個人だけでなく法人も税金を納付しなければなりません。法人税は法人所得税、法人住民税、法人事業税で構成される税金です。国の財源として、消費税などとともに国の重要な財源となっている法人税ですが、利益に対する考え方が企業会計と税法で異なります。
目次
法人税について
法人の所得に課される税金
法人は法人税法により、税金を納付することになっています。法人税と呼ばれ、会社などが事業活動により得た利益に対して課せられる税金。所得税の一種と言えます。
法人税は会社の規模により税率が異なり、利益のすべてに課税される税金です。法人税は所得税、消費税とともに国の重要な財源となっています。現在の法人税法は昭和25年のシャウプ勧告を基礎としています。
法人には普通法人、協同組合など、公共法人、人格のない社団などがあります。普通法人は株式会社や有限会社、医療法人、相互会社、企業組合などです。全所得が原則課税されます。ただし、中小企業は税率が軽減。協同組合などは法人税は課税されていますが税率は軽減されています。
公共法人は地方公共団体や事業団などが該当、法人税は非課税です。公益法人は原則非課税ですが収益事業で生じた所得は法人税の課税対象となります。
人格のない団体とは、PTAや実行委員会です。法律上の法人ではないのですが税法上は法人となり、収益事業で生じた所得については法人税の課税対象となります。
法人税法において、法人が各事業年度に所得金額および法人税額をみずから計算し確定して、税務署に申告し納付する申告納税式を適用しています。
法人税の仕組み
法人税は法人所得税、法人住民税、法人事業税の3種類の税金から成り立っています。法人所得税は国税。法人の所得に課される税金ですが、企業会計上の利益に課税するのではなく税務上の所得に課税されます。
法人住民税と、法人事業税は地方税になります。法人住民税は法人の事業所のある地方自治体に納付。法人住民税は法人として所得がなくても納付しなければなりません。法人事業税も地方自治体に納付します。企業の日本国内での事業活動に対し都道府県または市町村が課税している税金です。
法人税の計算に必要な決算資料
法人税を計算するためには決算資料が必要になります。取締役会を経て、株主総会の決議を得ることができれば、法人税申告書を作成することができます。
☑総勘定元帳は法人のすべての経理処理が記録されている元帳。事業活動のさまざまな経理処理が行われます。設立が間もない企業でもページ数が多くなることがあります。
☑領収書綴りは経費の流れを日付順に追うことができる書類です。
☑決算報告書には貸借対照表や損益計算書、株主資本等変動計画書が含まれています。
☑勘定科目明細書は勘定科目ごとの詳細を記録したものです。
☑法人申告書は税務計算書類や勘定科目明細書などを綴ったものになります。
☑消費税申告書は消費税の申告に用います。計算付表の添付が必要です。
☑事業概況説明書は事業内容や取引状況、経理状況を所定の書式で記載します。
☑地方税申告書は各都道府県に提出する法人事業税の申告書です。
法人所得税の概要と計算方法
法人所得税について
法人の所得に課税される法人所得税。法人の所得を算出し、その所得に定められた税率を乗ずることで計算します。国税である法人所得税は固定税率で計算され、損金に算入されません。
企業会計は投資家などに事業内容が分かりやすいように伝えることを重視。一方、法人税法上の所得金額は、税負担の公平などを測る見地から計算されます。
益金は企業会計では収益となり、損金は費用や損失になります。会社の計算上では収益でも税法上の益金とみないものがあります。経費でも益金とみなされないものもあり、会社計算上では収益とはみなさないものが税法上は益金となるものもあるのです。そのため、企業会計の項目と税法の調整が必要になります。
法人所得税の計算方法
まずは事業年度の法人の所得金額を算出します。
☑ 所得金額の算出式
所得金額=益金の額—損金の額
法人税額=所得金額×所定の税率
平成28年4月から平成29年3月31日までに開始した事業年度における普通法人と人格のない社団等の法人税の基本税率は23.4%です。ただし、普通法人のうち資本金が1億円以下の法人または人格のない社団などで年800万円以下の所得については15%の軽減税率になります。
軽減措置制度を利用した場合
法人税の軽減措置制度を利用することもできます。
☑ 資本金1億円以下
☑ 年間所得800万円以下
の2つの条件が満たされた場合に適用されます。
☑ 資本金が2,000万円 年間所得が600万円の場合
600万円×15%=90万円
☑ 資本金が8,000万円 年間所得が2,000万円の場合
資本金は条件を満たしていますが、年間所得は800万円を超えているため条件を満たしていません。この場合、年間所得を分けて計算します。
