個人事業主になると、会社員とは違う社会保険に入ることになります。どのような保険に加入しなくてはいけないのか、加入できない保険はどのようなものなのかをきちんと把握しておかないといけません。どのような社会保険が必要なのか、考えていきましょう。
目次
個人事業主が加入できる社会保険
健康保険は国民健康保険
サラリーマンを辞めて個人事業主になった場合、社会保険の違いを知っておく必要があります。しかし社会保険といってもいろいろな種類の保険があるので、すべてを把握することは大変なことです。
国民健康保険(国保)とは、病気やケガをしたときに加入者が所得に応じて保険料を出し、医療費に充てる相互扶助の制度のことです。個人事業主になると、住まいの市区町村役場に行って加入します。
ほかにも、退職前に加入していた健康保険を任意継続することが可能です。それまでの会社の健康保険に加入していた権利を尊重するべきという趣旨により、希望すれば2年間に限り継続することができます。ただし任意継続するには条件があり、資格喪失日(退職した次の日)までに、被保険者だった期間が2ヶ月以上あることと、資格喪失日から20日以内に手続きをすることです。健康保険組合によっては条件が異なるので、確認しておくことが大切です。
40歳からの介護保険
介護保険とは、高齢者にかかる介護の負担を社会全体で支えようという制度のことです。40歳以上の人は、毎月掛け金を支払わなくてはいけません。40歳〜65歳未満の人は、加入している健康保険と一緒に支払います。個人事業主の人は、40歳以上の世帯全員分の介護保険料を国民健康保険と一緒に支払います。
介護保険料は、その人の所得と医療保険ごとに設定されている介護保険料率で決まります。運営は市区町村が行っているので、地域によって保険料は異なります。
65歳以上の人は、年金受給者と年金未受給者で支払い方法が違います。年金受給者は、年金から介護保険料が差し引かれて年金が入金されます。年金未受給者は納付書で支払うか、口座振替で支払うことになり、65歳以上の人が年の途中で年金を受給するようになった場合は注意が必要です。
年金は国民年金
国民年金は、日本国内に住んでいる20歳〜60歳のすべての人が加入する公的年金です。個人事業主は、「第1号被保険者」に当てはまります。国民年金は、厚生年金のような扶養制度がありません。配偶者に収入がなくても、配偶者に対しても、国民年金への加入保険料の支払い義務があります。
国民年金で納める保険料は、所得に関係なく全員一律です。平成29年度の場合、1ヶ月あたりの保険料は、16,490円で、平成30年度は、16,340円です。支払方法は、金融機関窓口やコンビニでの現金払い、口座振替などが選択でき、まとめ払いをすると割引が適用されます。支払った保険料は、社会保険料控除として全額所得から控除できます。
本人、世帯主、配偶者の前年所得が一定額以下の場合には、国民年金保険料の納付が免除になります。免除される額には、段階があり所得額に応じて全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除の4種類があります。免除審査の基準は、市役所が把握している前年の所得情報なので、確定申告を行っていない、所得情報が実際と異なっているなどの場合は、申告を行っておくことが必要です。
個人事業主が任意で加入できる年金
国民年金の付加年金
付加年金とは、国民年金の保険料に追加で付加保険料(一律400円)を上乗せして納めることで、将来受給する年金額を増やすことができる年金です。
個人事業主は、付加年金に加入することができますが、保険料の免除猶予を受けている人、国民年金基金の加入者、特例による任意加入被保険者は加入することはできません。付加年金の加入申し込みは、市区町村の役所で行うことができます。申し込んだ月の分から付加保険料を納付することができ、支払うのをやめる場合は、「付加保険料納付辞退申出書」を提出しなくてはいけません。付加年金の保険料は、国民年金保険料に上乗せして納付するので、仕訳の必要はありません。
終身年金の国民年金基金
国民年金基金とは、個人事業主などが国民年金に上乗せして納めることができる年金です。将来受け取る年金額を増やすことができます。
国民年金基金の掛金は合計で月額68,000円が限度額です。納めた納付額は、社会保険料控除として全額が所得控除の対象になります。国民年金基金の支払いは個人事業主のプライベートな支出として考えるので、帳簿につける必要はありません。
国民年金基金は、任意なので経済状況が無理だという人に強いるものではありません。また、少ない掛金から始めることができ、加入後に状況に応じて月々の掛金を増やしたり減らしたりすることができます。
積み立て方式の確定拠出年金(401k)
個人事業主には国民年金の上乗せとして、従来から任意加入できる確定給付の年金の国民年金基金がありますが、それに代わる選択肢として、確定拠出年金が導入されました。通称401kとも言われています。確定拠出年金とは、国民年金加入者が証券会社や、銀行などの運営管理機関や運用商品を自ら選んで自己責任で運用する年金制度のことです。掛金の最高額は月額68,000円で、最低額は月額5,000円です。1,000円単位で設定することができます。
手続きは、銀行などの金融機関で行います。掛金は全額控除になるメリットがあります。デメリットとしては60歳まで解約できないということと、手数料がかかるということです。
