毎月の給与から天引きされている社会保険料は高いと思われがちですが、日本の社会保険制度は広範囲にわたり非常に充実した制度です。社会保険料を払うことで、民間の保険では補いきれない保障を受けることができます。よく理解し、最大限活用しましょう。
目次
社会保険料の種類と内訳
傷病手当のある健康保険料
健康保険は、被用者保険とも呼ばれます。企業等に勤めるサラリーマンなどの会社員が加入する公的な医療保険です。病気やけがで休業した時など、不測の事態に備えるための制度になります。
☑1.療養の給付
業務以外の事由により、病気やけがをしたときに健康保険で治療が受けることができます。
☑2.高額療養費制度
重い病気などで長期にわたっての入院や長引く治療には、医療費の自己負担額が高額になります。そのため家計の負担を軽減できるように、一定の金額を超えた部分が払い戻される制度がこの高額療養費制度です。
☑3.出産育児一時金
被保険者および被扶養者が出産した時に申請すると、1児につき42万円が支給されます。多胎児を出産した時は、出産した胎児数分だけ支給されます。
☑4.傷病手当金
病気やけがのために会社を休み、収入が得られない場合に支給されます。会社を休んだ日数が連続して3日間あったうえで、4日目以降休んだ日に対して支給されます。病気休業中に被保険者の生活の保障をするために設けられた制度です。
☑5.出産手当金
被保険者が出産のため会社を休み、収入が得られない時に出産手当金が支給されます。出産手当金は、家族の生活を保障し、安心して出産前後を休養できるように設けられている制度です。
☑6.移送費
被保険者が病気やけがで移動が困難な時に、医師の指示によって緊急的に移送された場合は、移送費が現金給付で支給されます。
☑7.埋葬料
被保険者が死亡した時に、埋葬を行った家族に5万円が給付される制度です。被扶養者が死亡した時も同様に家族埋葬料として5万円が給付されます。
☑8.療養費
やむ得ない理由で保険証を使わないで診察を受けたときや、治療のために装具が必要になったときなどは、かかった医療費の全額を一時立替払いにし、あとで請求すると払い戻しを受けることができます。
上記の保障が健康保険の代表的な制度になります。傷病手当金や出産手当金は、会社員の健康保険だけに備わっている保障です。
健康保険料は、給与やボーナスに一定の保険料率をかけたものを会社と従業員で折半しています。給与は残業などで変動するため、月額の収入によって定められている標準報酬月額を適用し、保険料率をかけたものが健康保険料となるのです。
被保険者とは
健康保険では、全国健康保険協会と健康保険組合の二通りが存在します。この協会や組合のことを保険者と呼び、この保険者が運営している保険に加入して、必要な給付を受ける資格のある人を「被保険者」と呼びます。主に被保険者により生計を維持されている家族を「被扶養者」と呼ばれています。
被用者保険とは
国民健康保険と国民年金を除いた保険の総称で、被用者を対象とする保険のことです。被用者とは、企業や個人事業者などに雇われた人の事で、サラリーマンなど労働者が対象です。被用者保険は、公的医療保険では職域保険(サラリーマンや公務員などの会社員が加入)になります。
将来介護を受けるための介護保険料
急速に進む高齢化に伴って、介護が必要な人が増加しています。こうした状況の中で安心して介護が受けられるように、社会全体支えることを目的とした制度が「介護保険制度」です。
40歳以上65歳未満が加入負担しなければならない介護保険。介護保険は40歳以上の人が被保険者になります。会社員の介護保険料は、健康保険料と同様に収入によって定められいる金額を会社と折半で払います。1人あたりの保険料額は、医療保険者によって算定されます。
将来の年金を受け取るための厚生年金保険料
日本の公的年金制度は20歳以上の全ての人が加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金の2階建てと呼ばれています。厚生年金保険に加入している場合は、将来的に基礎年金と呼ばれる国民年金と厚生年金を受取ることができます。
会社員の厚生年金保険料は、会社と従業員で折半して払います。厚生年金保険料は、被保険者が受取る給与を区分ごとにわけて、月収に応じて金額が決められている標準報酬月額表を用いて年金額の算定をします。
失業後の手当てを保証する雇用保険料
労働者が失業した場合や雇用継続が困難になったときに、生活の安定や雇用の促進を目的とした公的な保険制度です。雇用保険の給付制度はさまざま。基本手当(失業給付)や育児休業給付、介護休業給付などがあります。
雇用保険料は、毎月の給与総額に雇用保険料率をかけて算定するため、毎月の収入に応じて変動します。厚生年金保険料や健康保険料は1年間の保険料が変わらないのに対して、雇用保険料は毎月変わっているのです。
