難しそうな雇用保険。実は意外と簡単にできる保険料の計算方法

雇用保険料の計算方法は難しく思われがちですが、雇用保険料の計算式の2つがわかれば、意外と簡単に計算ができます。雇用保険のしくみも理解すれば、いざ自分が必要になったときにも対処できます。

目次

雇用保険とは?

働いている人の安定や促進を目的


雇用保険は失業保険の給付のほかにも教育訓練受講に支払った費用の一部支給、就職困難者や若年者の雇い入れを促進、労働者の失業防止や雇用の安定、再就職の促進、事業主がする教育訓練の支援などを行っています。労働者の能力向上の促進を目的とし、最終的に失業保険の給付を減らすための取り組みを進めているのです。

また2017年1月1日より、65歳以上の人にも雇用保険の給付が受けられるように雇用保険の適用が拡大されました。変更前は満65歳以上は、新たな就業先での雇用では雇用保険に加入することができず、満65歳になる前から同じ就業先で働いていて、条件を満たす場合であれば、引き続き雇用保険に加入し保険料は免除となっていました。

適用が拡大されてからは「高年齢被保険者」として、満65歳以上で新たな就業先で雇用する場合も条件を満たしていれば被保険者となり、雇用保険料の徴収対象に変更されたのです。今まで保険料免除となっていた人も、雇用保険料の徴収対象になります。

この変更により、今まで支払っていなかった雇用保険料を支払わないといけなくなったため、事業主に大きな影響を与える可能性があります。

公的な制度

雇用保険は会社を退職した場合や、育児や介護など働きたくても働けない失業者や休業者に対して、条件を満たしていれば一定の期間の生活を保障するために失業給付や育児休業給付金などの支払いをおこなう公的な保険制度です。

雇用保険は失業保険の給付をすること以外に、雇用の安定を図るための「雇用安定事業」、職業訓練をおこない職業能力の開発、向上の促進を図る「能力開発事業」という2つの事業を管轄しています。この2つの事業をまとめて、雇用保険二事業とよびます。

社会保険のなかの1つ

まず日本には社会保障制度(病気、事故、貧困、失業などの社会生活のなかのリスクに対して、必要な生活保障をする制度)があり、社会保障制度のなかの1つに、社会保険があります。社会保険は広義の社会保険と狭義の社会保険とがあり、雇用保険は広義の社会保険の分類に入ります。広義の社会保険は大きく分けて、5つあります。

☑1 病院に行ったときに医療費負担額が低減される健康保険

☑2 20~60歳の全ての人が加入し、老後の生活、障害や死亡に対する保障をする年金保険

☑3 40歳以上の人は加入が義務付けられていて、訪問介護や老人福祉施設のサービスを利用できる介護保険

☑4 業務中や通勤中の事故や災害によって生じた病気やケガに対して保障する労災保険

☑5 失業、休業時の給付、雇用の促進を図る雇用保険

全て国や地方公共団体などの公的機関が運営している保険で、必要な給付を受けられる代わりに、対象となる国民は社会保険に加入し保険料を支払う義務があります。民間の保険とは違い、加入しないという選択はできません。

雇用保険の計算は?

毎月の給料の合計


雇用保険の計算方法は、賃金総額を用いて計算します。賃金総額とは、労働の対償として支払う全てのものをいいます。例えば通勤手当、深夜手当、残業手当、扶養手当やボーナスなどです。これらを含めた金額で、税金や社会保険料の引かれる前の金額で計算します。

しかし、事業主からもらった金額全てを賃金総額に含める訳ではありません。例えば、結婚祝い金や休業補償費、私傷病見舞金、災害見舞金など、臨時に支払われる金額は、賃金総額のなかに含めずに計算します。

厚生年金や健康保険の料金計算のときに使用する標準報酬月額と似ていますが、賃金総額とは違うものです。賃金総額と標準報酬月額は間違いやすいので、保険料の計算をする場合は注意が必要です。

雇用保険料率を掛ける

雇用保険料率は、失業給付金受給者や積立金額の残高によって毎年見直されています。(変更がある場合は4月1日に変更されます)また事業の種類によって雇用保険料率は異なり、以下の3つのなかから選んで計算します。

