個人事業主として働く場合、従業員を雇って給与を支払うことがあります。しかし、自分の生活費は給与とならないのか、気になったことがある方も多いのではないでしょうか。個人事業主は給与の考え方を知り、スムーズな手続きができるようにしましょう。
目次
個人事業主の給与の考え方
個人事業主は給与を経費に計上できない
会社員や公務員、アルバイトや派遣社員などは会社などの組織に所属し雇用されています。この場合、基本的には毎月もしくは年ごとに、所属する組織から決まった給与が決まった日に支払われていることでしょう。では個人事業主の場合、会社員と同様に自分への給与は発生するのでしょうか。
個人事業主の場合、1年間の売上から経費や仕入れ費用などを差し引いて、残った金額がすべて個人事業主の「所得」となります。そのため、個人事業主は、事業用のお金から自分の生活費等を受け取っている場合でも、自分への給与という概念が存在しないので、給与を経費に計上することはできません。
給与の代わりに事業主貸という科目に分類
個人事業主が1年の「所得」の中から自分の生活費などを受け取った場合は、帳簿上「事業主貸」という勘定科目を使用します。「事業主貸」とは、個人事業主に対して、事業用のお金から支払いを行ったときに使用する科目です。そのため、生活費支払い以外にも、事業用現金から所得税等を支払ったような場合にも、「事業主貸」を使用します。
この「事業主貸」という勘定科目は、帳簿上、経費ではなく貸借対照表の資産に分類される科目です。そのため、「個人事業主は給与を経費に計上しない」こととなるのです。なお、事業主貸を使用した場合の仕訳は、以下のようになります。
(例)事業用の銀行口座(普通預金)から、個人事業主の生活費として10万円を支払った場合
☑借方:事業主貸 10万円
☑貸方:普通預金 10万円
従業員がいる場合はその給与は経費計上可
従業員がいる場合は、個人事業の場合であっても従業員に対する給与は経費計上が可能です。経費の勘定科目のひとつである「給与賃金」を使用して、帳簿上経費として処理することができます。
ただし、注意点が一つあります。個人事業を家族や親族が手伝っている場合、この家族や親族のことを「専従者」と呼びます。原則として、生計をともにしている家族や親族への給与は、経費計上が認められていません。しかし、青色申告の場合は経費に計上することができます。
このとき、仕訳としては「給与賃金」を使用することができません。専従者への給与支払は「専従者給与」の勘定科目を使用し、一般従業員とは区別する必要があります。
青色申告で専従者給与として申請する
青色申告の場合、税務署へ「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出することにより、専従者へ支払った給与を経費として計上することができます。この場合、勘定科目は「専従者給与」を使用します。
一方、白色申告の場合は専従者への給与を経費とすることができません。その代わり、「白色事業専従者控除」として、控除の対象にできます。(事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者でなければ専従者一人につき50万円までが控除対象となる)
個人事業主がバイトする時の給与所得控除
バイトは給与の為給与所得控除がある
個人事業主の中には、本業以外にアルバイトをしている方もいるのではないでしょうか。この場合個人事業主としての所得と、アルバイト先からの給与の両方が発生することになります。
個人事業主が複数の種類の収入を得る場合は、それぞれの収入の種類に応じた処理をします。そのため、個人事業主だからといって収入は全て事業所得になるというわけではなく、あくまでも他社でのアルバイト先から支払われた給与は給与収入となります。
そのため、アルバイトの給与収入に対しては給与所得控除(65万円)が発生します。アルバイト先が複数ある場合は、その全ての収入を合算した金額から給与所得控除を差し引いた金額が、給与所得となります。
確定申告時には源泉徴収票が必要
個人事業主であれば、毎年2~3月に確定申告を行います。複数の収入がある場合は、確定申告書B第二表の所得の内訳欄に、「事業」「給与」などの所得の種類ごとに記入をする項目があるため、注意しましょう。
