事業承継をするために。円滑に行うために今から始られるもの

企業の存続を望むなら、避けて通れない課題に事業の継承問題があります。親族内、従業員、M&Aを利用するの3種類の事業継承の方法があります。5年から10年はかかるといわれる後継者の育成を開始するためには、早期からの計画と準備が必要です。

事業承継とは

経営資源の承継

末長く会社を存続させるためには、経営を後継者に譲渡する必要がでてきます。経営者という人だけでなく、会社の経営理念・社長の持つ信用・営業秘密・人脈・顧客情報などの知的資産といわれる企業の財産のほかに、後継者は、経営者としての立場や権限、責任といった経営者としての地位を引き継ぐことになります。

老舗の企業は信用や人脈を事業の安定に必要な要素ととらえています。事業継承を考える際には、この形のない経営資源をいかに後継者が引き継ぐのかが重要。会社の経営理念を貫くためにも経営資源の引き継ぎはきちんと行わなければなりません。

所有財産の承継

事業継承には、会社経営をしていくための基盤となる株式や会社経営のために必要な事業用資産を引き継ぐことも含まれます。

後継者が安定した会社経営をしていくためには自社株式、事業用資産を集中した承継が必要。現経営者に複数の子供がいる場合、後継者と選定した1人にのみ自社株式、事業用資産を譲渡するような対策をするなどの争族にならないための配慮も必要になります。

現経営者が自社株を所有している場合、後継者が一人で相続すると相続税が高額になる可能性も。現経営者と後継者は、自社の事業用の資産の状況や会社の借入金の有無について把握することが重要になります。

後継者の承継

後継者へ事業継承するには、時間をかけてゆっくりと行うことが事業継承を成功させるポイントになります。そのためには、後継者の選定と後継者自身が承継することへの承諾・覚悟の確認を行い、後継者教育を行うことも考えなければなりません。

後継者の教育はとても重要。社内、社外で後継者としての教育を行い、自覚と能力を育てます。社内での教育は、全部門を経験させ知識を習得させる、社外では、後継者育成のセミナー等に参加をさせるなどの教育を行い後継者として育成します。

後継者を育成するには、長いスパンで考える必要があります。後継者と選定したのち、経営能力を伸ばすこと、取引先や従業員との信頼関係を築くためにも、現経営者はバックアップしていくことが重要です。

事業承継のメリット

会社の存続

事業継承することで、廃業することなく、事業を存続していくことができます。日本で年間に廃業する企業数は約29万社あるといわれ、そのうち約7万社が後継者がいないことによる廃業とされています。

事業継承は、会社の経営理念を保ちながら時代に即した経営内容に改革させるチャンスです。事業継承がうまくいけば、会社の存続、さらに発展へとつながるため、後継者問題は先延ばしにせず早い段階から計画、行動を起こすようにします。

後継者の教育、事業継承まで5年から10年かかるといわれます。長い期間が必要になる事業継承を計画的に行うことで会社を存続させることが、現経営者としての責務でもあります。

取引先との信頼関係維持

事業継承で事業が存続することにより、これまで通り取引関係を継続、維持することができます。そのためには、金融機関や仕入先、顧客などの取引先などに、信頼を得られるような人材を後継者として選ばなければなりません。

中小企業は、現経営者とのつながりが強く、経営者が交代すると取引先が今まで通りの取引を継続しない場合もあります。取引先との信頼関係を維持するため、早くから後継者を取引先に紹介、事業継承への協力等の依頼をすることも大切です。

事業が発展

経営革新的な後継者が事業を継続していくことで、拡大や発展が望める環境になります。後継者は、現経営者にはない新しい考えのもとに会社の経営を行います。

日本には、100年以上も続く老舗企業が多くありその数は約2万5千件以上になります。そのほとんどが中小企業。老舗企業は伝統の経営理念を継承しつつ、時代にあった感覚もバランスよく取り入れています。

経営者が交代するということは、新しい感性を持った経営者に道を譲るということ。時代にあった事業展開を期待でき、事業の発展も見込めます。

従業員の雇用確保

事業継承されると、廃業に追い込まれることもなくなるので、長年会社を支えてきた従業員の雇用を可能な限り維持できるのも大きなメリットです。

従業員の中には後継者よりも長く会社に勤務し、取引先に信頼のされているような優秀な人材もいます。事業継承し会社を存続させることで、会社にとって貴重な人材も確保できます。

事業を廃業することで失われる雇用は毎年、20万人から30万人いると推定。その雇用を確保するためにも事業の継承は円滑に行わなければなりません。事業継承は、従業員にとっても一大事です。失業の可能性もあり、不安を抱えることでしょう。後継者を1日でも早く選定することでその不安をなくし、仕事に専念できる環境を作らなけばなりません。

