雇用保険と社会保険のメリット。それぞれの基礎知識の違いとは

同じ「保険」と付いているので、どちらが何のためにあるのか混同しまいがち。改めてそれぞれの基礎知識と違いを掘り下げてみました。2つの保険についてのメリットが分かった上で、保険料をしっかり納める気持ちにつなげましょう。

雇用保険の基礎知識

失業した時の基本手当

雇用保険は、労働保険の一つです。労働保険には、「労災保険」と「雇用保険」があり、事業主も労働者も安心して働くことができるようにする為に必要な保険です。

この労働保険の一つ雇用保険の主な目的として一番に目がいくのは、失業したときの「失業手当」ですよね。失業者の収入を保障してくれるというものです。でもこの言葉は正しくは失業における「基本手当」ですのでこれ以降は「基本手当」でご紹介いたします。

この基本手当は雇用保険において最も重要な保険給付となっています。雇用保険に一定期間以上加入していた人が、失業などによって雇用されている状態でなくなった場合に、職業安定所(ハローワーク)に申請を行うことで受給できるものです。

このほかにも手当てとしては育児休業中で会社から給与が支給されない期間の補填として「育児休業給付金」や、60歳以上65歳未満で給与が減額されたときの補填として「高齢雇用継続給付金」、そして介護休業中の補填として「介護休業給付金」があります。

再就職の支援

基本手当にどうしても目が行きがちですが、この雇用保険は「労働者の生活および雇用の安定と就職の促進のために、失業された方や教育訓練を受けられる方などに対して、基本手当などを支給する」というもの。

再就職の為の支援も行うのが雇用保険のもう一つの特徴なのです。個人に対する「教育訓練給付金制度」や一定の条件を満たして再就職すると「再就職手当」が支給されたりするだけに限らず、会社へも雇用安定に関する助成金制度があります。

厚生労働省で定められた国民の権利ですので使えるものは有効に使いましょう。分からないことや、失業したときには必ず早めに職業安定所(ハローワーク)に足を運び、今できることは何かを相談すると、手続きの方法などを教えてくれます。

ちなみに職業訓練給付金制度を利用しようと考えているのであればなおのこと、早く動くようにしないとこちらの講座を受講する前に手続きを行ったり一定の条件にはまらなければ利用することができません。しかも専門実践教育訓練の指定講座は開講月や訓練期間などすべてが決まっています。

受けたいものを受講する為にも早めに手続きをし、開講時期も忘れずに把握しておくことが重要となります。

従業員を1人でも雇用していれば手続きが必要

雇用保険は事業主が従業員を1人雇用していれば雇用保険の加入手続きが必要となります。雇用保険の加入条件に該当するのであれば手続きを行わないといけません。

これは強制加入ですので、もし条件を満たしているのにもかかわらず雇用保険を掛けてくれない事業主にはしっかりとその旨を伝えるか、職業安定所から連絡してもらいましょう。

また自分が雇用保険に加入しているのか確認することも照会手続きを行えば、雇用保険加入の有無が職業安定所で分かるようになっていますので、そういった場合には確認してみると良いですね。もしかかっていないのであれば、さかのぼって保険金を納めれば加入することもできます。

社会保険の基礎知識

健康保険と厚生年金保険を合わせた総称

まず「社会保険」とは会社で働き始めるときに加入することとなる、「健康保険」「厚生年金」「介護保険」をまとめた総称です。社会保険料は毎月会社から出る給与から、会社と折半した金額を会社側が天引きして預かり、会社がまとめて支払うこととなります。

また社会保険は個人が選んで入る保険ではなく、勤める会社が加入している社会保険に加入することとなり、一定の条件に当てはまらない場合以外は、会社で勤めている限り、全員加入することとなります。法人に対して加入が義務付けられているのです。

社会保険の中に含まれているそれぞれの保険で、被保険者ならびに被扶養者となっている場合には給付が行われます。

病気やけがによる生活の保障

社会保険の中の一つの「健康保険」では、病気やけがによる生活の保障を受けることができます。まず「療養の給付」・「家族診療費」は加入している人が病院にかかった際に「被保険者証」を提示することで、3割の自己負担となるものです。(未就学児、70歳から74歳までは負担額は違います。)

次に「高額医療費」は、本人の申請や条件を満たすと医療費の自己負担額が後から払い戻されるものです。その他にも「傷病手当金」、「出産育児一時金・出産手当金」、「埋葬料の支給」があり、これらによって生活の保障が私たちにされているのです。

日本のこの保険制度があるゆえに、時々海外旅行で病気やけがなどで手当を受けるとすさまじい金額の高さにびっくりしたという声を聞きます。医療を受けやすい環境のために社会保険があるということを、今一度考え直したいものです。

年金の上乗せや介護保険も

社会保険の中に含まれている「厚生年金」は、国民年金の基礎年金に上乗せするもの。分かりやすくいうと年金の2階建てのような構造になって、保険給付が行われることとなります。

厚生年金に加入している人は、同時に国民年金にも加入していることとなりますので、年金を受け取る際も国民年金分と厚生年金分の年金が受け取れるということです。

また厚生年金の第3号被保険者(第2号被保険者である会社で勤めているものの扶養されている20歳から60歳未満の年収130万円以下の配偶者)は、加入団体が一括して保険料を負担してくれますので、個別に支払う必要もありません。

そして同じく社会保険の一つである「介護保険」では、市区町村の認定が受けられれば給付が受けられるようになり、訪問介護などの居宅サービス、定期巡回、随時対応型訪問などの施設サービス、老人福祉施設や老人保健施設などの地域密着型サービスを、利用者の利用限度額の1割自己負担で利用ができるというものです。

