標準報酬月額は、厚生年金保険や健康保険などにおいて保険料額を決定する時の基礎となる数字です。会社に勤めているサラリーマンで社会保険に加入している人にはとても大切な数字になります。標準報酬月額を理解することで、将来設計も具体化されます。
目次
標準報酬月額の基礎的なポイント
増えるほど社会保険料が上がる
会社勤めしている人の場合、ほとんどの方が社会保険料は毎月の給与から天引きされていることでしょう。社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料などが含まれます。健康保険料と厚生年金保険料は毎月の給与額とほぼ等しい標準報酬月額に、一定の割合の保険料率をかけ合わせて計算されているのです。
☑1.健康保険
標準報酬月額×健康保険料率
☑2.厚生年金
標準報酬月額×厚生年金保険料率
標準報酬月額とそれに対する社会保険料額を一覧にしてまとめた健康保険・厚生年金の保険料額表が、日本年金機構や健康保険協会で掲載されているので、気になる方はチェックしてみましょう。
税金と同じように、社会保険料は標準報酬月額に一定の保険料率をかけて計算されているので、標準報酬月額が増えるほど、社会保険料も高くなり負担する金額も多くなります。
介護保険料について
保険料額表の健康保険料の箇所は、介護保険第2号被保険者(40歳〜65歳未満の介護保険納税者)に該当しない場合と該当する場合に分かれていて、それぞれ保険料と保険料率が異なります。
介護保険料は健康保険料に上乗せされるため、第2号被保険者は被保険者に該当しない40歳未満の人より、健康保険料率が2%前後高くなるのです。
4月と5月と6月の収入で決まる
標準報酬月額は、毎年4月、5月、6月の3ヶ月の報酬の平均によって算定されます。この算定された金額は、その年の9月1日以降から1年間の標準報酬月額です。このように、毎年1回決まった時期に標準報酬月額の見直しを行うことを「定時決定」といいます。
ただし年の途中で給料が大幅に上下した場合は、給料の実態に合うようにするために、標準報酬月額が改定されることもあります。このように給料の大幅な変動により行う改定を「随時決定」といいます。
給与の他に交通費や残業代も収入に加える
標準報酬月額の算定をするときに、基礎となるのが1ヶ月の給料です。この給料のことを「報酬月額」といいます。ここでいう報酬とは、労働基準法上の賃金とは異なり、労働を提供した対価として受取る物全てが対象となり、現物支給されるものも含まれます。
報酬に含まれるもの
☑1.給与
☑2.残業手当などの給与手当
☑3.通勤手当などの交通費
☑4.現物支給された報酬
通勤手当の交通費も報酬に含まれますので、標準報酬月額の算定に加算されることに。そのため遠方から通勤している人は交通費が高くなるので、その分標準報酬月額も高くなります。
固定賃金が変動する場合は申請が必要
随時改定(月額変更届)は、固定的賃金の大幅な変動があったときに、次回の定時決定を待たずに標準報酬月額の申請を行います。
随時改定は、以下の3つの条件にすべて該当した時に行われます。
☑1.昇給や降格等の固定的賃金の変動又は賃金体系の変更
☑2.変動月から3ヶ月間の報酬の平均額と現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差があること
☑3.変動月以後3ヶ月とも支払基礎日数が17日以上であること
ただし2等級以上差があっても基本給等は変わらず、残業代のみの変更の時は随時改定の対象にはなりません。
固定的賃金と非固定的賃金
固定的賃金とは、基本給、家族手当、通勤手当、役職手当など支給額、支給率が決まっているものをいいます。非固定的賃金とは、残業手当など稼動実績などによって支給されるものです。したがって、随時改定の対象になるのは、固定的賃金となります。
等級には上限と下限がある
標準報酬月額の一覧表は、健康保険では健康保険料額表、厚生年金では厚生年金保険料額表です。4月、5月、6月の報酬の平均から標準報酬月額が決まります。この標準報酬月額を区切りよい幅で区分したものが等級です。
☑1.健康保険
健康保険の標準報酬月額は、第1等級の58,000円から第50等級の1,390,000円までの全50等級に区分されています。また上限該当者が3月31日で全被保険者の1.5%を超えたときは、一定範囲で標準報酬月額の上限を改定できます。