☑1 一般の事業

☑2 農林水産・清酒製造の事業

☑3 建設の事業

この3つの事業の雇用保険料率は決まっていて、雇用保険料率と賃金総額を掛け算した金額が雇用保険の料金となります。被保険者負担分を賃金から源泉控除する場合に、もし保険料に1円未満の端数がでた場合は50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げになります。

被保険者負担分を被保険者が事業主に現金で支払う場合で、保険料に1円未満の端数がでた場合は、50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げになります。雇用保険料を給料から源泉控除するほうが一般的だと思いますが、支払い方法によって端数処理に違いが出るので、間違いがないようにしないといけません。

雇用保険料の計算方法ですが、例えば一般の事業で働いていて、賃金総額が35万円の場合は、350000×0.3%(平成29年度の一般の事業の雇用保険料率)の1,050円が保険料となります。

農林水産・清酒製造の事業と、建設の事業に当てはまらない事業は全て一般の事業となります。しかし例外として、農林水産事業でも1年を通して事業が安定している、牛馬育成、酪農、養鶏、養豚事業、園芸サービス事業、内水面養殖(鯉、フナ、鰻などの淡水魚の養殖)などの事業は一般の事業に分類されます。

なぜこのように分類されているかというと、農林水産・清酒製造の事業は季節によって、事業規模が縮小したりするため、雇用状態が安定しないことが理由です。そのため、雇用保険料率は一般の事業より高くなります。

建設の事業は、建物1棟ごとでの雇用契約を結び、長期の雇用契約にならないことがあります。このため建設の事業も雇用状態が安定していないことから、一般の事業より雇用保険料率が高くなります。

手当の変動で給料が変わる場合も

基本給ではなく時給で給料を支給している場合や、残業手当など毎月変動する可能性がある手当があれば、毎月雇用保険料金を計算し、その金額を支払わなければいけません。雇用保険、毎月支払額は高額な金額ではありませんが、手当が変動することによって雇用保険料金が変わり給料の支払額も変わるので、毎月給与明細をチェックするようにしましょう。

また事業主も支払わなければいけない金額が毎月変わるので、間違いがないように気をつけなければいけません。

平成29年度の雇用保険料は?

4月から雇用保険料率が引き下げに


平成28年度に引き続き、平成29年度の雇用保険料率も引き下げになりました。労働者負担額、事業者負担額はともに0.1%ずつ減少し、わずかですが雇用保険の料金が下がることになりました。

雇用保険は社会保険や年金と違って、経済の状況に大変左右されやすい保険です。景気がよいときは、労働者の賃金総額が高くなり、支払う雇用保険の代金も多くなります。雇用も安定するので失業給付を受給する人が少なくなり、雇用保険の支出も減少します。この場合は雇用保険料率が引き下げられ、雇用保険料は値下がりします。

逆に不景気の場合は賃金総額が下がり、支払う雇用保険の代金が少なくなり、雇用も不安定になるので、失業給付を受給する人が増加します。このような場合は雇用保険料率が引き上げになり、雇用保険料が値上がりします。

平成28年度、29年度と共に、雇用保険料率は下がりましたが、またすぐに上がる可能性もあります。対応が遅れないように次はいつ変更になるか、雇用保険料率は上がるのか、下がるのか、チェックしておきましょう。

一般の事業は9/1000に

平成28年度は一般の事業の雇用保険料率が労働者負担が0.4%、事業主負担が0.7%(失業等給付の保険料率0.4%、雇用保険二事業の保険料率0.3%)の合わせた、1.1%負担だったのが、平成29年度より改正されました。

改正後は労働者負担が0.3%、事業主負担が0.6%(失業等給付の保険料率0.3%、雇用保険二事業の保険料率0.3%)の合わせた0.9%負担に。失業等給付の保険料率が、労働者負担、事業主負担がいずれも0.1%ずつ下がりました。

農林水産は11/1000に

農林水産・清酒製造の事業も、平成28年度は労働者負担が0.5%、事業主負担が0.8%(失業等給付の保険料率0.5%、雇用保険二事業の保険料率0.3%)の合わせた1.3%負担が、平成29年度より改正されています。

