給与支払報告書の基本事項と作成方法。事前に確認することで時間短縮

給与報告書は事務担当者にとって、法定調書の作成業務のなかでも作業時間の割合が大きいという悩みがあります。そこで給与作成報告書の基本事項や作成方法、提出先などを事前に確認しておくことで作業に費やす時間が短縮できるというメリットがあります。

目次

給与支払い総括書の基礎知識

個人別明細書と総括表が組み合わさったもの

「給与支払い総括書」とは、個人別明細表と総括表の2つが組み合わさったものを指します。まずは個人別明細書と総括書について基本事項です。

個人別明細書

書かれている内容は源泉徴収票と同じです。給与を受ける者の氏名、住所、生年月日、給与の金額、保険料控除の金額などが書かれています。源泉徴収票との違いは、「提出先が税務署ではなく市区町村であること」と「用途が住民税と国民健康保険の計算」であることです。個人別明細書は以下の内容で構成されています。

☑ 給与支払いを受ける者の基本情報(個人番号を含む)
☑ 給与額
☑ 源泉徴収額
☑ 保険料額
☑ 控除対象の扶養親族の情報
☑ 給与支払者の情報(個人番号または法人番号を含む)

総括表

総括表は個人別明細表の表紙のようなものです。その市区町村には、その会社から何人の従業員の個人別明細書が提出されたのか、うち退職した人は何人いるか、などが記載されます。そのため、従業員が住んでいる市区町村の数だけ総括表と個人別明細書が組み合わされた「給与支払報告書」が作成され、以下の内容で構成されています。

☑ 給与支払者の基本情報(個人番号または法人番号を含む)
☑ 給与を受ける者の総数
☑ 給与を受ける者のうち、その市区町村に住む者の人数
☑ 特別徴収の人数、普通徴収の人数

個人別明細書は源泉徴収書と同じ内容

個人別明細書には緑色とオレンジ色のものがあり、それぞれに用途が分かれています。「オレンジ色」のものは、法人の役員で150万円を超える、または一般の受給者で500万円を超える支払金額がある場合に使用するもの。

これ以外の場合は「緑色」のものを使用することになりますが、オレンジ色、緑色のどちらを使用するにも4枚複写になっているものの上2枚を市区町村に提出、4枚目の源泉徴収票は受給本人に交付します。さらに給与支払報告書の個人別明細書は以下の項目で構成されていますので、記入の流れを確認してください。

「種別」から「源泉徴収税額」まで

「平成28年分給与所得/退職所得に対する所得税源泉徴収簿」によって年末調整をした結果を記入。

「控除対象配偶者の有無等」から「配偶者特別控除の額」まで

配偶者控除の対象となる配偶者がいる場合は「有」欄に、いない場合は「無」欄に○をしてください。控除対象配偶者が70歳以上の場合は、「老人」欄にも○を記入してください。また、配偶者特別控除額を記入してください。

「控除対象扶養親族の数」から「非住居者である親族の数」まで

☑ 1.「特定」の枠のうちの一番左側に、特定扶養者(19歳から22歳)がいる人は人数を記入。
☑ 2.「老人」の枠のうちの一番左に、老人扶養者(70 歳以上)のうち、同居している人数を記入。
☑ 3.「その他」の枠に一般扶養者(16歳から18歳、23歳から69歳)がいる人は人数を記入。
☑ 4.「障碍者」の枠に扶養親族(配偶者・年少扶養者を含む)のうち、特別障害者と普通障害者の人数を記入。

「社会保険料等の金額」から「住宅借入金など特別控除の額」まで

社会保険料、生命保険料、地震保険料、住宅借入等の控除額を記入。

「控除対象配偶者」から「控除対象扶養親族」まで

控除対象配偶者を有とした場合、控除対象配偶者の名前と区分、マイナンバー(個人番号)、控除対象扶養親族について記入した場合、控除対象扶養親族の名前と区分、マイナンバー(個人番号)をそれぞれ記入してください。

「配偶者の合計所得」から「旧長期損害保険料の金額」まで

☑ 1. 配偶者がいる場合、「配偶者の合計所得」を記入してください。
☑ 2.国民年金保険料などを支払っている場合、その金額を「国民年金保険料等の金額」に記入。
☑ 3. 旧長期損害保険料を支払っている場合、その金額を「旧長期損害保険料の金額」に記入。

