いつ起きてもおかしくない労働災害による被害。労働災害による労災保険料率について詳しく理解しましょう。労災保険料には、どのようなものがあるか概要を知り、仕組みを学ぶことは大切です。保険料の計算方法やポイントを知り、今後に役立てていきましょう。
目次
労災保険料率の基礎的な知識
事業の形態によって5種類に分類
労働者が加入する労災保険は、業務上や通勤中のケガや病気、障害、死亡などになった際に生活を保障する保険です。労災保険は、社会保険の一種に含まれています。正式には、「労働者災害補償保険」とよばれています。労災保険は、事業形態によって5種類に分類され区別されています。5種類とは、「一般保険料」、「第1種特別加入保険料」、「第2種特別加入保険料」、「第3種特別加入保険料」、「印紙保険料」です。
「一般保険料」とは、事業主が労働者に支払う賃金をもとに算定する保険料を指します。「第1種特別加入保険料」は、労災保険の中小事業主等の特別加入にかかる保険料をいいます。「第2種特別加入保険料」は、労災保険の一人親方等の特別加入にかかる保険料です。一人親方等は、建設業などで労働者を雇用せずに自分自身や家族で事業を行う事業主を指します。「第3種特別加入保険料」は、労災保険の海外派遣者の特別加入にかかる保険料です。最後に、「印紙保険料」は、雇用保険の日雇労働被保険者の雇用保険印紙による保険料のことをいいます。
事業の業種によって異なる
労災保険の保険料率は、1つの事業に1つの労災保険料率が適用すると原則で決められているため、事業によって保険料率が異なります。おもに、事業の業種には、「林業」、「漁業」、「鉱業」、「建設事業」、「製造業」があり、そのほかにもいくつか存在しています。労災保険料率は、事業の種類によって算出されますが、平成27年4月1日改正の事業種類の細分化をもとに算出します。現在、保険料率は、1000分の3から1000分の79まであります。改正前に比べて、保険料率が下がったといえる事業種類のほうが増えたようです。
1つの事業に1つの労災保険料率が適用
労災保険料率は、原則として、1つの事業に1つの労災保険料率が適用されています。個々の事業に対する労災保険料率の適用には、労災保険をかける順番が存在するといわれています。労災保険料率を決定するには、はじめに、「事業の単位」を重視します。
次に、「その事業が属する事業の種類」、「その事業の種類にかかる労災保険料率」の順に決定します。厚生労働省のホームページには、「労災保険率表」が掲載されており、1つの事業に対して1つの労災保険率が記載されているため、確認するとよいでしょう。
原則3年ごとに改定
労災保険率は、災害発生状況に考慮して、原則として3年ごとに改定しなければいけません。災害発生状況の概要としては、事故による死亡災害や死傷災害があげられています。死亡災害は、高所からの墜落や転落が多い建設業の方にあてはまるようです。ほかには、運送業の方は交通事故によるものや、製造業の方には機械にはさまれたり、巻き込まれたりする事故が発生しています。
死傷災害は、もっとも製造業の方に多くみられるようです。転倒や墜落、転落、無理な動作などが関係しているといわれています。これらの労働発生状況などをもとに、さまざまな職種によって、1つの事業に1つの労災保険料率が決められているようです。また、今後の労働災害発生への取り組みの強化につなげていくようです。
直近では平成27年4月に改定
労災保険料率は、平成27年4月1日に改正されています。保険料は、すべて事業者が負担します。厚生労働省のホームページには、労災保険料率の詳細が記載されている「労災保険率表」があります。それぞれの事業の分類や業種番号、事業の種類、労災保険率が分かりやすく記載されています。
労災保険率は、過去3年間の災害率等をもとに3年ごとに見直しを行っているようです。しかし、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令」が公布され、平成27年4月1日から保険料率が改定されることとなりました。また、保険料率の改定とともに、一部の事業の種類にかかる労務費率についても改正がされたといわれています。