事業承継の選択肢

親族内への経営承継

後継者の候補者として、現経営者の子息、妻、娘婿、兄弟姉妹等の親族に対して事業を承継させる方法があります。

親族に継承する場合、早期に後継者としての自覚を芽生えさせるなど、長期間に渡り後継者としての教育を受けることができます。そして、経営者の約6割は、親族内への承継を望んでいます。

しかし、近年親族内の経営承継は減少。子の価値観が多様化し、家業を継ぐ子供が減少していること、親の立場として、子供には好きな道を歩ませたいなどの理由があるといわれています。

気をつけなければいけないのは、後継者としての資質や能力がないのに、無理やり後継者として選んでしまうことです。この場合、本人にも会社にも不幸なことなので、親族内の後継者選びは慎重に行わなければなりません。

そのほか、事業を承継する意思を持たない場合や、複数の子供がいる場合、後継者候補が決定した時点で、後継者以外の処遇を決めなければんなりません。相続人同士が争族にならないように、後継者にはならない子供と後継者の兄弟間の距離が保たれるような、配慮も必要になります。

従業員への親族外承継

親族内に、後継者の候補者がいない場合は、長年会社を支えてきた役員や従業員を後継者として事業を承継させる親族外承継があります。親族外承継には、一時的に従業員に承継し、経営者の子息などに将来的に引き継ぐ橋渡しの場合もあります。

従業員の中から候補者を選定する場合、ほかの従業員同士の軋轢が生じるようなことがあってはなりません。また、親族に承継の意思のないことをきちんと確認してから、従業員などの親族以外の候補者を選定します。

そのほか、取引先の企業、金融機関から招くこともあります。この場合は、従業員との間に信頼関係がありませんので特に慎重にしなければなりません。

M&Aによる親族外承継

親族、従業員の中に後継者としてふさわしい人物がいないとき、M&Aで事業継承する方法があります。M&Aとは、親族や従業員等以外の第三者に対して会社の権利を売却し、この第三者が事業を承継すること。企業への合併もM&Aに含まれます。

M&Aには会社の権利すべてを第三者に売却する方法と、会社の権利の一部のみを第三者に売却する方法があります。株式をすべて売却する方法は、現経営者は企業への権限が一切なくなりますが、売却した金額で退職金がまかなえます。事業のみ売却するケースも。買う側は、どちらにしても、会社の純資産、ブランド力、収益力などで評価価値を決定し価値を決定します。

それぞれのメリット

親族内承継では

親族内承継のメリットとして次の点があげられます。

☑ 1.関係者から受け入れられやすい
☑ 2.後継者を早期に決定できる

親族内で後継者を選定した場合、早い段階で社内外の関係者に紹介し取引先や従業員と信頼関係を築けるようにすることも現経営者の責任になります。親族内の承継は、経営に対して一貫性を保てるという利点もあります。そして、現経営者は自分の親族が経営に携わることでの安心感が得られます。

デメリットとしては、経営能力のある候補者がいるとは限らず、承継する意思があるとも限らないことです。資質の問題もあり例えば、取引先や従業員と信頼関係を築いていくことができない人間では後継者としては難しいです。

従業員等の親族外承継では

従業員などの親族外承継のメリットは次の点があげられます。

☑ 1.後継者の育成時間の短縮ができる
☑ 2.経営の一体性を保ちやすい

長年、勤務してきた従業員の強みとして、事業内容を知り尽くしていることでしょう。業務において円滑に遂行できる利点があります。とくに、取引先と信頼関係を築いている従業員に承継した場合は、取引先に影響を与えることもないのが大きな利点といえます。

そのほか、従業員として長年の勤務の経験から経営方針などの経営に一体性を保ちやすいメリットもあります。近年は、従業員などに承継する企業が増加傾向にあります。

デメリットとしては、後継者候補の事業資金の不足、株式取得などの資金力がない、など資金面での問題があります。後継者自身が、金融機関に個人的に借入の申し込みをする、会社で資金を提供するなどの方法がありますが、税引き後の現金を返済原資とするなど返済に関して問題が残ります。

M&Aにおいては

事業を外部に売却するM&Aには2つのメリットがあります。

☑ 1.後継者を育成する必要がない
☑ 2.資金調達の必要がない

親族、従業員等で適任者がいない場合、廃業のリスクを回避できるメリットもあります。株式譲渡する方法と、事業のみを譲渡する方法があります。会社を売却することで利益も得ることができます。

M&Aの場合は、資金を調達する必要がなく事業継承ができ、経営が健全な会社で買収企業からしてみて優良な企業であれば、現経営者は売却した代金で第二の人生を送る資金を手に入れることもできます。