「16歳未満の扶養親族」

16歳未満の扶養親族がいる場合、控除対象配偶者の名前と区分、マイナンバー(個人番号)を記入してください。

「5人目以降の控除対象扶養親族の個人番号」から「5人目以降の16歳未満の扶養親族の番号」まで

控除対象扶養親族、また16歳未満の扶養親族などが5人以上いる場合、5人目以降のマイナンバー(個人番号)を記入してください。

「未成年者」、「勤労学生」、「中途就・退職」

本人が該当する欄に、○を記入。またその年に就・退職があった場合にも、「就職・退職」のいずれかに○をし、月日を記入してください。

受給者生年月日

「明・大・昭・平成」のいずれかに○を、年月日を記入してください。

市町村への提出義務がある

法人・個人事業主を問わず、従業員等への給与の支払いがあった場合は、「給与支払者」であり、給与についての給与支払報告書を市区町村へ提出義務があります。提出することは給与支払者の義務となっており、提出しなかったり、虚偽の記載をした際には、「給与支払者が罰せられる」こともあります。

地方税法第317条の6第5項及び第6項の規定により、給与支払報告書の提出枚数が1000枚以上である場合、電子情報組織を使用する方法(eLTAX) または光ディスク等により提出することが義務付けられています。

提出義務が免除される特例もある

誰もが給与支払報告書を提出する必要はなく、提出義務が免除される特例もあります。たとえば退職者がその年の途中で退職し支払額が少額だった場合が ccvそうです。少額とは支払金額が30万円以下のときです。

言い換えれば、支払金額が30万円を超える場合には給与支払報告書の提出が法律で義務付けられています。また給与の支払金額が2千万円を超える場合、「個人で確定申告の対象」となるため年末調整は不要ですが、給与支払報告書の提出は必要です。

提出期限は1月31日

給与支払報告書は1月31日までに市区町村に提出します。ただし31日が土日祝と重なる場合には、次の平日に繰り越しとなります。実務としては、年末調整が予定していたスケジュール通りに終わっているのであれば、給与支払報告書を提出期限までに提出することは、そこまで負担が大きい作業ではありません。

たとえば再年末調整などが発生してしまった場合には1月末の提出は忙しくなることが予想されますが、もし提出が遅くれてしまい、6月の住民税の賦課作業に間に合わなかったら、本来は1年分の住民税を12ヶ月に分けて納付するところが11ヶ月分や10ヶ月分となってしまうため、1ヶ月辺りの住民税の金額が高くなってしまいます。従業員の負担が増えてしまうことを考えても、期限内に提出することが望ましいです。

住民税と国民健康保険の計算に使われる

給与支払報告書で報告する内容は源泉徴収票と同じです。これらの違いとしては、提出先と用途が住民税と国民健康保険の計算に使われることです。

もし申告の内容を間違えてしまい、納める住民税と国民健康保険が少なすぎた場合には「税金を滞納した」と判断され延滞税が課せられることも。この延滞税は納税期限から遅れれば遅れるほど、どんどん増額されていくので、慎重かつ間違いがないように申告することが大切です。

給与支払い総括書を提出する必要のある対象者

1年間で給与を支払った全員

給与の金額の大小にかかわらず、1年間で給与を支払った全員分を提出しなければなりません。源泉徴収票と書き方は同じですが、一番上に「給与支払報告書」と印字されており、各市区町村にこれを2枚提出。

給与支払報告書は「個人の住民税の確定申告」という位置付けとなり、市区町村に提出した給与支払報告書をもとに、翌年6月(または7月)からの住民税額が決定されます。

1回でも給与を支払った

原則は給与支払報告書を提出する年の1月1日時点に在職していない従業員であっても、前年中に給与の支払いが1回でもあった人については提出しなければなりません。

途中で退職した者

退職者に関する手続きの特例として、前年中に退職した方のうち、前年中の給与等の支払金額が30万円以内の方については個人別明細書の提出義務が免除されるという規定があります。たとえば、出勤はしたが住所などを確認する前にすぐ退職してしまった人がいる場合には、この特例は活用可能。

現在もその職に就いている者

「給与支払報告書」の提出に該当する人は、前年1年間のうちに給与を支払った全員です。つまり現在もその職に就いている者を指します。

給与支払報告書作成のポイント

在籍者全員の内容をまとめる

給与支払報告書の作成ポイントとしては、在籍者全員の内容をまとめるということです。前年1年間のうちに「給与を支払った全員」で、翌年の1月1日時点で在職している人はもちろんのこと、年の途中で退職した人、1回でも給与を支払った人も該当。給与支払い報告書の表紙となる総括表から書き方の流れをみていきます。