保険を使っても翌年の保険料は上がらない
保険を使っても翌年の保険料は上がりません。必ずしも、全ての事業所で保険料が上がるわけではありません。従業員数が20人以下の事業所では、メリット制の対象とはならないため、いくら労災保険を使用しても保険料率が上がることはないと定められています。そのため、翌年の保険料も上がることはありません。また、従業員数が20人以上100人未満の会社の場合、業務に危険性のない会社は災害が少ないため、労災保険料は上がることはないといわれています。業務の危険性が少ない会社とは、金融業や通信業など事務作業の多い会社といえます。
一方、労災保険料が上がる会社とは、従業員数が100人以上存在している会社や、従業員数が20人以上100人未満の会社ですが、災害の危険度が高い会社の場合は、保険料が上がることがあります。
全額事業所が負担する
労災保険料は、全額事業所が負担をします。仕事中や通勤の際に、負傷や死亡などの場合に支払われる保険のため、費用は全額事業所側が持ちます。労働者が加入した際には、雇用形態に関わらず、事業主が支払うことが決められています。
一方、事業主が労災保険の加入手続きを行っていなかった場合は、保険給付額の全額か一部の金額を事業所側が負担しなければいけません。万が一、会社の倒産などによる被害が出た場合の対応として、必要な補償を受けられない従業員がでないためにも、労災保険の加入は必要になります。そのためには、きちんと事業所側が保険料を支払うことが大切です。
労災保険料を計算する時のポイント
毎月計算する必要はない
労災保険料は、毎月計算する必要はないと定められています。労災保険料は、一年単位で計算することになっています。労働保険に加入すると、保険の年度始めに保険料を一年間分算出し、申告や納付を行います。保険料額は、原則として保険関係が成立している事業で使用される全ての労働者を対象としています。パートやアルバイト、日雇いなど、労働や雇用形態に問わず全ての労働者に対して適用されています。その後、翌年の始めに確定申告を行い、過不足分を清算する年度更新の手続きを毎年行うことが決められています。
一方、保険年度の途中で加入手続きを行った場合は、保険が成立した年月日から、年度末日である3月31日までの分を申告、納付することができます。
全従業員の年度内賃金総額をかけて算出
労災保険料は、労働者の賃金総額に、事業に定められている保険料率を乗せて算出されます。そのため、計算方法は、「労災保険料=全従業員の年度内賃金総額×労災保険料率」で求めることができます。年度が変わったら、労災保険料を計算する仕組みになっています。対象は、毎年4月1日から翌年3月31日に支払いが確定した賃金です。
賃金総額の賃金とは、税金や社会保険料等を控除する前の支払総額を指しています。この場合、さまざまな手当や賞与などが含まれます。このように、労災保険料の計算で使う賃金は、労働の対象として、事業主が労働者に支払うものを指しています。
退職金や祝い金など賃金に含まれないものがある
労災保険料を求める際、賃金に含まれるものと賃金に含まれないものがあります。どのようなものが賃金に含まれて、どのようなものが含まれないのか、確認しておきましょう。
含まれるもの
☑基本給、休日手当、扶養手当、家族手当、子ども手当、住宅手当、奨励手当、賞与、通勤手当、休業手当、物価手当、定期券や回数券、調整手当、特殊作業手当、技能手当、単身赴任手当、教育手当、地域手当、深夜手当などの各手当
☑労働者の負担分を事業主が負担する場合の雇用保険料その他社会保険料
☑前払い退職金(労働者が在職中に退職金相当額の全部や一部を給与や賞与に上乗せして支払われるもの)など
含まれないもの
☑休業補償費、結婚祝金、災害見舞金、制服、増資記念品代、私傷病見舞金など
☑会社側が全額負担する生命保険の掛金
☑退職金(退職時に支払われるものや、事業主の都合等によって退職前に一時金として支払われるもの)など
端数が出た場合は雇用保険料と合わせて切り捨て
