資本金の決め方。しっかりと理解してから適切な金額を設定しよう

会社を設立しようと思った時には、資本金をいくらに設定したらいいのか頭を悩ませることが多いです。資本金は金額によって社会的な信用が変わり、税金や法律など、いろいろ影響してきます。まずは資本金についてしっかりと理解し、適切な金額を決めましょう。

目次

会社設立に必要な資本金を理解する

自分で持っている運転資金

資本金とは、会社事業スタート時に自分で持っている運転資金のことです。自己資本金が多ければ起業の際の資金繰りが楽になりますし、会社の信頼が増すので金融機関から融資を受ける際の審査は有利になります。

資本金は会社の規模や体力を表すものなので、資本金が多いほど信用されやすいです。しかし会社設立時の資本金が1,000万円以上になると会社設立初年度から消費税の課税業者の対象になり、会社設立時の資本金が1,000万円未満の場合は消費税が2年間免除されるなど、資本金によって税金の条件は変わります。

会社設立時に株主からもらう資本

株式会社を設立するためには、仕入代金、登記の印紙代、事務所や店舗を借りるための保証書、パソコンや機械などの備品を購入する費用など、たくさんのお金がかかります。まだ商売を始めてない状態でたくさんの初期投資が必要になるので、このお金をどうするのかというと、それは株主(出資者)からもらうのです。

会社設立時に株主が資本金を出し、その資本を元に事業をスタートさせ、利益が出たら株主に返還するという仕組みです。会社によっては株主と経営者の役割を1人もしくは数人のみで行うこともあります。株主と経営者が1人2役であれば、資本金や配当金がいくらであってもトラブルにはならないということがメリットです。

会社に積み立てられる資本準備金

資本金の1部が資本準備金となる

株主からの資本金として出資されたお金の一部は資本準備金となります。資本準備金にできる金額は、資本金の2分の1を超えない範囲です。資本金として計上しない金額は資本準備金として計上します。

例えば1,000万円出資されたとすると、資本金500万円、資本準備金500万円計上することができます。ちなみに資本剰余金(その他資本剰余金)に計上することはできません。

資本準備金以外の法定準備金

会社法による資本準備金は、「会社の債権者を守るために一定額をためておいた方がいい」という意味合いの制度だといわれていて、資本準備金の他にも利益準備金というものが定められています。

それらの法定準備金を減らすことができる目的は、資本金への組み入れと剰余金への組み入れです。序預金への組み入れの場合は債権者保護手続きが必要となります。

資本剰余金とは

資本剰余金にはいろいろあります。会社法上でいうと、資本準備金及び資本準備金以外の資本剰余金(その他資本剰余金)という区分となっており、その他資本剰余金とは資本の性格を持った剰余金という位置づけです。

その他資本剰余金は利益から発生する利益剰余金とは違い、株主からの払込や資本取引から発生する剰余金。資本準備金を取り崩した金額、自己株式を処分したときの差額などいろいろなものが含まれます。

資本金、資本準備金、その他資本剰余金との違い

会社が配当する際には、資本金と資本準備金は配当原資にはできないということが決まっていますが、その他資本剰余金は配当金にできます。これが資本金、資本準備金、その他資本剰余金の大きな違いです。

その他には、法人税法上の処理で違いが発生する場合があります。消費税法や地方税法や中小企業基本法上での違いも発生することもあるので、これらを意識しながら物事を進めていきましょう。

取り崩して欠損填補できる

資本準備金は、将来業績が悪化した場合にこの資本準備金を取り崩すことで資本金等を維持するもので、使用目的が限定されています。

会社に欠損金がある場合、欠損を解消するために資本準備金を取り崩して欠損填補をさせるという方法があります。資本準備金を取り崩して欠損填補するためには、株主総会の手続きを経る必要がありますが実行可能です。定時株主総会ではなく、臨時株主総会でもかまいません。

会計上の処理について

資本準備金を取り崩して欠損填補する場合、会計上は資本剰余金から利益剰余金への振替として処理されます。税務上は資本金等や利益積立金の額の変動はありません。

つまり税務上の仕分けは、発生しないということです。会計上と税務上とでは処理の内容が異なります。

会社設立に必要な資本金の額

資本金1円から会社設立可能

資本金1円から会社設立可能になったのは、2006年に会社法が改訂されてからです。ちなみに旧制度では、株式会社は資本金最低1,000万円、有限会社は資本金最低300万円が必要とされていました。

