会社は決算報告書を必ず作成し開示する義務があります。その決算報告書はさまざまな種類があり、会社の規模や職種によって作成する書類も分かれていて、開示する相手により提出先が異なります。売上計上漏れがあると、処罰の対象になる大切な計算書です。
目次
決算報告書の種類
用途によって様々な種類の報告書を作成
決算報告書といっても、4種類の報告書があります。
☑ 賃借対照表(バランスシート、BS)
決算時の会社の財政状態を見るものです。資産、負債、純資産が明らかになります。長期的に見ると会社が開業してからの企業活動の累積的な結果がわかるものです。賃借対照表は損益計算書での利益の検算する機能があり、損益計算書と貸借対照表の利益は一致します。
☑ 損益計算書(Profit&Loss Statement、PL)
一定の期間の会社の経営成績を表します。収益と費用、利益がわかるようになっています。当期純利益を計算します。当期純利益は法人税の所得計算の基礎になります。
☑ キャッシュフロー計算書(CF)
会計期間における収支と支出を表すものです。損益計算書や貸借対照表ではわからない会社の資金の流れを把握するためのものです。会社が保有している資金の運用状況について明らかにするため、営業区分や投資活動や財務活動などの区分に分けて表示します。
☑ 株主資本等変動計画書
貸借対照表から「純資産の部」を切り取り、当期の純資産の変動額を表します。純資産が変動した理由がわかるように作成されます。すべての会社で株主資本等変動計算書を作成することになっています。
このほかに、利益処分計算書、監査報告書、営業報告書などを加えます。決算報告書はさまざまな視点で会社の1事業年度の活動状況を確認、財政状況を把握します。
会社法に基づく「決算報告書」
会社法や税法によりすべての会社において最低でも年に1回決算を行い、事業年度が終了したときに会社の利益を計算することを定めています。その計算したものをもとに決算公告や税務申告を行うことになります。
収支や資産状況などを報告するため会計帳簿に基づき作成する計算書類。経営状態や業績を株主や税務署などに報告するための書類です。そのほか、金融機関、取引先、社員などから開示請求があった場合は任意で開示することがあります。
決算書に資本金として計上した金額が5億円以上、もしくは負債額の合計額が200億円以上の株式会社を大会社といいます。大会社においては決算報告書は公示する義務があります。大会社は賃借対照表と損益計算書は開示することが義務付けられています。開示は公告という方法がとられ、官報や新聞、WEBサイトへ5年間継続して公開。公告を行わない場合は、役員は100万円以下の罰金が課せられます。
法人税法に基づく「決算報告書」
会社が納付する法人税などの税金は、税額を計算し申告する申告納税方式。税金を適正に申告し納付を行うため、1年間の会社の売上や費用など業績の成果をまとめる必要があります。決算報告書は、会社が納付する税額を計算するするための基礎になります。決算報告書を作成した後、法人税申告書、消費税申告書などの申告書を作成します。
会社が納付するのは、法人税、消費税、都道府県民税、市町村税、法人事業税になります。税金の種類により申告書は提出する先も異なるので注意が必要です。
金融商品取引法に基づく「有価証券報告書」
有価証券報告書とは「法定開示書」と呼ばれ、開示を法律で義務付けられている書類。有価証券を発行する会社が、金融商品取引法に基づき投資家が投資するための判断の材料として、事業年度ごと会社の業績などを開示します。株式上場企業、所定の条件を満たす会社は提出しなければなりません。そのほか、有価証券の発行している会社も提出の義務があります。
投資家へ投資判断の材料として事業年度ごとに会社の業績などを開示するための書類です。市場に上場している企業、一定数以上の株主がいる企業、特定の条件を満たした企業は有価証券報告書を提出することになっています。
有価証券報告書は、公認会計士の監査報告が必要です。虚偽記載があった場合は、金融商品取引法違反で懲役刑も定められています。そのほか、証券取引所への上場廃止などに該当します。
決算報告書は提出義務があるか
すべての会社に決算書を作る義務がある