給与所得を申告するにあたっては、勤務先から源泉徴収書をもらって確定申告書に添付する必要があります。また、アルバイトの場合は勤務先で所得税の源泉徴収が行われているケースもあります。
この場合、所得税額と源泉徴収税額を相殺したうえで、確定申告時に支払う所得税の金額が決まります。所得税がアルバイト先で源泉徴収されているかどうかは源泉徴収書に記載されているため、確認するようにしましょう。
従業員の給与に関する手続きや経費計上
給与支払事務所等の開設の届出を税務署へ
個人事業主として従業員に給与を支払う立場となったとき、税務署へ届け出る必要があります。
「給与支払事務所等の開設届出書」という書類がありますので、記載して税務署へ提出しましょう。提出期限は、給与支払事務所の開設の事実があった日から1ヶ月以内です。
なお個人事業を始める際には、税務署へ「開業届」の提出を行います。この「開業届」に「給料の支払いを行っている旨の記載」をしている場合は、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出しなくてもよいことになっています。しかしその場合でも、実際には税務署から「給与支払事務所等の開設届出書」の提出を求められる可能性があります。
よって、「開業届」に給料の支払いを行っている旨を書いている場合でも、念のため「給与支払事務所等の開設届出書」は提出しておくようにしましょう。
帳簿に給料賃金として計上
従業員や専従者に給与を支払う際は、従業員の場合は「給与賃金」、専従者の場合は「専従者給与」として経費計上することになります。仕訳の例としては、以下のようになります。
(例)従業員(もしくは専従者)に10万円の給与を支払った場合(源泉徴収が無いものとします。)
☑借方:給与賃金(もしくは専従者給与)10万円
☑貸方:現金(もしくは預金)10万円
源泉徴収が義務になる
給与を支給する際は、一般的には支払者側で源泉徴収を行います。そのため、個人事業主が従業員や専従者に給与を支払う場合にも、源泉徴収が義務となります。
なお、取引先への支払いなど給与ではない場合や、従業員が常時2人以下で、お手伝いさんなどのような家事使用人だけに給与などを支払っている場合は源泉徴収は不要です。
源泉徴収した金額の仕訳については、以下のようになります。
(例)給与賃金を20万円支払い、うち1万円を源泉徴収する場合
☑借方:給与賃金 20万円
☑貸方:現金(もしくは預金)19万円、預り金 1万円
源泉所得税を納付する時は
個人事業主が源泉所得税および復興特別所得税を納付する場合は、納付書とあわせて給与を支払った翌月10日までに納付する必要があります。納付書は「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納付書)」を使用します。
なお源泉徴収の税額が0円の場合でも提出が必須となりますので、忘れないように注意しましょう。税金の納付は税務署だけではなく郵便局や銀行でも可能ですが、書類提出のみの場合は税務署へ提出しましょう。
また源泉所得税を支払った際の仕訳は、以下のようになります。
(例)源泉徴収額1万円を現金で納付した場合
☑借方:預り金1万円
☑貸方:現金1万円
従業員が10人未満の場合は年2回の納付も可
従業員が10人未満の場合は、源泉所得税を毎月納付するのではなく、年2回にまとめて納付することも可能です。この場合、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署へ提出する必要があります。
年2回の納付となった場合、納付期限は以下のようになります。
☑1月~6月までの源泉所得税は、7月10日までに納付
☑7月~12月までの源泉所得税は、翌年の1月20日までに納付
給与の考え方を知ってスムーズに手続きする
個人事業主の給与は名目が給与ではなく、貸方・借方で生活費収入として使えます。また自分が給与を支払う側となる時には、原則源泉徴収が必要となり、事情によって手続きも異なります。
個人事業主になるには、さまざまな手続きが必要。給与一つとっても場合によって手続きが異なるなど、知っておかなければ業務が滞ってしまうこともあります。あらかじめ給与の考え方を知り、スムーズに手続きができるようにしましょう。