総務省の統計調査によると、業界や業態によって異なりますが、資本金の平均は300万円です。会社法上は資本金1円からでいいので会社設立に費用が掛からなくなったものの、実際は資本金1円でスタートすることは難しいでしょう。

資本金1円スタートが難しい理由

資本金は会社の開業資金になります。事業をスタートさせるために初期費用と事業が軌道に乗るまでの運用資金として資本金を使用するため、資本金が1円ということはほぼ不可能です。

資本金1円でスタートしたとしても、事業を始めるにはお金が必要になり、結局はどこかからお金を用意しなくてはならない状況がきます。その場合、代表者(起業した自分自身)がお金を用意しなければいけないので、それなら資本金として用意したほうが効率的ということです。

余裕をもって設定すること

資本金は余裕をもって設定しましょう。事業を始めてすぐ利益が出るというのはなかなか難しいです。事業スタートから最低3ヶ月分くらいの自分の生活費はしっかりと確保しておくことが大切です。

資本金は経費なので個人への引き出しは貸付になります。確かに資本金が大きいほうが開業準備を進めやすく、融資担当者などまわりからの信用を得られやすいなどのメリットはありますが、それ以前に自分の生活ができなくなるようでは意味がありません。資本金の金額を決めるときは、余裕をもって設定しましょう。

資本金を決める際のポイント

最低3ヶ月は事業が続けられる額が目安

開業してすぐに利益を出すことは容易ではありません。しばらくは利益がなくても、開業してから利益が出るまでの運転資金と事業を始めるにあたって必要な初期費用をあわせた金額を目安にするといいでしょう。初期費用+運転資金3ヶ月分=資本金が一般的だといわれています。

利益が出るまでの運転資金については、最低3ヶ月は事業が続けられるくらいの額が目安です。開業してすぐに利益が出たとしても、お客様に商品やサービスを提供した売上金がすぐに入金されるとは限りません。

場合によっては翌月や翌々月の入金になることもあるので、やはりどちらにしてもしばらくは事業が続けられるくらい、余裕をもって資本金の額を設定したほうがいいです。

開業の際の初期費用とは

☑ 1.事務所や店舗にかかる費用
(敷金、礼金、保証金、仲介手数料、前家賃となる家賃1ヶ月分、駐車場契約料など。)

☑ 2.設備にかかる費用
(内装・外装の工事費、電気工事費、電話工事費、配管工事費、看板製作費、電話加入権、その他設備費など。)

☑ 3.備品にかかる費用
(デスク、椅子、パソコン、パソコン周辺機器、電話、ファックス、金庫、レジスター、空調機器、文具、事務用品、ユニフォーム、車など。)

☑ 4.事前の広告費
(パンフレット、チラシ制作費、名刺、案内状、ホームページ制作費、登記費用、租税公課など。)

業種によって初期費用の使い道はさまざまですが、どの業種であったとしても用意しなくてはいけないものはたくさんあります。必要なものをリストアップして初期費用をしっかりと計算してから資本金を設定しましょう。

利益が出るまでの運転資金とは

☑ 1.商品の仕入れ代金
☑ 2.家賃の支払い
☑ 3.備品の購入
☑ 4.広告宣伝費
☑ 5.人件費
☑ 6.その他さまざまな支払い

事業が軌道に乗るまでに必要な運転資金はこの他にもいろいろあり、業種によっても必要なものが変わります。売上金の入金があるまでは、それらの経費を資本金で賄うので、最低3か月分の運転資金が用意してあると安心です。

開業する前に資金繰りの計画を立てておき、売上入金があるまでの必要な資金を計算しておくと適正な資本金の額が算定できます。

消費税の免税期間を利用する

開業時の資本金1000万円未満の場合は、2年間の消費税が免税されます。しかし2年間の消費税が免税になるためには条件があり、条件に外れると2年間の消費税の免税対象にならないということも起こります。

消費税の免税対象について

☑ 1.開業してから1年目の途中で資本金を増額し、資本金が1,000万円以上になった場合は免税対象にならない。(この規定は法人のみなので個人事業主は関係ない。)

