給与明細にある雇用保険料率とは?仕組みと計算方法を理解しよう

雇用保険料は、賃金に一定の料率を掛けた金額を支払う仕組みです。通常は給与から天引きされ、集められた保険料はさまざまな雇用促進事業に使われて世の中の役に立ちます。自分で計算してみることで、自分の給与と雇用保険への正しい理解につながるでしょう。

目次

雇用保険率とは

雇用保険の計算に使われる


雇用保険率は、毎月給与から天引きされる雇用保険料の計算に使われます。企業には一人でも従業員を雇っていれば、雇用保険に加入させて所定の手続きを取る義務があります。パートやアルバイトの場合でも、週に20時間以上、さらに31日以上続けて働く人は雇用保険に入ることができます。

集められた雇用保険料は、厚生労働省が行う雇用保険の事業などに使われます。この保険料の使い道は、失業給付の保険料率として集められたものと、雇用保険二事業の料率で集められたものがあります。前者は失業給付金として、後者は雇用安定事業のために、事業主への助成金、就労支援、職業訓練をはじめとする能力開発事業のために使われます。就労支援では若者向けのもの、子育て中の女性のためのもの、扶養家族のために急を要する中高年の求職者のためのものなど、多くの実体に合わせたプランが用意されています。

雇用保険料率は毎年4月1日に改正される

雇用保険料は毎年4月1日に、雇用保険受給者の人数や設立金の状況によって、厚生労働大臣が決定します。変わる年もあれば、変わらない年もあります。ただし厚生労働大臣の独断で決定されるわけでなく、一度厚生労働省の判断のもとに作成した法律案を国会に提出する仕組みです。なので、最終的なゴーサインを出すのは国会ということになります。

平成29年度は全体的に雇用保険料が引き下がりました。この理由として考えられるのは、2008年のリーマンショックで相次いでいた失業者が一旦は落ち着き、失業給付金の必要性が以前よりは減ったことが考えられます。ただ、来年度以降に変わる可能性も十分あります。

一定の範囲内で変更可能

雇用保険率は、社会情勢をふまえて一定の範囲内で変更が可能となっています。厚生労働省の機関である労働政策審議会は、労働の制度の整備や、実体の調査を担当しています。雇用保険料率もこの審議会を通して原案を厚生労働大臣のもとに決定し、国会に提出して承認されれば料率は変更になります。

労働政策審議会の中の、職業安定分科雇用保険部会が雇用保険の担当をしています。雇用保険二事業もこの部会が行うため、雇用促進のために必要な経費、雇用者や労働者の実体を全体的にふまえ、雇用保険の料率も変動します。

平成29年度の雇用保険料率変更点

一般の事業の保険料率は1.1%から0.9%へ

一般の事業の保険料率は平成29年度4月1日改正により1.1%から0.9%に減少しました。このうち労働者負担は0.4%から0.35%に、事業主負担は0.7%から0.6%にいずれも負担は減りました。今年度の引き下げにあたっては、失業者の数が減り料率を下げてもよいだろうとの政府の判断が背景としてあります。ただし、どの事業においても雇用保険二事業の料率は変わっておらず、雇用促進事業のための財源は引き続き必要との見方ができます。

「一般の事業」とは建設や農林水産業以外の事業のことを指します。オフィスワーカーなども一般の事業に入ります。比較的安定して雇用があり、失業のリスクは少ないといえるので保険料の負担も少なめとなっています。なお、園芸、畜産酪農、水産業、船員業は農林水産業ではなくこの一般の事業のくくりになります。

農林水産清酒製造保険料率は1.3%から1.1%へ

農林水産清酒製造保険料は、1.3%から1.1%に減少しました。このうち労働者負担は0.5%から0.4%に、事業主負担は0.8%から0.7%にいずれも減りました。いずれもそれぞれ0.1%ずつ、合わせて0.2%の減少です。

農林水産清酒製造業は季節や天候、あるいは時の運に左右される部分が多く、災害や天候不順など予期せぬ失業のリスクも高いといえます。例えば、杜氏という酒製造の職人たちは、酒造りは冬だけに行い、夏場は農業で生計を立てているケースも多いです。農業でも、しっかりと設備投資をして農作業を行ったにもかかわらず一度台風などに遭えば作物がダメージを受けて出荷できず、収入がなくなってしまう危険があります。このような万が一の場合に備えて失業給付金などを出せるよう、一般事業に比べて雇用保険料の負担は少し高く設定されているのです。

建設の事業の保険料率は1.4%から1.2%へ

建築の事業の保険率は1.4%から1.2%へ減少しました。このうち労働者負担は0.5%から0.4%、事業主負担は0.9%から0.8%といずれも減っています。いずれもそれぞれ0.1%ずつ、合わせて0.2%の減少です。