勤務中のケガを補償する労災保険料
労働者が業務上の事由や通勤によってけがや病気をしたり、重い場合は体に障害が残ったり死亡した場合など、被災労働者や遺族を保護するために必要な保険給付をする制度です。
労働者を保護する目的の労災保険は、個人で加入するものではなく、全額会社負担で会社が加入する保険になっています。1人でも労働者を雇用する事業であれば、基本的に業種など関係なく強制的に適用される保険です。
社会保険料の基礎的な知識
国や地方自治体が運営する保険
社会保険とは、日本の社会保障制度の1つで、国民の生活の安定を保障するために設けられた公的な保険制度です。民間が運営する生命保険や損害保険と違い、国民は社会保険に加入して保険料を支払う義務があります。
社会保険とは
☑1.医療保険(健康保険料)
☑2.年金保険(厚生年金保険料)
☑3.介護保険(介護保険料)
☑4.雇用保険(雇用保険料)
☑5.労災保険
これらの総称を一般的に「社会保険」といいます。年金保険、雇用保険、労災保険の運営の主体は国です。年金保険は日本年金機構が国から委託されており、雇用保険や労災保険は、都道府県の労働局という国の出先機関の管轄になります。
介護保険の運営は、市町村レベルの自治体が主体で行っており、国や県などと協力することで、円滑に運営できるような仕組みになっているのです。医療保険の運営は、国の運営から協会健保にかわった全国健康保険協会が行っています。その他に、健康保険組合という国から認定を受けた公法人もあります。
年収が上がれば保険料が上がる
社会保険料は、給与に比例して決まりますが、給与を個別に算定するのは膨大な量になるために、標準報酬月額という仕組みを使って簡単に算定できるようになっています。
標準報酬月額とは、月額の給与を等級に分けて保険料を決める基準となるもの。残業手当やインセンティブなど、月によって給与が変わる場合があります。こういった給与の変動を一定にするために、一定期間の平均給与額を計算したものが標準報酬月額になります。
年収が上がると標準報酬月額も上がり、標準報酬月額の等級も上がるので保険料も上がります。標準報酬月額の基礎になる月額の報酬は、労務の対償として受けるものを全てを含まれているのです。
会社が半分負担してくれる
厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料の3つの保険は、会社と社員で半分ずつ負担することになっており、会社が社員の個人負担額と合わせて、毎月協会けんぽや年金事務所などに納付します。
会社は、個人事業でも5人以上の従業員がいれば社会保険に加入しなければなりません。従業員の週の所定労働時間が30時間以上となっていれば正社員ではなくても、社会保険に加入させなければいけません。また所定労働時間以外にも加入の対象は拡がっています。
保険料は地方自治体ごとに違う
社会保険料の水準は、物価や賃金水準を踏まえ財政の中で、給付と負担を調整できるように決められています。こういった水準に基づいて、各市町村がその年の財政や人口推移などを勘定して決定しています。つまり住んでいる地域の自治体によって保険料が異なるのです。
社会保険料のなかで、医療保険・介護保険・厚生年金は、収入によって毎年の標準報酬月額を算出し、標準報酬月額に保険率をかけて保険料を決定しています。保険料率は、厚生年金、介護保険と健康保険の保険料額表が都道府県ごとに定められていて、各都道府県によって異なった保険率になっているのです。
扶養家族は保険料が控除される
一般的に扶養家族とは、主に生活面で金銭的に助けてもらう必要がある家族になり子供、リタイアした両親、配偶者などが該当します。
社会保険の扶養の範囲とされているのは、配偶者と3等身内の親族。また、内縁の配偶者や配偶者の父母も扶養の対象にすることができます。ただし、対象年齢は75歳未満の者に限られています。
被扶養者の認定基準
☑1.健康保険法に定める家族である。
☑2.後期高齢者に該当していない。
☑3.被保険者が、主として経済的に家族を扶養している事実があること。
☑4.被保険者が家族を扶養しないといけない理由があること。
☑5.被保険者は、継続的に家族を養う経済的扶養能力があること。
☑6.家族は、被保険者の年収の2分の1未満であること。
☑7.家族の収入は、年間130万未満(60歳以上の障害年金受給者は年間180万円未満)であること。
上記に該当する場合は、被扶養者の健康保険料はかかりません。
パートやアルバイトの加入義務はない
パートやアルバイトは、基本的に社会保険の加入の義務はありません。ただし、パートやアルバイトでも労働時間や労働日数が社会保険の加入要件を満たしていれば、加入義務が発生します。
社会保険の加入条件