☑ 2.開業してから2年目以降の時、前年の上半期の売り上げが1,000万円を超えた場合は免税対象にならない。(ただし給与等が1,000万円以下なら消費税の納付が免除されるので、売り上げが伸びた場合は給与などで調整すると免税対象になる。)

☑ 3.開業から6ヶ月間の課税売上高と給与の支払いが1,000万円を超えるという見込みが開業当初から予測できるのであれば、開業から1期目の事業年度を7ヶ月以下にすると免税対象となります。

資本金を少額にする場合の注意点

金融機関からの融資が受けにくい

資本金が高額な会社は、社会的な信用を得ることができます。逆に資本金が少額な会社は信用面で不安視されるため、金融機関からの融資が受けにくいです。

ネットショップの開業などでは少ない額の資本金に決めるケースがよくあります。会社法上は資本金は1円でもいいということになっていますが、信用を得て融資を受けたいなら、せめて同業者と同じくらいの資本金を用意したほうがいいでしょう。

取引先とのスムーズな取引がしにくい

資本金が高額な会社は社会的な信用を得ることができ、融資先からだけでなく取引先からの信用を得られます。そうなると取引先とスムーズな取引ができるというメリットにつながるのです。

資本金が少ないと取引を断られてしまうというケースもあります。初期費用や運転資金との兼ね合いで資本金を決めつつ、取引先や競合相手の資本金もチェックしておくといいでしょう。

人材の確保に影響する

資本金の額は会社の信用を左右します。そのため人材の確保の際にも影響を及ぼすのです。

起業を成功させるためには、優秀な人材を集めることも大切。人材が確保できないと成功する可能性が低くなってしまいます。会社の信用を得ないとあらゆる面で悪影響を及ぼすので、資本金の設定金額には注意しましょう。

資本金を増資する方法とその理由

新たに株式を発行する有償増資

資本金の金額は会社の信用度の基準になるものです。新規顧客開拓時に有利に働くなどのメリットがあります。また、増資した分の資金を使って事業拡大費に使用したり、運転資金にも使うことが可能です。

増資する方法の1つが、新たに株式を発行する有償増資という方法。事業拡大費や運転資金が主な目的ですが、借入金が膨らんで資本構成が悪化した場合にも行われることがあります。

銀行からの借入や社債発行による資金調達の場合は、元利金の返済が必要です。しかし新たに株式を発行する有償増資で資金調達をした場合は、返済の必要がありません。

有償増資の募集方法

☑ 1.株主割当
☑ 2.第三者割当
☑ 3.公募

株主割当による増資とは

既存の株主から出資を受ける代わりに、新株主権を株主に与えます。株主には持ち株数に応じて新株式が割り当てられ、割り当てを受けた株主に申込みや払込みを行う義務はありません。それらがなされなかったときは、その増資分の権利を失うため、既存の他の株主とのパワーバランスが崩れてしまいます。

株主割当による増資後は、株主構成に大きな変化はおきません。そして、資金調達が実施できる可能性が高いという特徴があります。

第三者割当による増資とは

増資をしようとする株式会社と特別な関係にある第三者から出資を受ける代わりに、その第三者に一定数の新株主権を与えます。ちなみに第三者は、取引先、親会社、発行会社の役員や従業員、金融機関などの縁故者が多いです。

第三者割当による増資は、収益力が乏しく方法が難しいということが特徴です。取引先との関係を強化する目的や、資本提携を行いたいという場合に行われることもあります。

公募による増資とは

不特定多数の一般投資家から募集して増資する方法です。発行価格は株式市場の時価を基準にしますが、それよりも低めに決めます。

多額の資金調達が可能にはなるものの、この方法が使えるのは上場会社のみです。上場会社は株式を公開していて証券取引所で売買を認められている会社のこと。上場している日本の会社は全体の1%にも満たしません。

利益等を資本金に振替する無償増資

無償増資とは、払込金を取らず利益等の会社の他の資産を資本金に振替えて新株を割り当てることです。資本準備金、利益準備金、資本金を組み入れて新株を発行するもので、投資家からの資金の払込はなく会社には資金は入ってきません。

無償増資の目的は資本構成の見直しや株主への利益還元などで、株式分割により行、株価を下げ購入しやすくします。株式分割の他には、新株予約権や新株引受権の行使も無償増資の一形態です。

