでてきます。また、法人の場合は給与、役員報酬を支給することで、給与所得控除を受けることができます。税金面では売り上げから経費を引いた利益が600万円を上回るあたりから法人化のメリットの分岐点といえます。

信用度が高い

個人事業主に比べ、法人のほうがさまざまな場面で信用度が上がることは法人の大きなメリットといえます。取引先や仕入れ先からも信用されやすく販路を広げたい場合にも法人のほうが有利になるでしょう。

金融機関からの融資を受けようとする場合やその他の資金調達にも信用度の高い法人のほうが可能性が広がります。採用面でも働く側から見れば法人のほうが安心感があり、優秀な人材確保のためには法人のほうがメリットが大きいといえます。

また、会社を設立すると法人の代表は創業者としての責任感や信用される会社に育てるという事業に対してのモチベーションアップにつながるメリットもあります。

設立の手続きが複雑

法人のデメリットとして設立の手続きの複雑さが挙げられます。個人事業の場合には最寄りの税務署で開業届を提出するのみの手続きですが、法人の場合、商号を決定し、登記をするまで、その手続きは多岐にわたります。

会社設立準備

☑商号の決定
☑法人印鑑作成(登記申請の際に届け出が必要)

定款の作成

会社の基本原則である定款を作成します。定款を作成したらその記載内容をチェックするために法務局、公証役場で「定款の認証」を行います。定款は会社の基本原則になり、事業の目的や内容が記載されます。

☑事業目的
☑本店所在地
☑設立に際して出資される財産の価格
☑発起人の氏名又は名称及び住所
☑発行可能株式総数

上記の記載内容を第三者に正しいかどうか証明してもらう定款認証を行うことが必要になります。

資本金の払い込み

準備した資本金を口座に振り込みます。資本金は現在、1円から可能ですが、現実的ではありません。業種によりますが100万円から1,000万円までが多いようです。定款で決めた資本金を、出資者の名義で出資者自身の口座に振り込みます。法人が設立完了し、法人名義の口座ができたら個人名義の口座から法人口座に移動させます。

法人設立登記

資本金を払い込み後2週間以内に法務局に登記申請をする必要があります。会社設立の日は登記申請をした日になりますので、設定したい設立日がある際には注意が必要です。なお、申請は原則代表取締役が行います。

法人設立後の諸届

登記が完了した後にもさまざまな手続きがあります。税務署や地方公共団体、公共職業安定所、社会保険事務所などで手続きが必要です。提出期限がそれぞれ決まっているので、法人設立後すぐに手続きを済ませておきましょう。

開業後の維持コストが大きい

法人化すると所得によって節税のメリットは大きくなりますが、開業後の維持費のコストが大きいというデメリットもあることはおさえておきましょう。株式会社や合同会社といった法人は、赤字であっても最低7万円の地方税を毎年必ず負担する必要があります。

また、株式会社の場合、一定期間ごとに役員の改選手続きが必要になります。取締役などの役員任期は最長10年で、そのたびに役員登記の費用が発生します。また、株式会社の場合は毎年の決算終了後に決算公開の義務もあり、そのための費用も必要になります。(合同会社の場合は決算公開の必要はありません)

気軽に始めるには個人事業主から

個人事業主と法人の違いについて、どちらにもメリットとデメリットはあります。事業の内容や規模によりどちらがいいとは一概には決められません。例えば費用も法人ほどかからず気軽に始めやすい個人事業主から事業を開始して、軌道に乗ってから法人化することも可能です。

どの段階で法人化するかタイミングを見極めてからの法人化でも遅くはありません。自身の事業形態に合った形で開業し、事業を成功させましょう。

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