しかし、マッチング候補を見つけるまで時間がかかることがデメリットの一つとしてあげられます。従業員の雇用、売却価格などの条件にマッチした買い手を見つけるまでに数年かかることもあるといわれます。

近年は、友好的M&Aが増加しています。数年から10年という時間を経て行う事業継承もM&Aでは、社外より次期経営者が派遣されます。よい条件でのM&Aを進めるためには、早くから事業承継について計画、実行に移ることが重要になります。

事業継承の流れ

会社の現状把握

現経営者での現状や将来の見込み、キャッシュフローなどを把握しておく必要があります。収益や株価を正確に計算。貸借対照表上の含み損は、将来、収益が下がる原因ともなります。

会社で借入金がある場合、後継者を選定できず廃業してしまう企業も。個人保証を拒否し後継者が決まらないなど、債務超過の企業は後継者にとっては大きな負担になります

知的財産にはどんなものがあるのか、知的財産を把握することも重要です。現経営者の人脈など、伝えておかなければならないことを、現経営者と後継者の双方で報告書という形で作成すれば、自社においての経営の課題がみえてきます。

個人財産の把握

事業の継承するまえに、現経営者は会社名義の個人の負債や個人名義の土地などの個人財産の把握をしておく必要があります。そのほか、会社から現経営者に貸付金などがある場合は、貸付金は処理しておく必要があります。

借入金が多額の場合、後継者に負担が大きくのしかかります。事業を継承しても借金が多くては、事業の存続が難しくなります。再建の可能性があるのなら、再建計画を立て事業を健全化します。

事業再生として、金融機関等から債務免除を受けた場合は、現経営者は経営責任として退任。事業再生に着手するまえに、後継者による新体制を確立させ、事業の見直しを図ることが重要になります。

財政の健全化が難しいようなら、会社を清算することも視野に入れておかなければなりません。債務超過の企業は、後継者を苦しめることになります。後継者が信用保証を拒否したため廃業に追い込まれた企業も存在します。

後継者の選定

事業を承継するにはまず、親族、従業員等関係者、第三者のうち誰を後継者とするか決め、承継方法を確定する必要があります。それには会社の経営理念のもと、会社を維持、発展する能力のある適任者を見つけることが大切です。

後継者の資質として大事なのは、

☑ 取引先や従業員に信頼される人間であること

☑ 会社の現状をきちんと把握できること

☑ 人の上に立つものとしての責任感があること

☑ プラス思考、熱意があり志が高いこと

☑ 他人の意見耳を傾けられる

☑ 他人に対して気配りができる

などがあげられます。つまり、取引先や従業員に納得と支持が得られる後継者を選出しなければなりません。「この人ならば社長として認められる」と納得できる後継者を見つけることは大変です。現経営者が信頼できる人間を後継者として選定しましょう。

承継方法を決めたら、後継者として企業を経営するための教育を行います。後継者の育成のほかに、後継者を支える幹部の育成も必要になります。

理想としては現経営者と後継者が、社長と専務など経営陣として併走する時期があることが望ましいとされています。

事業継承計画書の作成

経営理念を明文化していない企業はまず、企業にとって大切な経営理念の確認を行います。経営理念の確認や明文化が済んだら、経営についての戦略やビジョンを盛り込んだ中長期の経営計画について策定します。

事業承継の時期、財産関係の整理、税金に関することなどできるだけ具体的な対策を盛り込んだ計画書を作成。経営全般を見直すことも必要ですし、従業員に承継するなら資金の問題もクリアにしなければなりません。

財産承継の場合は相続税の対策、株式の分配はどうするか、贈与税の対策もしなければなりません。必要ならば、定款の変更も行うなど会社に関するありとあらゆることについて、現経営者と後継者は計画する必要があります。

事業継承までは時間がかかります。承継後の組織図や経営陣の人材育成を含めたプランニングのほかに、実行するために必要な予算計画や管理体制も考える必要があります。

策定した経営計画をもとに、行動を実行に移しますがこの計画を実行に移すのは、後継者と後継者のもとで幹部として働く幹部候補生。計画と実績にズレが生じた場合、原因の究明、そして修正することで経営陣として経験と実績を積み上げ能力を鍛えます。

早めの準備で円滑な経営承継を行おう

長く会社を存続するうえでは避けて通れない事業継承。その事業継承には大きく3つの方法があります。親族内に継承、従業員等に継承、M &Aを利用して第三者に売却する方法です。

どの方法にもメリット、デメリットがあります。自社にふさわしい事業継承はどの形か、後継者の候補者の選定を含め、決めるべきことはたくさんあります。

事業継承について分からないことがあるのなら、弁護士、税理士、司法書士や行政書士、商工会議所などで相談することも大切です。自社の存続、発展のためにも専門家の意見を踏まえながら上手に事業継承していくことを心がけましょう。

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