建築事業もまた失業のリスクの高い職種です。なぜなら、建物ごとに契約をして働くケースが多く、時期によっては無収入になる可能性があるからです。また、危険と隣り合わせの現場で働き、災害や事故に遭って働けなくなることもあります。万が一にそなえて給付金を出せるよう、保険料の負担も高く設定されています。

雇用保険料率の計算法

毎月の給与総額に雇用保険料率を掛て算出


雇用保険料は、「毎月の賃金総額×雇用保険料率」という計算式で算出されています。一般のオフィスワーカーのケースでは、事業者でなければ「労働者負担」として、また農林水産業、清酒の製造、建築業ではなく「一般の事業」としてみなされ、平成29年であれば0.3%を負担することになります。

例えば、ひと月の賃金総額が25万円の場合は250,000円×0.3=750円となり、一月に750円の雇用保険料を負担します。通常給与から天引きされるので、給料の受給者は給料明細でその負担を確認できます。雇用保険料率は毎年変わり、厚生労働省のサイトで公表されるほか、ニュースなど各メディアでも情報を確認することができます。

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税金や社会保険料などを控除する前の賃金の総額

雇用保険料の対象となるのは、税金や社会保険料などを控除する前の「賃金総額」です。所得税や厚生年金、健康保険の計算に用いる「標準報酬月額」とは異なります。混同しやすいため注意が必要です。

賃金総額が対象なので、雇用保険料率は毎月の給与から算出する必要があります。毎月の給与の中には、所得税の計算などには用いない通勤手当、住宅手当、残業手当、傷病手当、家族手当などが含まれています。一方、賃金とみなされない役員報酬、退職金、結婚祝い金といった給与もあります。これは毎月ほぼ一定の標準報酬月額とは違い、その月ごとに変動するので毎月算出されています。

毎月算出するという点は、健康保険料や厚生年金保険が一年間変わらないこととは対照的なので、混同しやすく注意が必要です。厚生年金や健康保険は、標準報酬月額を基準に計算していて、31等級で国が定めています。これに対して雇用保険の計算に使う賃金は、その月の勤務やプライベートの状況でも変化するので、算出は毎月必要となります。

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雇用保険料は会社と被保険者とで分けて負担

雇用保険料は、事業主である会社と労働者である被保険者で分けて負担しています。労災が事業者のみの負担で、万一労働者に負担させていると違法になることとは対照的です。一般的には事業主側が若干多めに負担し、たとえば平成29年なら労働者負担が0.3%で事業主負担が0.6%と、事業者の負担が0.3%多くなっています。

差が出るのは、労働者は失業給付金のみを負担するのに対し、事業主は失業給付金も雇用保険二事業のための費用も両方負担するからです。二事業の分として集められた保険料はさまざまな雇用促進の取り組みに使われ、失業者や就労できていない人に新たな雇用を生み出すための財源として活用されます。

被保険者分は毎月計算され、毎月の給与総額から控除されます。事業主側も雇用保険に関しては同等に控除を受けます。雇用保険に加入していれば正社員・パート問わず雇用保険料を徴収することは義務なので、給与所得者は給与から天引きをされます。

端数が50銭未満の場合は切り捨てる

被保険者の雇用保険料が算出して端数が50銭(0.5円)に満たなかった場合は、切り捨てして0円として扱います。この算出法は、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」の中で定められていますが、全ての税金・保険料で使われる算式というわけではなく、ものによっては別の算式を用いることもあります。

たとえば、一般の事業で働く人の賃金が210,100円の場合、雇用保険料は210,100円×0.003=630.3円となりますが、端数の0.3円は50銭を下回るので切り捨てし、この月は630円の雇用保険料を支払うことになります。

端数が50銭以上は切り上げる

逆に、端数が50銭以上は1円切り上げて加算して計算します。たとえば一般の事業で働く人の賃金が210,200円の場合、雇用保険料は210,200円×0.003=630.6円となり、端数の0.6円は50銭を超えるので切り上げて1円として扱い、雇用保険料は631円となります。

所得税の計算は被保険者分賃金から源泉控除する場合の計算式で行いますが、雇用保険料率は被保険者負担分を事業主が現金で払う場合の計算式で算出します。このように、税や保険料によって計算式が少しずつ異なる場合があります。

賞与の雇用保険料と保険料の免除について

賞与の支給総額に雇用保険料率を掛けて算出


賞与が支給される場合は、毎月支払われる給与とは別に賞与に対する雇用保険料を計算します。賞与はボーナスや報奨金など、会社が定めているものなので、標準報酬月額とは違って等級などは特にありません。賞与の保険料は、同じ月の給料と合わせて計算されて算出されるわけではなく、毎月の給与とは別枠で計算され、控除されることになっています。