☑ 800万円以下の所得に対する税額 800万×15%=120万円
☑ 800万円超の所得に対する税額 1,200万円×23.4%=280万円
合計400万円が法人税として納付する金額になります。
法人住民税の概要と計算方法
法人住民税について
地方税法により、都道府県民税や市町村民税の法人の納税義務を定めています。企業が都道府県や市区町村に事務所や事業所がある企業には均等割りと法人割が課税、都道府県に寮などの施設はあるが事務所や事業所がない企業などは均等割りのみが課税。
☑ 均等割りについて
均等割りは、企業の資本等の金額に応じた定額となっています。課税の金額が都道府県民税は2万円から80万円の5段階に分かれています。市町村民税は法人の資本等の金額および事業所等の在籍人員数に応じ年額5万円から300万円の9段階に分かれています。赤字の場合でも納付しなければなりません。
☑ 法人割について
法人税額に一定率を乗じ計算。この法人税額は源泉所得税額や外国税額の控除前のものです。税率は企業の規模、都道府県、市町村によって異なります。
法人住民税の計算方法
法人住民税は法人割と均等割りの合計額で算出します。
☑ 法人税率×住民税率=法人税割
☑ 法人税割+均等割り=法人住民税
住民税率は都道府県や市町村によって異なるので地方自治体に確認が必要になります。支社や支店などがあり2つ以上の都道府県にある場合は法人税額を支社や支店の従業員数で分割し納税。
均等割は、資本金の金額により税額が異なります。
法人事業税の概要と計算方法
法人事業税について
法人事業税は、企業の日本国内における事業活動に対し、都道府県が課している地方税です。事業活動を行うには道路や橋梁、港湾をなどを使用します。
これらは行政サービスの一環として行われているものですが、このサービスのコストを企業で公平に負担しましょうという考えで課税されています。
事業税の課税標準となる所得金額は法人税における所得金額と同じものですが、海外における事業活動で得た所得は控除の対象になります。
事業税は、法人が損金に経理処理しても、しなくても税法上損金に算入可能。当事業年度分に対する事業税は、原則として当期の損金の額には算入できませんが、その納税申告書が提出された日の属する事業年度の損金の額に算入されます。
法人事業税の計算方法
事業税の課税標準となるのは所得金額。基本的に法人税における所得金額と同じです。法人事業税は事業税額と地方法人特別税額で構成されおり、事業税額は所得割、付加価値割、資本割の3つで構成されています。
☑ 年400万円以下の所得金額 4%
☑ 年400万円以上、800万円以下の所得金額 1%
☑ 年800万円超の所得金額 7%
平成20年度税制改正により、従来の法人事業税の一部を「地方法人特別税額」とし、国に一度納付した後にその総額の50%を人口数で、また残りの50%を従業員数により各都道府県に「地方法人特別譲与税」として譲与することになっています。
☑ 1.(利益-費用)×法人事業税の税率=所得割
☑ 2.所得割+(付加価値割+資本割)=事業税額
☑ 3.地方法人税×地方法人特別税の税率=地方法人特別税
☑ 4.事業税額+地方法人特別税=事業税
上記計算式で算出します。資本金1億円以下の企業は所得割のみ納付すればよいことになっています。
外形標準課税が適用された場合
黒字の企業も赤字の企業も、行政サービスを受けている以上平等に費用を負担しましょうと2004年に導入された制度。それ以前は、帳簿の上で利益が出ている企業が法人事業税を負担していました。企業は事業活動において各種行政サービスを受けています。外形標準課税は行政サービスの経費を公平に分担する「税負担公平性の確保」を目的にしています。
外形標準課税は企業の建物の面積や従業員数、売上高など企業の規模を外形的に表す基準を用いて課税することです。事業年度の最終日に資本金1億円を超える法人が対象。所得割に加えて付加価値割、資本割の外形基準で課税します。一般財団法人や公共法人は対象外です。事業税の1/4を外形基準で課税、3/4を所得基準の割合で課税されます。
☑ 所得割
各事業年度の所得および清算所得です。
☑ 付加価値割
各事業年度の収益配分額に各事業年度の単年度損益を合算します。収益配分額とは報酬給与額、純支払利子、純支払賃借料を合計したものです。報酬給与額とは報酬、給料、賃金および賞与の金額を合計したものになります。純支払利子とは、支払利息の合計額から受取利息の合計を控除したものです。
☑ 資本割
各事業年度の資本などの金額です。
平成27年度および平成28年度の税制改正において外形標準課税の税率は引き上げられています。付加価値額が40億円未満の法人は軽減措置が講じられています。
法人税の申告について
申告の書類と記入例