会社法によりすべての会社において「決算報告書」を作成する義務があります。会社法や会社法施行規則、会社計算規則などの法令があり、これらの法律や規則などに準じ適正に決算報告書を作成しなければなりません。しかし、中小企業では法令や規則に準じた決算報告書の作成は困難な場合が多く、法人税法の規定の決算報告書を作成する企業がほとんどでした。
平成17年8月、中小企業会計指針が公表。中小企業はこの指針を踏まえたうえで決算報告書を作成することを推奨されています。この中小企業会計指針は中小会計要領とも呼ばれ会計基準が簡単になっています。
未提出でも直ちに処分されることは無い
決算報告書を作成するのは、経営状況を確認するためだけのものではなく会社法により定められた義務でもあります。また、国に納付する税額を計算するための基礎となるものです。
決算報告書は、法人税やその他の税金を納付する際に一緒に提出するものです。業績不振、倒産、創業以来行なっていないなどの理由で提出していない場合、税務署から申告の催促の電話や書面の送付があります。
☑ 倒産
事実上の倒産の日付で税務署に届け出ます。
☑ 業績不振
金銭出納帳、売掛帳などを整理します。
申告せずにいると税務署の職員が直接訪問してきます。その際は、きちんと状況を説明、今後の処理の予定についてどのような考えでいるかを話します。もし、そのまま申告もせずにいると税務署が調査し税額が確定。「決定」と呼ばれます。この場合は、無申告加算税と延滞税が課せられます。
提出しないと業務の変更届・変更ができなくなる
決算報告書を提出せず、税務申告を行わないとさまざまな面で業務に影響がでます。2年連続で申告書を提出しないとまず青色申告が取り消されます。青色申告が変動すれば赤字の繰り越しができなくなります。また法人税は、税金が安くなる税額控除という制度があります。機械や設備に対しての設備投資をした場合や人を雇用した場合などには、一定額税金が安くなります。この制度を利用できるのが青色申告。
銀行から借入れもできなくなります。銀行は融資するときに、会社の返済能力を決算書で判断します。また、建設業、医療法人、宅建業などの業種は毎年所轄官庁に決算書を提出しなければなりません。提出しないでいると業種追加の申請を受け付けてもらえない、許認可が受けられないなど業務の関しての変更などができない可能性があります。
決算報告書の提出期限について
会社法では株主総会までに作成
事業年度が終了してから3ヶ月以内、法人税を納付するための確定申告は事業年度が終了してから2ヶ月以内に行うものとされています。
株主総会では、決算書の内容の報告や承認が行われることになっています。その前に、決算報告書を監査役会や会計監査人に監査を受ける必要があります。その後、取締役会の承認を受けた決算報告書は、株主総会の2週間前には本社に据え置くことになっています。株主総会で承認を受けた決算報告書は、決算公告として開示されます。
法人税の確定申告までに作成
法人税の確定申告は、基本的に決算日の2ヶ月後までに行います。決算により確定した利益や損失を基準に会社が納付する法人税などを計算します。
決算報告書を基準に法人申告書を作成します。そのほか多くの別表が必要になります。申告の際、税額が適正かを判断するため
☑ 法人税申告書
☑ 賃借対照表
☑ 損益計算書
☑ キャッシュフロー計算書
☑ 株主資本変動計算書
☑ 勘定科目明細書
☑ 法人事業概況説明書
などの書類を添付し提出することが義務付けられます。そして
☑ 申告書の控え
☑ 総勘定元帳
☑ 領収書綴
☑ 通帳や契約書
☑ 給与などの1人別徴収書
などは7年間保存することが義務付けられています。
法人税の申告期限は特例で延長が可能
会社の事業年度については、自由に開始と終了を設定することができます。そのため法人税の申告期限は、会社が定める事業年度の決算日により申告期限が異なります。会社の定款により株主総会の期日が「事業年度が終了してから3ヶ月以内」と定めているなら、法人税の確定申告の期限を特例により1ヶ月延長し事業年度が終了してから3ヶ月以内にすることができます。この場合、税金の納付期限は延長にはなりません。
会計監査人の監査や株主総会の承認を受けられない場合も特例として申告期限を延長することができます。まず、税務署に申告期限を延長するための特例申請をします。一度申請すると、次の事業年度も引続き延長が認められます。