賞与の保険料には上限は無く、どれだけ賞与が多くとも賞与にその年の雇用保険料率を掛けた額を負担する仕組みです。また、退職金など支給される時点で労働者の資格を喪失している場合でも同等に、雇用保険料は差し引かれます。

64歳以上雇用保険被保険者は保険料が免除

64歳以上の雇用保険被保険者は、保険料を支払う必要はありません。なぜなら、雇用保険という制度自体が高齢者の福祉と雇用促進のために作られているからです。このため、雇用保険の対象にはなっていて失業手当や就労支援なども受けられますが、保険料は免除となっています。

対象は、雇用が成立しているその年の4月1日に64歳以上であることです。会社負担分と被保険者負担分共に免除されるため、経営をしているなど事業主の立場であっても、労働者として被保険者の立場であっても、どちらの場合でも雇用保険料はかかりません。

高齢者の雇用保険料に関しては、年齢や条件が少しずつ変わってきています。平成29年度の1月1日から、64歳(満65歳)以上も保険料免除で保険は受けられることとなりましたが、その直前までは保険料も払わなければ、雇用保険自体も受けられない制度となっていました。ズレが生じやすい部分でもあるため、現在の動向をしっかりと確認する必要があります。

短期雇用特例被保険者と日雇被保険者は対象外

雇用保険料の免除・対象外になる代表的なものとして、短期雇用特例被保険者と日雇被保険者が挙げられます。労災の場合とは対照的に、必ずしも賃金をもらう労働者の全てが対象ではありません。特定の保険を受けている人は、雇用保険とは別に給付などを受けていたり、本来雇用保険で支援をされるべき立場であったりします。

短期雇用特例被保険は、季節的な雇用のために年間のうち4ヶ月以上、週30時間以上の勤務が毎年のように常態化しているケースで受けられる保険です。例えばスキー場や海の家といった事業では、特定の季節にしか雇用が発生せず、毎年のように繰り返されます。このような働き方をする人は短期雇用特例保険に加入し、給付なども受けることができます。ただし、雇用保険の対象にはなりません。日雇保険は、日雇で働く回数・頻度が多い労働者のための保険です。一定期間日雇で勤務したことがあれば、日雇手帳を交付され保険に入れます。給付金を受けたりハローワークの就労支援を受けたりと、むしろ雇用保険を支援を受けるべき立場に該当するので、逆に雇用保険料を支払う必要はありません。

この他にも、船員保険の被保険者、個人事業主自身、昼間学生、国外労働者なども雇用保険の対象外となります。家庭で妻を事業の専従者として働かせているときはケースによります。雇用の対象となるか否かが不明な時には、ハローワークで確認しましょう。

雇用保険料の全額は年に1度申告する

雇用保険料の全額の合計は、年に1度労災保険料と一緒に申告することになっています。雇用保険料と後述する労災保険料の合計を合わせて労働保険料と言います。毎月の算出とはまた別に、労働保険料の納付や申告は年一度行われます。届け出先としては、所轄の労働局や労働基準監督署、もしくは近隣の銀行など、ゆうちょ銀行を含む金融機関が日本銀行の歳入代理店として受け付けています。

毎年6月から7月10日までの間に一度、雇用保険料の前年度の分を納付し、加えて前年度の額と今年度に払う見込みの額を申告します。時期に申告をするために、雇用保険料の計算上年度の始まりとなる4月1日から書類の作成などが始まる仕組みになっています。申告・納付は義務となっております。なお、所得税や控除の「確定申告」とは別物で、こちらの確定申告は2月〜3月に行います。

労災保険料とは?

賃金を支払う全ての人に労災保険が適用される


労災保険料は、賃金を受け取って働く全ての「労働者」に適応されます。パート、アルバイトなど雇用形態を問わず賃金が発生すれば自動的に加入することになっている仕組みで、特に届け出などは要りません。業務中や通勤中における災害による病気、ケガ、死亡、生涯に対して保障を行う制度です。賃金を受け取る側は特に手続きは必要ありませんが、事業主は逆に労災を負担し、申告する義務があります。

保障の例としては、業務中や通勤中に治療が必要になったら、労災病院では無料で治療が受けられ、その他の病院でも治療費が給付されるものがあります。休業中傷害が残り続けた場合でも一定の保障が受けられますが、業務中でない怪我は健康保険の扱いになるので労災は下りません。