将来の年金不足の補填と、現時点での毎年の節税手段として、確定拠出年金は個人事業主にとって極めて有利な制度です。将来の年金に不安を感じる人、また、有効な節税手段を考えたい人にとっては、真っ先に導入を検討すべき制度といえるかもしれません。
個人事業主が加入できない社会保険
雇用保険は加入できない
雇用保険とは、労働者が失業した場合に一定の給付を行い、その間に就職活動ができるようにするための保険制度のことです。雇用保険には、個人事業主本人は加入することができません。個人でも経営者なので、失業しても自己責任になるからです。雇用保険は、雇用される側の人が対象となる保険なので、個人事業主は保険の対象にはなりません。
会社を辞めて雇用保険の失業給付をもらっている人が個人事業を開業したときは、その時点で失業給付金の受給資格がなくなります。開業して個人事業主になったということは、その時点で職を求める失業者ではないからです。事業収入がゼロでも受給資格がなくなるので、開業する日にちには気を付けなければなりません。
労災保険は業種によっては加入できる
労災保険は、労働者の業務上及び通勤途上の災害について補償する保険のことです。個人事業主は労働者にはあたらないので、労災保険を利用することができません。しかし、労災保険の特別加入制度を利用することにより、労災保険の適用を受けることができます。
労災保険の特別加入制度に加入できる人は、中小事業主(社長、個人事業主)とその事業に従事する人、一人親方、その他の事業者とその事業に従事する人、海外派遣者です。労災保険の特別加入を利用するときは、労働保険事務の処理を労働保険事務組合に委託することが必要になります。特別加入制度の保険料は任意加入の保険料なので、事業の経費にはできません。しかし、確定申告では支払った保険料の全額を社会保険料控除にすることができます。わからないことがある時は、労働保険組合に電話をして確認してみるといいでしょう。
従業員を雇ったときに必要な社会保険
必ず必要な労災保険
1人でも従業員を雇用したら、所轄の労働基準監督署に雇用した日から10日以内に「保険関係成立届」を提出しなくてはいけません。さらに50日以内に「概算保険料申告書」を提出して、保険料の納付をすることが必要になります。労災保険料率は全従業員の年度内の賃金総額×労災保険料率となり、「忘れていた」ではすまされない保険ですので、必ず加入が必要です。
労災保険とは、従業員が業務中や通勤中に、ケガや死亡事故などがあった場合に備える保険のことです。正式名称は「労働者災害補償保険」といいます。労災保険はアルバイトやパートといった雇用形態を問わず、必ず加入する必要があります。保険料は、個人事業主が全額を負担することになります。
従業員を雇用する場合には多くの手続きが必要になり、仕事を教えて覚えてもらったり、給与計算なども行う必要があります。従業員の雇用を考え始めたら、事前に準備を進めておくとよいでしょう。また、労災保険の提出には期限があるので、遅れないように手続きを済ませておくことが大切です。
働く期間や時間によって必要となる雇用保険
雇用した日から10日以内に「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。個人事業主である本人は、雇用保険の手当てを受け取ることはできません。適用されるのは個人事業主が雇用した従業員です。保険料は事業主と労働者の両方の負担になりますが、手当てを受け取れるのは従業員のみです。知識不足のまま従業員を雇用すると、のちに思いもよらぬトラブルに発展するケースもあるので十分に気をつけましょう。
雇用保険は、加入者が失業したときの給付をはじめとして、育児介護休暇中の給付や、事業主が受けられる助成金の財源になる保険です。
雇用保険の加入が義務付けられている労働者とは、正社員、労働時間が週20時間以上、契約期間31日以上を満たすパート等が対象になります。これらに当てはまらない場合は加入対象外です。労災保険と雇用保険の加入手続きは労働基準監督署で行い、雇用保険はハローワークでも手続きが必要です。
5人以上の従業員なら健康保険と厚生年金
個人事業の場合、常時5人以上の従業員が働いているのであれば、社会保険への加入が義務となります。社会保険への加入は事業所単位となるため、社会保険適用事業所として認められると、従業員全員に加入義務が発生します。しかし個人事業主は、「被用者保険、厚生年金」ではなく、「国民健康保険、国民年金」の加入になります。加入する場合には、従業員が5人以上になった日から5日以内に年金事務所に書類を提出しなくてはいけません。
健康保険、厚生年金の掛金は、雇用主と従業員が半分ずつ負担します。厚生年金の掛金の金額は、給料の金額に比例して高くなります。厚生年金の利率に地域差はありませんが、健康保険の利率は都道府県によって異なるので、事前に調べておくことが必要です。
個人事業主の社会保険は会社員とは異なる
会社員とは違い個人事業主は、全てのことを自分で行わなければなりません。個人事業主になると決めたら、何をしなければならないのかを事前に調べておかないと、いざ事業を始めようと思った時に計画を進めることができなくなってしまいます。個人事業主の手続きを始めたら失業保険は給付されないので、下調べが大切です。そして、従業員を雇う場合にもいろいろな手続きが必要になるので、忘れないように注意しておくことが肝心です。