仕事で様々な手続きを請け負う中で、従業員と役員の違いについて疑問に思ったことがある方もいるのではないでしょうか。従業員は雇用される側で役員は経営側なので、そもそも契約が違います。兼務している場合や、報酬の違いについてよく理解を深めましょう。
目次
従業員と役員の定義
従業員の定義
会社の就業規則の中で、従業員の定義に言及されていないため、そもそも従業員の定義というものがよく分からない方もいるのではないでしょうか。就業規則とは、労働基準法第89条に基づき、常時10人の以上の労働者を使用する使用者に作成が義務付けられたものです。就業規則の中で、従業員と役員の違いについての言及があるかどうかに関わらず、従業員=労働者であり、役員=使用者となります。ただし、役員と従業員を兼務している場合、従業員部分に限り、役員でも就業規則上は従業員として扱われます。
役員の定義
前述したように、役員=使用者となるため、会社側の立場となります。従業員と役員の定義については、労働基準法第9条と第10条に明記されています。
☑第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
☑第10条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
また、日本の会社法で定義されている役員の肩書は、取締役・会計参与・監査役を指します。会社の経営方針を立てて、組織を作り、業務を監視し、全体の方針を決める役割を持ちます。
従業員と役員の報酬の違い
従業員の報酬は「経費」として扱われる
従業員と役員の報酬は扱いが違います。従業員の報酬は経費扱いになり、労働の対価として損金と認められます。法人でも個人経営でも従業員に対する報酬は経費となり、従業員の厚生年金や中退金なども人事厚生費として経費に計上することができます。
役員の報酬は「役員報酬」と呼ばれる
取締役や会計参与、監査役などの役員に支払われる給与のことを役員報酬と呼びます。役員に支払う給与のうち、ボーナスや退職金以外のことを指し、株主総会で決められた基準をもとに支払われます。
ただし、定められた範囲内であれば役員報酬も経費にすることができます。個人事業主の場合は、経営者に対しての給与を経費とすることはできませんが、法人の場合であれば下記のような給与に関しては経費として認められます。
☑1.定期同額給与
定期同額給与は、一定期間において定期的に同じ額で支払う給与のことです。期間は最大で月単位になり、毎月の給与を固定で決まった額支払うことになります。業績の悪化などに伴い給与額を減らしたりする場合は、決算日の翌月から3ヵ月以内に変更を行います。その期限内を過ぎると全額を経費にすることができなくなるため、注意が必要です。
☑2.事前画定届出給与
事前画定届出給与は、届け出を出した役員に対し決められた時期に支払われる給与です。非常勤の役員など毎月勤務しているわけではない役員に対しては、事前に税務署に届け出ることで、半年に1度や年に1度だけ経費として給与を支払うことがあります。また、この給与は役員のボーナスに値するものでもあります。ボーナスの額が決まった時点で税務署に届け出さないと、経費として支払われることが認められないということになるので、決算時期や提出期限に注意しましょう。
☑3.利益連動給与
利益連動給与は、その年度の利益に関する指標を基準にして役員に支払われるものです。ただし、この給与は同族会社でないことや業務執行役員に支払う給与であること、給与の算出方法が一定要件を満たしていることなどの条件があります。一般的な中小企業の多くは同族会社なので、そういった場合はこの給与を受け取ることはできません。
退職金の違い
従業員の退職金は、就業規則や労働協定などに基づき勤続年数などに応じて支給されます。会社で退職金が定められていれば支給されることが労働基準法で認められていますが、不況や業績悪化によっては退職金を支給しないなどと記載されている場合は、従業員は退職金を支給されないこともあります。また、従業員の退職金に関しては就業規則などに則り会社側に支払いの義務がありますが、株主総会での決議がなければ役員への退職金は支払われません。役員の退職金は退職慰労金と呼ばれ、社内規定が設けられていたとしても株主総会や役員会の決議がなければ支給されないのです。社内規定で定める退職慰労金支給基準も、株主などに認められる範囲で定めておかなくてはなりません。
従業員の数え方
役員は含まれない
最初の項目で述べたように、従業員とは労働者であり、役員は使用者で会社側の立場となります。そのため、従業員を数える際は役員を含みません。従業員数とは、具体的には正社員や契約社員、パートタイマーやアルバイトなど非正規雇用者の合計人数のことを指します。従業員に含まれない人の具体例としては、法人の場合は取締役や監査役、顧問などで、個人事業主の場合は経営者や家族従業員以外となります。
従業員と役員を兼務している場合
会社の役員のうち、部長・課長といった役職の人を使用人兼務役員といいます。使用人としての職制上の地位があることに加え、常時使用人として職務に従事している人のことです。この使用人兼務役員は、他の役員とは給与などの面で違った点があります。事前画定届出給与の制度を使わなくても、給与やボーナスが経費として計上できるのです。また、従業員でもあるため、通常の役員では加入できない雇用保険にも加入することができます。
法人税法では、以下の3点が使用人兼務役員の条件とされています。
☑1.役員(社長、理事長その他政令で定めるものを除く)であること
☑2.使用人としての職制上の地位を有していること
☑3.常時使用人としての職務に従事していること
これらの条件を満たした使用人兼務役員は、従業員として数えることができます。また、使用人兼務役員になれない役員の条件もあります。
☑1.代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人
☑2.副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
☑3.合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員
☑4.取締役(委員会設置会社の取締役に限ります。)、会計参与及び監査役並びに監事
☑5.上記のほか、同族会社の特定の役員
役員以外で従業員に含まれない場合
従業員が雇用先の企業に在籍したまま、他の企業で長期間の業務に従事することを出向といいます。長期出張や応援派遣などと呼ばれることもあります。この出向者に対して、給与を負担しているかどうかで従業員数へ含むか含まないか決まってきます。出向先で勤務している場合でも、給与は出向元の企業から支払われているのであれば従業員には含まれません。
従業員と役員の違いを理解して手続きをよりスムーズに
従業員と役員では定義も立場も違うため、報酬の扱いや退職金も違ってきます。役員は会社側の立場ですが、使用人兼務役員のように従業員であり役員でもある人もいるため、具体的な肩書でそれぞれの立場を覚えておきましょう。従業員と役員の違いを理解しておくと、給与や保険などの手続きをする際にスムーズに行うことができます。