また、通勤中とみなされるには「合理的な方法」で通勤している必要があり、必要よりも高い賃金を払って寄り道をするなどと通勤経路と異なる方法で移動中にケガにあっても、「合理的な方法」とはみなされず労災は発生しづらくなってしまいます。

なお、就労する前にすでに疾病にかかっていた場合は、業務中や通勤中にその疾病が現れても業務・通勤中の疾病とはみなされません。この場合は健康保険の負担になり、労災からは出ないので注意が必要です。

疾病でなくても、就労以前に粉塵や振動工具など、危険を伴う作業に一定期間以上従事した経験があるときは、健康診断を受けることが義務付けられています。万が一ここで健康被害が見られた場合は、治療に専念すべきとして労災の給付が制限される場合があります。

労災保険は全額事業主が負担する

労災保険は全額を事業主側が負担します。雇用保険料が事業主と労働者の双方負担になっているのとは対照的です。労働者の賃金に事業ごとに異なる保険料率を掛け合わせた額は事業主が支払い、労働者が支払うことはありません。つまり、労働者は労災の負担を完全に事業者に任せている形になります。

事業主には労災を払ったことを申告・報告する義務があります。また万が一、労働者に労災料を負担させていた場合は違法です。たとえば、労働者の給与から労災料(雇用保険料ではなく)が天引きされていたら、いわゆる労災隠しとして、労働基準監督署に通報するほどの不祥事となります。

このような意味でも、労働者は給料の使い道を明細でしっかり確認し、自分が適切な労働環境にいるかを確かめる必要があります。

労災保険料は年一度計算する

労災保険料は年に一度全職員の年内の賃金に、労災保険料率をかけて算出されます。労災保険料率とはそれぞれの業種ごとに、労災事故の起こる割合などを考慮し決定される割合です。基本的に、労災事故の起こる危険が高いほど労災保険料率も上がります。

反対に雇用保険料は毎月労働者分の給与から徴収し、社会分と合わせて年に一度申告、納付する仕組みです。この計算は経理や事務など、会社の担当が行います。個人事業主などは自身で計算しなければならないので、多くの場合は専門ソフトを使用したり、青色申告会などの専門家の助けを借りたりしながら行っています。

労災料は全額事業主負担なので労働者は負担しませんし、給料明細では確認することができません。雇用保険料は給与が渡る時点で既に天引きされています。いずれにしろ、労働者という立場で働いていると意識しづらい金額であるといえます。

原則として年に一度前年度分をまとめて申告する

労災保険料は雇用保険料と合わせて「労働保険料」という言い方をし、原則として年に一度、前年度分をまとめて申告・納付します。申告の時は、確定保険料という前年度に支払った労働保険料の申告・納付と、概算保険料と呼ばれる今年度に払う見込みの保険料を合わせて申告します。

時期は決まっていて、毎年6月1日から7月10日の間に申告、納付するシステムになっています。この時期に間に合わせるために、新年度の4月になったら書類の作成などに着手し、申告に備える必要があります。毎年繰り返すこのような作業を、保険料の年度更新といいます。この手続きも、企業などでは事務や経理など担当の職員が行いますが、個人事業などでは事業者自身が行う必要があります。

労災保険に加入できない人の分は除外

会社の労災保険料は、全従業員の年度内賃金総額に労災保険率を乗ずる事で算出します。この「全従業員」はあくまで労災に入れる労働者・雇用者の事を意味し、労災に加入できない人の分は除外して計算する仕組みで全員の労災分ではない点が特徴です。

労災に加入できないのは企業では取締役や個人事業主、一人親方と呼ばれる普段は従業員を従えずに事業を行う人たちです。あくまで経営をする側であり、賃金を受け取る労働者とはみなされないので、通常の労災には加入できません。ただし、同等かそれ以上の労務災害のリスクを背負った事業主たちに向けた労災保険特別加入制度という厚労省の制度があるので、万が一の保障は同様に受けられます。

いずれにしろ、労災保険料を計算する際には、労災に加入できない事業主、経営者、取締役等の分の保険料は除外して計算されています。労災に加入した人の分だけが労災保険料として、事業主側に全額負担してもらう形になります。

雇用保険のしくみを知って自分でも計算してみよう

毎月天引きされる雇用保険料、賃金に料率を掛け合わせるという比較的簡単な算式で計算できます。集められた保険料は失業給付金や助成金、雇用促進事業など、さまざまな目的で社会のために使われています。また、万が一のことがあったら自分の身を助けてくれる制度でもあります。

給与を受け取る側として生活していると、雇用保険料は天引きされるために普段は意識しづらいといえます。自分でも計算して、自分が支払っている上に助けられることもあるかもしれない雇用保険の仕組みをしっかり理解しましょう。

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