☑1.所定労働時間が週20時間以上である。
☑2.1ヶ月の賃金が88,000円以上である。
☑3.勤務期間が1年以上の見込みがある。
☑4.勤務先の従業員数が501人以上の企業である。
☑5.学生は対象外なので学生でない場合。
この5要件を満たす場合は、社会保険への加入が必須になります。この5要件が満たない場合でも、正社員の1週間の労働時間や労働日数の4分の3を超えている場合も加入義務が生じます。
給与から社会保険料を計算する方法
基本の計算式に当てはめる
会社勤めをしているサラリーマンの場合、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)は毎月の給与から天引きされています。この社会保険料は、毎月の給与額に応じて決められている標準報酬月額に一定の割合の保険料率をかけあわせて計算します。
☑健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率
☑厚生年金保険料=標準報酬月額×厚生年金保険料率
雇用保険の計算方法
雇用保険は、雇用保険料率×賃金総額で計算されます。賃金総額とは、毎月の給与と賞与、通勤手当や残業手当などの各種手当を含んだもの。雇用保険の計算は、標準報酬月額と違い、賃金総額になるので注意が必要です。なお、雇用保険料を決定する時は、雇用保険料率表を用います。
標準報酬月額を割り出す
標準報酬月額とは、報酬の月額を等級で表し、社会保険料や保険給付額を決めるための基準になる金額です。標準報酬月額は4月、5月、6月の報酬の平均で決まります。定時決定された標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月までの各月の標準報酬月額としています。
標準報酬月額の報酬は「給与」を指していますが、この報酬は標準報酬月額の計算をする基礎になります。報酬から決定された標準報酬月額は年金事務所へ届け出ます。
報酬に含まれるものは
☑1.基本給
☑2.残業手当
☑3.毎月固定的に支給される手当(通勤手当、住宅手当、家族手当など)
☑4.3ヶ月を超えない賞与(年4回以上の賞与)
報酬に含まれないもの
☑1.祝い金、見舞金
☑2.出張旅費
☑3.年3回以下の賞与など臨時に支給されるもの
☑4.退職手当
保険料額表で社会保険料を調べる
(4月分報酬+5月分報酬+6月分報酬)÷3=標準報酬月額です。この標準報酬月額に対する社会保険料を、保険料額表で調べます。健康保険と厚生年金それぞれの保険料額表の標準報酬月額で保険料の確認をしましょう。
健康保険料や厚生年金保険料は、標準報酬月額に一定の保険率をかけて計算されています。よって、標準報酬月額が高い人ほど負担する保険料の支払いも多くなるのです。
サイトなどの自動計算を利用する
保険料額の自動計算ツールを利用して、厚生年金保険料や健康保険料の計算ができます。自動計算に必要な入力項目は報酬、賃金(課税手当て、非課税手当てを含みます)、都道府県(健康保険料率は都道府県別で異なります)、年齢(40歳〜64歳の人は、介護保険料が加わり健康保険料が計算されます)です。
自動計算ツールによっては、仕事の内容や被保険者の種類などの入力項目があります。自動計算ツールを利用することで、簡単に社会保険料がわかります。ただし社会保険料率は改定されることがあるので、注意が必要です。
賞与も標準賞与額を用いて計算する
賞与からも社会保険は天引きされています。賞与の社会保険料は、標準報酬月額ではなく、標準賞与額に保険率をかけて計算されます。標準賞与額とは、賞与の1,000円未満の端数を切り捨てた額となり、年3回以下で支給されるものです。
保険料率は、保険料額表などで求めることができますが、改定されることがあるので注意が必要です。また、雇用保険料は、賞与額に保険料率をかけて計算しているため、雇用保険料率は事業の種類によって異なります。
賞与の上限
健康保険は、年間合計額が537万円に達した後に賞与が支払われた場合、それ以降の標準賞与額は0円となります。厚生年金は、賞与支給1回につき150万円が上限です。年間2回賞与があり、その合算額が150万円以上見込まれる場合は、賞与回数を1回にすることができれば、納める保険料は安くなります。
高い社会保険料を支払い続けるメリット
医療費が高額になった場合お金が戻る
同一月の1日から月末までに、医療機関の窓口で支払う医療費の自己負担額が高額になった時は、自己負担限度額を超える金額が後から払い戻される制度、「高額療養費制度」が利用できます。
自己負担限度額は、年齢や所得の状況に応じて決められていて、70歳未満と70歳〜75歳未満でそれぞれに応じた限度額になっています。高額療養費に適用される費用は、差額ベッド代、食事代のみが対象です。また3ヶ月以上高額療養費の支給を受けた場合は、4ヶ月目からは自己負担限度額が軽減されます。