法人税の申告に必要な書類は別表や様式と呼ばれています。この法人税申告書は毎年のように改正されています。直近では平成29年9月29日より法人税法が一部変更。平成29年10月1日以降に事業年度が終了する場合、申告書の別表の様式が一部変更されているので注意が必要です。別表の数は200種類以上ありますが、通常用いられるのは20種類から30種類になります。各申告書の計算区分は以下のようになります。
☑ 別表1の1 各事業年度の所得に係る申告書
普通法人の各事業年度における所得の申告書です。別表4を記入することで算出された所得金額をもとにこの別表で法人の納める法人税額がわかります。もっとも重要なのは代表者の自署押印です。ゴム印や他人が代筆することも認められていません。経理責任者が自署押印する場合も同様です。押印は個人の印を押印します
☑ 別表4 所得の金額の計算に関する明細書
所得の計算に関する申告書。決算書の利益と税法上の利益の違いを調整します。
☑ 別表5の1 利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書
税務上の全資産を記載
☑ 別表5の2 租税公課の納付状況等に関する明細書
当期に納付した法人税、住民税、事業税などを明細や確定した税額等を記載
☑ 別表6の1 所得税額の控除に関する明細書
所得控除の明細書
☑ 別表15 交際費等の損金算入に関する明細書
交際費などの損金を記載
そのほかに復興法人特別税に関する書類もあります。国税庁のHPからダウンロードが可能です。
申告書に必要な添付書類
法人税の別表書類に添付する書類があります。
☑ 決算報告書
☑ 勘定科目明細書
☑ 事業概況説明書
☑ 別表1OCR
☑ 適用額明細書
そのほか消費税の申告がある場合は、消費税申告書の提出が必要になります。
別表と決算書と勘定科目明細書は番号順に並べて重ね、左端を2か所ホチキスで綴じて提出します。別表1OCRと事業概況説明書そして該当がある場合のみの適用額明細書は綴じずにそのまま提出します。
申告書の提出部数
提出先の税務署や法人の資本金などの規模により、申告書の提出部数は企業ごとに異なります。前期に基づいた提出部数を印字された申告書が税務署より送付されてきますが、当期の状況とは異なる場合も。
☑ 資本金が1億円以上の企業
法人税申告書3部+OCR用紙
☑ 資本金が9,000万円以上、または法人税額が5,500万円以上の企業
法人税申告書2部+OCR用紙
☑ そのほかの企業
法人税申告書2部+OCR用紙
税務署によっては例外もあるので所轄の税務署に確認する必要があります。提出部数が不足していると税務署より催促されたり、納税者の控えを代わりに提出させられたりします。
法人税の申告方法
法人税法申告方法は3つ。税務署窓口に直接提出するか、郵送で申告書類を一式税務署に送付するか、インターネットで送信の3つの方法があります。
所轄の税務署に直接提出する方法は、一番確実です。郵送の場合、管轄の税務署に申告書類を一式送付します。「信書」に当たるものなので「第一郵便」もしくは「信書便物」で送付。郵便物または信書便の通信日付印に表示されている日付が提出日となります。郵便物、信書便物以外の小荷物などでの送付はできませんので注意が必要です。
インターネットは、国税庁のサイトにあるe-taxを利用して送信する方法です。利用には電子証明書が必要になります。電子申告は、市販の財務会計ソフトを利用して行うことも可能です。
申告書類の保存
法人税法などの法律により、申告書類の保存が定められ、7年間は保存の義務があります。
☑ 7年間保存が必要なもの
貸借対照表、損益計算書、事業報告書、領収書、預金通帳、総勘定元帳など
☑電子データで保存可能な書類
損益計算書、貸借対照表などの決算書類、仕訳帳や総勘定元帳、相手方に送付する請求書の控えなど
電子データで保存するには所轄税務署署長の承認が必要です。電子データを訂正したときの訂正や削除した場合の内容が確認できるようにしなければなりません。そして、帳簿書類の主要な項目を検索の条件として電子データの内容が検索できるようにする必要があります。修正申告や税務調査などで使用する場合もあるので誤って破棄することのないようにしましょう。
法人税の申告と納付期限
法人税の確定申告、税額の給付は株主総会などを経て確定した決算に基づいて行われます。その申告期限は決算後2ヶ月以内。しかし会計監査人の監査のために2ヶ月以内に決算が確定しない場合、申告期限の延長が認められる制度もあります。「申告期限の延長の特例」といわれる制度です。