法人番号

2017年(平成29年)1月31日が提出の締め切りとなる「平成28年分の給与支払報告書」については、法人番号の記載が必要となります。

提出区分

原則として年間分を◯で囲みます。もし退職者分のみの提出となる場合は、退職者分を◯で囲みます。

事業種目

事業の分野を記入。

提出先市区町村数

給与支払報告書を提出する市区町村の数を記入。

受給者総人数

給与を支払われている総人数を記入。

報告人数

該当市区町村に個別人別明細書を提出する人数を記入。たとえば、品川区の総括表を例に上げると、東京都において平成29年から特別徴収を推進を徹底していることから、特別徴収(給与天引き)と普通徴収(個人納付)とに分けて人数を記入する欄があります。

☑ 特別徴収:会社が給与支払いの際に税金を天引きして代わりに納めている状況。
☑ 普通徴収:給与所得者が直接納める状況。

市町村ごとの様式に合わせる

個人別明細書と併せて、事業主ごとに作成した総括表を提出する必要があります。たとえば、神奈川県厚木市では、「特別徴収を行っている事業主」、「特別徴収になり得る普通徴収事業主」には事業所名等が印字された「青色総括表」を送付しています。

この青色総括表を送付された事業主は、重複して茶色総括表を提出する必要はないです。このように各市区町村ごとに様式を合わせます。

給与支払報告書が1000枚以上ある際には、eLTAX、および光ディスクの提出が義務付けられていますが、市区町村によっては、提出期限の3ヶ月前までに承認申請をし、市・区長の承認を受ける必要があります。

給与支払報告書を光ディスク等で提出する際に、市・区で記録可能な光ディスク等が同封されており、紙の税額決定通知書のほか、光ディスク等に税額などを記録して送付。またeLTAX提出された場合も、紙の税額決定通知書を送付し、かつ、eLTAXでも税額等を送信します。

報告書は市町村のHPからダウンロードする

給与支払報告書を入手するには、各市区町村のホームページからフォーマットをダウンロードできます。この報告書をベースに翌年の住民税額が決定されますが、「渋谷区」の場合をみてみると、住民税 (特別区民税・都民税) のところから給与支払報告書の作成ページがありますので、エクセルフォーマットがダウンロードするかたちになっています。市区町村によっては、フォーマットがPDFの場合もあります。

ミスのないように正しく記載する

ミスのないように正しく記載することです。もし記入漏れがあった場合は、「徴収方法の取扱い」に影響があるかもしれませんので注意。とくに記入漏れが多いケースとしては、平成24年度より、子ども手当や高等学校授業料の実質無料化が導入されたことに伴い、16歳未満の扶養親族については所得から差し引けないこととなりました。

「扶養親族からは除かれる」こととなったため「記載も不要になった」という誤解を招きやすいこと、記入する人 (経理担当者など) からすると新しく子供が増えたことなどは把握しきれないことから、記入漏れが多い項目となっています。

この扶養親族については、記載があってもなくても所得控除の金額は変わりませんが、16歳未満の親族の人数は「住民税の非課税限度額」に影響があるため、これまで住民税がかかっていなかった人や定額分のみを負担した人の住民税に影響が出ます。また税額以外でも、源泉徴収票における家族構成を示す部分でもあるため、記入漏れがないか注意が必要です。

サイトなどの記入例を参考にする

市区町村の「住民税」サイトにアクセスすると、給与支払報告書の記入例や注意事項の記載がありますので、参考にしてください。平成28年分から、用紙サイズがA5からA4に変更となり、マイナンバーをはじめ、従来の様式にはなかった記載欄も増えています。

給与支払い総括書提出が遅れた時のペナルティ

遅れると住民税が割高になる

給与支払い総括書の提出が遅れた時にはペナルティがあります。翌年の住民税額と国民健康保険の計算に使われるため、提出が遅れると事務書類が遅れる結果、納税者が一度に「多額の個人住民税を納める」ことになります。

会社員は通常、毎月の給与から住民税や国民健康保険料を税金として引かれています。これを「特別徴収」と呼び、支払いは12回払いとなるので、1回当たりの負担が少なくてすみます。これに対し、個別に自分で納付する「普通徴収」は原則として年4回払いなので、1回当たりの支払金額がおのずと大きくなってきます。

地方税法違反になる

会社 (事業所) が市区町村に個人別明細書と総括表のセットである「給与支払い総括書」を提出しなければならいことは、地方税第317条の第6項の「給与支払報告書等の提出義務」によって義務付けられています。

そのため、提出義務を怠ると地方税第317条の第7項の「給与支払報告書等の提出義務違反に関する罪」により、義務を怠った事務担当者だけはなく、法人そのものも1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることになります。