労災保険料は、雇用保険料と合わせて労働保険料として申告、納付します。労災保険料と雇用保険料の求め方は、似ているため間違いがないように気をつけなければいけません。労災保険料の場合は、「年度内賃金総額×労災保険料率」です。
雇用保険料の場合は、「年度内賃金総額×雇用保険料率」という計算方法で求めることができます。その後、労災保険料と雇用保険料を合わせてでた金額が「労働保険料」です。計算する際には、賃金の総額ででた千円未満の端数を切り捨てなければいけないため、注意が必要です。
労災保険メリット制の概要
保険料を公平にするための制度
メリット制とは、事業の労災保険料率を労災災害に応じて、±40%の範囲内で増減させる制度です。労災保険料率は、事業の種類によって過去3年間の災害等の発生率により決められています。同じような事業の種類でも、災害の発生率には大きく差があるため、保険料を公平にするためにメリット制が定められています。つまり、災害の発生率が高い事業所ほど保険料の負担は大きく、低い事業所は保険料の負担が軽く済み、変動します。
労災保険料率の増減は、メリット制が適用された事業所のメリット収支率によって判断されます。メリット収支率とは、一定期間の間に支払った保険料の金額に対して、業務上の災害に関わる保険給付等の金額の割合がどのくらいなのかという比率です。比率をもとにして、厚生労働省が算出します。収支率が75%以下の場合は、保険料率は割引され、収支率が85%以上の場合は、保険料率が高くなります。また、収支率が75%以上、85%以下の場合には、労災保険料率の増減はないと定められています。
給付の大小で保険料が変わる
労災保険料率は、業種の種類によって変わりますが、労災の危険度が高くなる業種ほど、保険料率は高くなります。従業員の給付が同じでも、労災の危険度が高い職業ほど、事務などの業種に比べて労災保険料は高いといわれています。しかし、この場合、同じ業種では全て同じ保険料額になってしまいます。会社によっては、多く支給される場合や、まったく支給をうけない会社があり、同じ業種でも差がでてきてしまいます。
デメリットをメリットに変えるため、労災保険料率が最大で40%上下し、給付の大小によって労災保険料が変わるメリット制が設けられています。メリット制は、事業が一定の規模を超えた場合に、自動的に適用される仕組みになっています。厚生労働省のホームページには、メリット制の概要が詳しく記載されているため、一度確認するとよいでしょう。一定の規模以上の事業に適用される要件の内容が細かく記載されています。
労働保険料率決定通知書で確認できる
労働保険料率決定通知書とは、事業主に送付される書類です。翌年度のメリット制における労災保険料率について厚生労働省が決定、算出し通知するものです。算定方法には、計算式があり、メリット労災保険率を求めることができます。計算式は、「(労災保険率−非業務災害率)×(100+メリット増減率)/100+非業務災害率」です。
労働保険料率決定通知書には、労働保険番号や業種番号のほかに、メリット制で増減された労災保険率やメリット収支率、メリット増減率などが記載されています。労働保険料率決定通知書をもとに、保険料の見直しも参考にしながら、災害防止の改善を図りましょう。
保険料率に関わらず労働災害の防止に努めよう
労災保険料率は、労働災害のリスクから事業の種類などによって、細かく保険料率が決められています。労災保険は、個人が加入するものではなく、事業所側が加入するものです。従業員が生活するうえで、必要な補償が受けられない恐れもあるため、しっかり加入しなければいけません。従業員の健康を守るのは、会社側の役目でもあります。まずは、労働災害の見直しや防止を行うことが最優先です。万が一の労災に備えて、計算方法や仕組みを理解することが必要です。
また、従業員個人が労災保険に加入しているかどうかを確認することが大切です。厚生労働省のホームページには、簡単に確認することができるよう「労働保険の適用事業場検索」を設けています。都道府県や事業主名、所在地を入力することで簡単に確認できます。