こういった制度を受けられるために「社会保険」に加入しているのです。

雇用保険と社会保険の違い

加入条件が異なる

そもそも2つとも「社会保障制度の1つ」で「従業員の生活の一部を保障するもの」という共通点があるのですが、他はぜんぜん違いますので混乱しないように1つずつポイントに分けてみていきましょう。まずは加入条件の違いです。

雇用保険の加入条件

加入の対象者が広く、適用事業所自体が業種にかかわらず、従業員一人でも雇用している場合加入しなければなりません。個人の加入条件としては以下に該当する場合が対象となります。

☑所定労働時間(休憩時間を除いた労働時間)が1週間で20時間以上

☑雇用見込みが31日以上ある(基本的に1日〜数週間といった短期雇用の場合は雇用保険は加入できません。)

ここに当てはまるのであればアルバイトもパートタイム労働も雇用保険の加入対象者となります。どちらの条件にも当てはまる場合、事業主には必ず「雇用保険被保険者資格取得届」を管轄の職業安定所(ハローワーク)に被保険者となった日の属する月の翌月10日までに提出してもらうこととなります。

社会保険の加入条件

一方社会保険の加入対象者は、会社が適用事業者であるかどうかがまず重要となります。適用事業所となる条件は国や法人の事業所、個人事業所のうち例外的に「常時5人未満の労働者を雇用する農林の事業、畜産、養蚕又は水産の事業」に関しては任意適用となりますので会社の形態を把握した上で確認しましょう。

次に従業員個人の加入条件についてですが以下に該当する場合が対象者となります。

☑雇用の見込みが2ヶ月以上ある

☑労働時間が正社員の3/4以上ある

このどちらの条件にも当てはまる場合は、社会保険に加入することができます。ですので、もちろん条件に当てはまればアルバイトもパートタイム労働者も加入することが可能です。また社会保険には厚生年金が含まれていますので、加入期間が2ヶ月以上ある場合には厚生年金が受け取れます。

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保険料の計算方法

では次にそれぞれ収めなければならない保険料についてみていこうと思います。それぞれ計算方法の仕方が異なりますので、ここで確認していただければと思います。

雇用保険の保険料計算方法

平成29年4月から雇用保険料率が引き下がります。ここでは一般事業の方のものを例として出していきます。平成29年3月までは雇用保険料率は1.1%で、それを労働者は0.4%支払っていますが、4月以降雇用保険利用率は0.9%となり労働者の負担は0.3%となります。(平成30年3月31日まで)

この雇用保険料率を使って毎月計算し、毎月の給与の総額から控除するというものです。計算式で言うと、「被保険者の雇用保険料(控除額)=毎月の給与総額×雇用保険料率」となります。

社会保険の保険料計算方法

社会保険の保険料は標準報酬月額と健康保険料、厚生年金保険料をそれぞれ掛けて出たものの合算となります。報酬月額とは1ヶ月に支払われる給与のことで、まずはこの報酬月額を計算する必要があります。

この報酬に、含まれるものと含まれないものそれぞれがありますので、含まれるもののみ含めます。一般的な標準報酬月額の導き方としては、4月〜6月の給与等の平均で導き出します。

この標準報酬月額と協会けんぽの場合は、都道府県ごとに定められた「健康保険・厚生年金保険の保険証額表」に基づいて保険料が決められます。組合の場合も組合ごとに料額表を決めています。

保険料を納める管轄

先ほどの保険料の算出方法で導いた保険料を納める管轄もそれぞれ違います。雇用保険の管轄は、全国の都道府県にある労働局と呼ばれる「労働基準監督署」が管轄をしています。細かく言うと雇用保険は職業安定所(ハローワーク)、労災保険は「労働基準監督署」になります。

そして社会保険の管轄は、まず健康保険は「年金事務所」、厚生年金は「日本年金機構」、介護保険は全国の市区町村にある役場がそれぞれ管轄となります。このように管轄がそれぞれ違いますので、手続きの場所を間違えてしまうことのないように気をつけましょう。

年末調整で控除適用

年末調整の際に「自分で払った社会保険料」については控除の対象となりますので、自分で申告しなければ控除は受けられませんので注意しましょう。

社会保険料の控除対象となるのは、例えば転職期間に支払った社会保険料や、子どもないし配偶者の健康保険料を扶養に入れてない場合に支払ったというときが該当します。ですので該当する場合にはしっかり年末調整で申告し忘れないようにしましょう。

パート扶養内で働く場合の条件

まず扶養内で働くということは2つのケースがあり、1つは所得税の発生する基準である「年収103万円の壁」。もう1つが健康保険や年金など社会保険料が発生する基準である「年収130万円の壁」です。

このことから分かるように、社会保険の場合にはこの「年収130万円の壁」が条件として上がってきます。パートとして扶養控除内で働きたいのであれば、この範囲内で仕事をするようにすると控除が受けられます。

雇用保険に関しては、「扶養内で働いている場合でも加入する」という場合もあります。なぜなら、先でご説明した扶養の範囲と雇用保険の加入条件は関係がないからです。ですので130万円以内で勤めたまま雇用保険をかけることも可能で、現に以下の例のような場合は当てはまります。

時給900円で週に20時間4週間働くと72000円の月収です。年収とすると12ヶ月で864000円ですので、扶養の範囲内。ですので意外と知られていないのかもしれませんが雇用保険には加入できるのです。

2つの保険のメリットを理解して保険料を納めよう

それぞれの違いと基本的なことが分かると、活用方法や保険料の納め方、もしものときの手続き方法もちょっと見やすくなってきます。それぞれの保険で受けられる給付や制度をうまく使う為にも、是非理解したうえで保険料を納めていきましょう。

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