付加給付制度
付加給付制度とは、従業員が700人を超えるような大手企業などの健康保険組合(国から認定を受けた公法人)が行っている1ヶ月にかかった医療費の自己負担額を決めておき、限度額を超過した費用を払い戻す制度になります。
公的医療保険においての高額療養費という、病院窓口で支払う医療費を一定額以下にとどめる為の制度がありますが、給付額をさらに上乗せする独自の給付制度になります。国民健康保険にはない制度です。
医療費が3割負担で済む
日本の医療保険制度は、病気やけがをした時、全ての国民が医療機関に保険証を提示して、医療費の一部を負担するだけで医療を受けることができる国民皆保険制度です。健康保険組合、共済組合、国民健康保険など、どの被保険者も医療機関の窓口での負担は3割負担となっていますが、これを「療養の給付」といわれています。
療養の給付の範囲
☑1.診察
病気やけがをした場合の診察や診察に必要な検査を受けることができます。必要であれば往診をしてもらうことも可能です。
☑2.薬剤または治療の支給
厚生労働大臣が定める薬価基準に収載されている薬が支給されます。
☑3.治療のための用具
ガーゼ、包帯、眼帯など治療のための用具を治療材料といいます。これらすべてを使うことが可能です。松葉杖や補聴器などは必要な期間に貸してもらうことができます。
☑4.処置、手術その他の治療
手術(麻酔を含む)のほか、注射、放射線治療、精神科専門療法、慢性疾患指導などを受けることができます。ただし、医学会で認められていない特殊な治療は受けられません。
☑5.在宅で療養、看護
医師が必要と認めれば、在宅自己注射など宅療養の管理を受けることができます。また在宅の寝たきり患者やガン患者への療養指導や、看護師などによる訪問看護などを受けることが可能です。
☑6.入院
入院中の食事(標準負担額は自己負担)や寝具も含めて、健康保険で受けられます。4人以下の特別室などについては、患者負担が必要なことがあります。
傷病時に手当が貰える
病気やけがで休業している期間の生活保障を行うために、給付される手当てを傷病手当金といいます。ただし、業務上や通勤途中での病気やけがによる休業は、労災保険の給付対象となるため対象にはなりません。
傷病手当金は、休業1日につき直近12ヶ月間の標準報酬月額を30日で割り、この3分の2相当額が支給されます。勤務先から給与が出ている時も、傷病手当金よりも給与が少ない場合は、その差額を傷病手当金として支給してもらうことが可能です。
傷病手当給付期間
傷病手当は、支給が開始された日から最長で1年6ヶ月の期間給付を受けることが可能です。途中で仕事に復帰した期間があったとしても、その後の休業期間は、1年6ヶ月に達するまで支給されます。健康保険組合では、独自の付加給付として傷病手当の給付期間を延長しているところもあるのです。
仕事を辞めた時に給付が出る
雇用保険に加入していれば、仕事を辞めた時に失業給付金や失業保険と呼ばれる基本手当が給付されます。雇用保険は、万が一の失業に備えるための社会保障制度です。雇用保険の事務手続きや給付業務は、国が管理運営を行う各地の公共職業安定所で行われます。
一般被保険者が失業した場合は、基本手当、技能習得手当、寄宿手当、傷病手当が支給されます。
基本手当
被保険者が定年や倒産、契約満了等により離職した時に基本手当の給付を受けることができます。ただし、離職前に一定期間雇用保険に加入していることが条件。自己都合退職の場合は、離職日以前に2年の間で通算して12ヶ月以上、雇用保険に加入していることが条件になります。
技能習得手当
基本手当の受給資格者が、再就職に備えて公共職業訓練等を受ける場合に支給されます。技能習得手当には、受講日に応じて支給される受講手当と、訓練を受けるために施設に通う旅費の通所手当があります。
寄宿手当
基本手当の受給資格者が公共訓練等を受けるために、養ってる家族のもとを離れて別居する場合に支給されます。
傷病手当
基本手当の受給資格者が求職の申し込みを行った後、15日以上継続して病気やけがのため就職できない場合に支給されます。基本手当は15日以上就労できない人には支給されないので、これをカバーするために傷病手当として基本手当相当額が支給されます。
社会保険料をしっかりと払って将来に備えよう
社会保険とは、国が強制的に加入させている保証制度のこと。社会保険料を払うことで、社会保険がカバーしている広い範囲の保障を受けることが可能です。この保障は、さまざまなリスクを負った時にでも最低限の暮らしが維持できるようになっています。
高いと感じてしまう社会保険料ですが、日本の社会保険制度は非常に内容の充実したもの。加入している社会保険や給付の内容などをしっかり理解して、将来の備えにしましょう。