増資の理由は信用の獲得と資本の蓄え

増資の理由はさまざまですが、信用獲得と資本の蓄えのための増資という場合が多いです。もっと細かく説明すると、以下のような理由や目的が挙げられます。

☑ 1.信用獲得と信用力向上のため。
☑ 2.事業拡大のために資金を調達する必要がある。
☑ 3.事業活動で生まれた利益を株式会社に留保し、さらに事業を発展させるために資金を蓄える。(利益剰余金の資本組入)
☑ 4.銀行から借りているお金(債権)を放棄する代わりに、貸付先企業の株式をもらう。(借入金の資本金組入)

出資する株主・投資家からすると資本金は返済不要というのはデメリットになるのですが、それでも増資を引き受けるのは、どんどん成長する見込みがあり将来利益から発生する配当金の期待が持てるということと、株式の価値が上がり株式を売ったときに売却益が見込めると判断したからです。

つまり資本金が大きいということは信用されているという証明にもなります。株主がリスクを冒してでも投資するくらいに信用されるということです。

資本金を減資する方法とその理由

株主に出資金額を払い戻す有償減資

有償減資とは、株主に出資金額を払い戻すことです。株主総会にて減資と剰余金の配当の両方を同時に決議し、減資の効力発生日後に剰余金の配当となる金銭などの交付を行います。

有償減資で気をつけなければいけないことは、みなし配当として源泉徴収が必要となる場合があること。有償減資をする際に、その他資本剰余金を原資とした剰余金の分配という取引をした場合、分配された金額によってはみなし配当が発生します。そうなると源泉徴収が必要になるケースが発生するので注意しましょう。

欠損填補として資本金を充当する無償減資

無償減資の仕訳には、資本金を減少させてその他剰余金を増加させる場合、配当の原資である分配可能額を増やし今後の株主への配当の備えにする場合、欠損填補として資本金を充当する場合があります。

減資によって欠員填補する場合は、資本金を減少する減資、減資によって発生したその他剰余金と欠員填補にあてるという2段階により行います。

減資の理由は赤字補填と節税対策

赤字を補填するために減資をする

会社の業績の指標でわかりやすいのが「黒字」と「赤字」。日本の法人数約100万のうちで、黒字の企業は約4分の1、赤字の企業が約4分の3だといわれています。現状では赤字企業が多いと言われています。

赤字決算では銀行からお金を借りにくいため、赤字を脱するためには営業利益を拡大して売り上げを増やしたり、経費を減らして経営利益を上げるということが基本ですが、それでも赤字を脱することができない場合に赤字を補てんする方法として減資という選択肢があります。

節税対策で減資をする

日本の税制では、資本金が大きい大企業からたくさん税金を取る仕組みになっています。例えば資本金が1億円越から1億円以下になると税法が定めている「大企業」から「中小企業」になり、納める税金が場合によっては数百万円から数億円などと大幅に減ることになるのです。

税務メリットは大きいのですが、会社の信用が下がるなどのデメリットもあるので、減資についてはよく考えましょう。

資本金が1,000万円以下の場合の節税について

☑ 1.基本的には開業から2年以下は消費税を免除される。(ただし例外あり。)
☑ 2.法人住民税が安くなる。

資本金が3,000万円以下の場合の節税について

特定の固定資産を一度で償却できたり、税額控除を受けることができる。

資本金が1億円以下の場合の節税について

☑ 1.法人税の税率が一部下がる。
☑ 2.交際費の損金算入部分が大きくなる。
☑ 3.30万円未満の少額減価償却資産が一定額まで全額損金算入できる。
☑ 4.欠損金の全額繰越控除の適用と繰戻還付の適用。
☑ 5.事業税の外形標準課税が対象外になる。

その他にも節税になる項目はあります。

資本金の大切さを理解して資本政策をしっかりと検討しよう

資本金を決めるときは、用意できる資金、受けたい融資の額、会社法や税法など、さまざまな観点で検討して無理のない適切な金額を決めなければいけません。資本金の金額設定で失敗しないためには、資本金の大切さをよく理解することから始めましょう。

資本金について理解をしたら、その次に事業を行う上でどれくらいのお金が必要なのかを計算します。資金調達と株主構成のバランスをとりながら、資本政策をしっかりと検討しましょう。

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