自然災害など災害が発生した場合、その災害がやんだ日から2ヶ月以内に限って申告期限の延長が認められます。災害延長は地域指定と個別指定があり、地域指定は大規模な災害が発生、広範囲に被害が及んだ場合国税庁長官が地域と期限を定め実施。申請の必要はありません。
個別指定は、税務署に申請する必要があります。地域指定が定められた地域に被災した事業所があるものの本社が地域指定以外の場所にあり期間延長が行われないときに適用されます。
有価証券報告書は年度末から3ヶ月以内
事業年度ごとの有価証券報告書を提出します。原則として、事業年度経過後(決算日)以後3ヶ月以内に提出します。これは、金融取引法第24条第1項により定められています。ただし、外国の会社の場合は6ヶ月以内となっています。ただし条件を満たした場合は延長が認められます。延長企業については、日本取引所グループのサイトで確認できます。
有価証券報告書を提出しない、虚偽記載をしたなどの場合は、金融商品取引法違反で刑事罰や行政罰や民事責任そして上場廃止などの罰則を受けることになります。
税務署が見る項目をおさえた書き方
当期純利益を調整して税金を計算
損益計算書において、その一事業年度のすべての収益から税金などの費用を差し引いて計算された利益を当期純利益と言います。
☑ 当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失-(法人税+住民税+事業税)
特別利益とはその期だけ特別に発生した利益。通常の会社の経営活動とは関係のない要因で発生した利益のことなので、経常利益とは分けて区分します。不動産を売却などが特別利益になります。特別損失はその期だけに特別に発生した損失。自然災害により被害を被った、不動産など固定資産売却損などが特別損失に当たります。
税引前当期純利益が求められたら、法人税等を差し引きます。利益があれば「当期純利益」ですが、マイナスの数値になれば「当期純損益」となります。
売上の申告漏れが無いよう注意
売上は申告漏れがないようにしなければなりません。計上ミスなどの単純なミスで利益が少なく計上されていないかを税務署ではチェックします。請求が来期の分でも、商品の引き渡しなど完了している取引がないかについて帳端分の計上を正確に行うようにします。
売上の計上漏れに気が付き、みずから「修正申告」を行った場合と、税務調査で売上の申告漏れを指摘され「修正申告」をした場合では追加の税金に違いがあります。みずから修正申告した場合は、納めるべき期日を過ぎてしまったことで課せられる「延滞税」。税務調査で指摘された場合は、「延滞税」のほかに「過少申告加算税」や「重加算税」などが課せられます。
税務における売上計上日は業務完了日を示す
売上計上日とは、製品を販売、サービスの提供終了などの業務が完了した日を指します。入金日などは関係ありません。「商品を引き渡した日」に売上を計上するルールになっています。
スーパーなどでは、商品を販売しお客様が代金を支払うことで販売日が売上日として計上。しかし、業種や取引の形態によって「商品を引き渡した日」をいつにするかの基準が異なります。この基準を「売上計上基準」といい、会社によって選ぶことができます。商品や取引先によって基準日を変えることも可能ですが、いったん採用した計上基準は正当な理由がない限り変更することはできません。
決算報告書は必ず作成しよう
決算報告書は会社法や法人税法によってすべての会社に作成を義務付けられている計算書。1事業年度の会社の活動状況を報告することにより、その会社が利益を上げているのか負債があるのかを株主や税務署は判断します。
会社法では株主総会の前に作成する必要があります。会計監査人の監査を受け、取締役の承認を受けます。取締役の承認を受けた決算報告書は株主総会の2週間前までに本社に据え置くことになっています。その後、株主総会で承認を受けることで決算公告として開示されます。
法人税法においては、法人税の確定申告の前に作成しなければなりません。決算報告書が、法人税などの税額を決める基礎になるからです。
決算報告書を作成せず、法人税の申告を行わないと税務署などから再三の催告を受けます。それでも決算報告書を作成せず、提出もしないでいると追徴課税を受けることになり、融資は受けられない、業務における変更も認められないなど悪影響を及ぼします。決算報告書は適正に作成しきちんと法人税などの税金を納付するようにしましょう。