平成29年度は、労働者負担が0.4%、事業主負担が0.7%(失業等給付の保険料率0.4%、雇用保険二事業の保険料率0.3%)の合わせた1.1%負担になりました。

建設の事業は12/1000に

建設の事業も同様に改正され、平成28年度は労働者負担が0.5%、事業主負担が0.9%(失業等給付の保険料率0.5%、雇用保険二事業の保険料率0.4%)の合わせた1.4%から変更になり、平成29年度は労働者負担が0.4%、事業主負担が0.8%(失業等給付の保証率0.4%、雇用保険二事業の保険料率0.4%)の合わせた1.2%負担に変更されました。

3つの事業ともに失業等給付の保証率が、労働者負担、事業主負担の0.1%ずつの合わせた0.2%下がりました。労働者の負担が減ったのは金額にして数百円の差なのであまり気にならないと思いますが、事業主側からするとかなりのコスト削減になるでしょう。

雇用保険料の支払いは?

働いている人の事業所に支払い


事業主は、毎年6月1日から7月10日(10日が土曜日の場合は7月12日、日曜日の場合は7月11日まで)の間に今年度の雇用保険料(概算保険料といいます)を計算し、所轄の都道府県労働局か労働基準監督署に労働保険概算保険料申告書の提出をします。

同時にこの期間の間に、労働局に雇用保険料(通常は労災保険料と一緒に一括で支払いします)を支払わなければいけません。支払いは郵便局や銀行などでも可能です。

保険料は今年度分の先払いになります。昨年支払った雇用保険料と実際に支払う昨年度の雇用保険料に差異があった場合や不足していた場合は、今年度の申告分に追加して雇用保険料を支払い、多く支払っていた場合は、今年度の申告分から相殺して雇用保険料を支払うか、還付してもらいます。この期間内に納付、申告がおこなわれなかった場合は、追徴金が課せられることがあるので忘れないように注意しましょう。

給料の支払いのときに天引きに

事業主が労働者に支払う給料から毎月の雇用保険料を計算し、労働者負担分を給料から天引きしています。本来は毎月計算して給料から天引きとなりますが、毎月計算してその金額を給料から天引きするのは作業が大変なため、今年度支払う金額が、前年度の実際の支払い金額より50%以上少なくなるか、200%以上多くなるかの事情がなければ、昨年度の実際に支払いした金額と同額で計算することが認められています。

人員の大幅削減、新入社員の大量採用、高額報酬だった人の退職などがない限り、雇用保険料が50%以上少なくなったり、200%以上多くなったりすることはあまりないです。

しかし実際に50%以上少なくなったり、200%以上多くなったりした場合は、必ず毎月計算しないといけないので、該当する年は忘れずに計算しましょう。

賞与の場合もかかる

健康保険や厚生年金保険料などの場合は賞与の場合の保険料の計算方法が異なり、大変わかりづらいのですが、雇用保険は賞与の場合も給料の場合と保険料の算出方法が同じなので、難しい計算ではありません。

賞与の場合も給料と同様に、賃金総額と雇用保険料率を掛け算し計算された金額を賞与から天引きします。ただ給料と賞与がある月は合算して雇用保険料を算出するのではなく、給料と賞与を個別に分けて計算する必要があるため、間違いがないように計算をする必要があります。

被保険者と事業所が負担する

雇用保険と労災保険をまとめて、労働保険と呼びます。この労働保険の1年分をまとめて事業主は労働局に支払っていますが、被保険者(労働者)が負担する部分と事業所(事業主)が負担する部分があります。負担の割合ですが、労災保険は全額事業主負担で、労働者負担はありません。

雇用保険は、事業主と労働者が保険料を支払います。従業員は失業等給付分の負担だけですが、事業主は失業等給付のほかにも、雇用保険二事業の保険料も負担しています。

失業等給付分は事業主、労働者が折半ですが、雇用保険二事業は全て事業主側の負担です。

自分の勤務形態を確認しよう

雇用保険はアルバイトなどの雇用形態にかかわらず、雇用保険を導入している会社の従業員で、1週間の所定労働時間(企業が就業規則で定めている労働時間)が20時間以上、31日以上引き続き雇用されることが見込まれる場合は、企業側や本人の加入の意思がない場合でも加入する必要があります。(ただし、加入できない条件もあります)

事業主が雇用保険を導入していない場合もあるので、給料明細を見て状態を確認し、加入できる状態であるのに雇用保険に加入していない場合は、一度事業主に問い合わせてみましょう。

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