会計監査人の監査を受けていない企業でも申告期限の延長が可能。会社の定款に株主総会の収集時期の記載が「3ヶ月以内」となっている場合、申告期限の延長が可能です。申告期限の延長の特例を申請するには国税庁のホームページから「申告期限の延長の特例申請書」をダウンロードし記入、所轄の税務署に提出します。この申請の承認を受けた場合その延長された1ヶ月については利子税を納付する必要があります。
また、災害に遭遇などのやむをえない場合で申告書を提出できないときも延長ができます。こちらは「申告期限の延長」といわれる制度です。災害が停止した日から2か月以内に限り認められる制度。
消費税の延長はできません。決算日から2ヶ月以内に申告する必要があります。
申告と納付が遅れた場合
確定申告書は、事業年度が終了後2か月の法定申告期限内に提出。この期限内に提出された申告書は期限内申告書と呼ばれています。
法定申告期限を過ぎても税務署長の決定があるまでは申告書の提出は可能。申告期限後に提出された申告書を期限後申告書と呼びます。この期限後申告書を提出した場合、ペナルティとして課せられるのが納付税額に対しての延滞税です。そのほか、原則として無申告加算税が課せられます。この無申告加算税は、本来納付する金額の5%から20%です。
2年連続で期限内に申告書を提出しなかった場合は、青色申告の承認取り消し対象になります。青色申告が適用されないと赤字の翌年繰越ができない、税額控除の対象から外れてしまうなどのデメリットがあるので注意が必要です。
法人税のポイント
申告や納付が間に合わない場合の対策
災害そのほかやむをえない理由があって決算が確定せず2ヶ月の期限内申告ができないときは申告期限の延長の特例申請ができます。延長申請には所轄税務署長の認可が必要。延長申請は決算日の45日以内に延長の理由を記載した書類を提出します。
申告期限の延長の承認を受けた場合、その延長された1ヶ月間については利子税を納付しなければなりませんが、本来の申告期限までに見込納付することで利子税は不要に。
監査法人の監査を受けなければならない上場企業などは2ヶ月では決算が確定しないことあり、この場合申告書の提出期限を1か月延長することは可能です。公認会計士の監査を受けている企業は決算日のあと3ヶ月後に株主総会を開くことが多く、そこで決議された確定決算をもとに期限延長された法人の確定申告をすることになります。その場合、とりあえず利子税の支払いを避けるため概算額を納付することもあります。
法人所得が赤字になった場合
会社が利子や配当金を受取るときは、所得税法のきまりにより所得税が先に徴収されます。これは法人税の前払いといえるものです。今期の業績が不振で利益が残らなかった場合も源泉徴収で所得税は差し引かれています。
しかしある事業年度に赤字が生じた場合、法人住民税の均等割の納税はしなければなりませんが、そのほかの法人税は課税されません。赤字の課税所得は「欠損金」といわれます。翌年以降に所得ができたときにその所得と相殺する制度があります。「欠損金の繰越控除制度」といわれる制度です。
また、前期が黒字なら繰戻還付ができます。法人税額の還付を受ける制度です。この制度をうけるには、過去の事業年度に青色申告をしている必要があります。そして「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出。欠損金の一部や全額を前期に繰り戻して前期の課税所得と相殺し納付済みの法人税の還付を受けることができます。
シミュレーションを利用して法人税の概算を知る
法人税の概算は税理士事務所のHPでシュミレーションができます。エクセルファイルで計算できるものから、オンライン上で計算できるものもあるなどその事務所により異なっているので注意が必要です。欠損金には対応していないシステムだったりする場合もあります。
法人税の概算を知ることで実際の納税のときの目安となります。試算は無料で行うことができるものが多いので自分の企業の法人税の税額が気になる場合は、シュミレーションしてみましょう。
法人税は企業会計上と税法上の利益の考え方の違いもあり、難解です。シュミレーションを行なっても理解できない部分もあるかもしれません。そのときは、税理士や税務署の職員に相談することも必要になります。
法人税を理解してより良い経営へ活かす
法人税は法人の所得に課せられる税金です。その法人税は国の税金収入のうち所得税、消費税について3番目の財源となっています。法人税の課税所得金額は企業会計上の利益額に法人税法で定めた申告調整事項を加えて算出。
法人税の申告は決算に基づき原則として事業年度終了の翌日から2か月以内に行う必要があります。ただし、会計監査人の監査が間に合わない、災害により申告ができない場合は所轄の税務署長に申請することで期間の延長することが可能です。法人税をきちんと納付するためにはしっかり法人税の仕組みを理解することが必要。わからない点は税理士や税務署の職員の職員に相談するなどしてきちんと納税しましょう。