また起業し従業員を雇用すると所得税の源泉徴収だけではなく、住民税の手続きも行います。住民税に関する「給与支払報告書」と「総括表」の提出義務を怠ると、個人事業主であったとしても地方税法違反となることを留意。

延滞税の加算請求

住民税の支払期限は従業員から住民税を天引きした翌月の10日までとなります。もし納付期限日を過ぎてまった場合は、延滞税が加算されます。住民税額の書かれた納付書は送られてくるものですが、住民税額の計算方法はどのようなものかみていきます。

延滞税は2つの式を使って計算されます。1つは「納税期限の翌日から完納するまでの日または2ヶ月を経過するまでの日数」、2つ目は「2ヶ月を超えて延滞した日数」です。

もともとの納税額は1万円未満の端数は切り捨てて計算。もとの納税額に延滞税率を掛け、延滞期間を掛けてそれを365(日)で割り、各式から算出された金額を1円未満の端数を切り捨てます。最後に2つの式の結果を合算して100円未満の端数を切り捨てたらそれが延滞税額です。

1式の場合の延滞税率は年7.3%か「特例基準割合+1%」のどちらか低い割合を適用します。平成28年1月1日から12月31日の特定基準割合は1.8%なので、1式で適用されるのは2.8%の延滞税率です。対して2式の場合は年14.6%か「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方を適用するので、9.1%が延滞税率となります。

ではこれをもとに実際にどれだけ住民税額が延滞税によって増加するのかを例を挙げてみていきます。平成28年1月1日から12月31日の所得に基づいて住民税額11万4,000円を納めなくてはならない人が、90日間にわたって滞納した場合を考えます。

計算式の上ではこの人の税額は11万円です。また滞納期間が2ヶ月を超えているので1式と2式の両方を使って税額計算をしなくてはなりません。延滞税の割合は前述のように1式の場合は2.8%、2式の場合は9.1%です。

☑ 1式:(110,000 x 2.8% x 60) ÷ 365 = 506
☑ 2式:(110,000 x 9.1% x 30) ÷ 365 = 822

1式を計算すると506円。2式の計算結果は822円。1式と2式を足して100円未満を切り捨てると1,300円となります。すなわちこの人の延滞税額は1,300円。言うまでもなく滞納期間が延びるほど金額は増えていきます。

住民税の計算方法

住民税は5つの要素からなっています。住民税の計算では、5つの項目から、負担軽減のために設けられた調整控除を差し引き、実際に課税される住民税の額を算出します。
☑ 住民税=所得割+均等割+利子割+配当割+株式等譲渡所得割
なお、利子割、配当割、株式等譲渡所得割は特定の所得があった場合のものですから、給与所得のみの場合は所得割と均等割が重要となります。所得割は、所得によって加算されるもの、均等割は市町村ごとに一律に加算される額のことです。

給与支払い総括書提出の注意点

期限までに市町村の窓口に送付する

給与支払い総括表と個人別明細書が記入できたら、市区町村へ提出、郵送します。特別徴収、普通徴収それぞれの給与支払報告書の先頭に、「区分紙」を挟み、上から以下のような順番になるように重ねます。なお区分紙は各市区町村のサイトからダウンロード可能。

☑ 1. 給与支払い総括表
☑ 2. 特別徴収該当者区分紙
☑ 3. 個人別明細書(特別徴収の人数分)
☑ 4. 普通徴収該当者区分紙
☑ 5. 個人別明細書(普通徴収の人数分)

個人別明細書が市町村提出用であることを確認

個人別明細書は市区町村に提出するものです。記入後は事務担当者 (経理担当者)は提出先をしっかりと確認します。提出先を間違え提出期限が過ぎてしまった場合は、それだけ事務処理が遅れますので従業員の1ヶ月当たりの住民税が割高になってしまうことも。

国税庁ページには、給与所得の源泉徴票(給与支払報告書)等の法定調書の作成と提出の手引きが掲載。

詳細はこちら

提出期限を守って正しく納税しよう

給与支払報告書に関する手続きは基本を押さえてしまえば、毎年同じ作業となってきます。ただ総括表の様式は市区町村によってまちまちなので、各様式にあった記載をしてください。記入箇所で分からないところがあれば、該当する市区町村のウエブサイトにアクセス。

記入方法について丁寧な説明があります。提出期限を守らないと、従業員の給与から天引きされる1ヶ月当たりの住民税が割高になり、負担が大きくなることも。作業には時間的なゆとりを持って望むことが重要です。

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