☑2.厚生年金
厚生年金保険の標準報酬月額は、1等級88,000円から31等級620,000円までの31等級に分かれています。上限の620,000円を超えると保険料の上昇はなく一定になります。
増えても損をするわけではない
標準報酬月額は、4月、5月、6月の3ヶ月の給与の平均をとって決定します。ですからこの4月、5月、6月に残業が集中するとその分給与額も増えますので、標準報酬月額がアップし、徴収される保険料もあがるわけです。
残業が少ない月は給与額も減るわけですが、標準報酬月額はそのままの額ですので、損をしているように感じます。しかし支払額の分だけ厚生年金が貰えるので、必ずしも損をしているわけではありません。
標準報酬月額は1年間変わらない
定時改定で決定された標準報酬月額は、その年の9月1日から1年間は変わらず翌年の8月31日まで同じ額の社会保険料が天引きされます。この間に基本給や各種手当金の変動があったりして、よほど大きく給与額がかわらない限り改定されることはありません。
標準報酬月額が決定される4月、5月、6月は会社によっては、年度末の決算業務など休日出勤が増えるような繁忙期でもあります。このような傾向がある企業には、この時期の定時改定は不利な面が生じることも。
繁忙期に残業が増える業務や部署に対しては、
☑1.4月から6月の報酬額
☑2.前年の7月から当年の6月の1年間の報酬額
2つの報酬額を平均して算出した標準報酬月額を比べて、2等級以上差が出た場合に限り申し立てによって、標準報酬月額の変更が可能になります。
標準報酬月額を用いた厚生年金保険料の計算方法
計算式に当てはめる
毎月の給与から天引きされている社会保険には、厚生年金保険や健康保険などがあります。厚生年金や健康保険の保険料の計算の基礎となるのが、標準報酬月額です。この標準報酬月額を計算式に当てはめて計算します。
厚生年金保険
厚生年金保険料額の計算方法は、毎月の保険料額=標準報酬月額×厚生年金保険料率。
厚生年金保険では被保険者が受取る給与や残業手当、通勤手当などを含めた報酬を、一定幅で区分した報酬月額に当てはめることで、決定される標準報酬月額が保険料や年金額の計算に使われます。
厚生年金の保険料率は、日本年金機構が掲載している保険料額表で確認が可能です。平成29年9月から一般と坑内員、船員の厚生年金保険料率は同額になりました。
健康保険
健康保険料の計算方法は健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率。
標準報酬月額は、事業者が算定基礎を行うことにより日本年金機構が決定します。決定通知書が送られてくるので、それを確認すると標準報酬月額の金額が確認できるでしょう。
健康保険の運営主体は、全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合があり健康保険組合はそれぞれの規定があります。保険料率は協会けんぽの場合は、掲載している都道府県ごとの保険料額表で確認が可能です。協会けんぽは各都道府県ごとに支部があり、保険料率が異なるので注意しましょう。
賞与の保険料額は標準賞与に基づいて算出
健康保険と厚生年金における賞与とは、賃金、給与、棒給、手当、賞与など、どんな呼び方をしても労働者が労働の対象として受ける全てのものになります。また年3回以下支給されるものが賞与です。一方、年4回以上支給されるものは、賞与にはならずに月次給与として扱われます。
厚生年金保険での賞与計算とは
賞与の計算方法は、厚生年金保険料=標準賞与額×保険料率。
標準賞与額とは、実際に支払われた賞与額から1,000円未満を切り捨てた額です。支給1回につき150万円が上限となります。同じ月に2回以上支給された場合は合算となり、150万円を超える分には保険料はかかりません。
厚生年金基金に加入している場合は、保険料率は基金ごとに定められている免除保険料率の2.4%~5.0%を控除した率になります。
健康保険料での賞与計算とは
健康保険料の計算方法は、健康保険料=標準賞与×保険料率。
厚生年金と同様に、賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額が標準賞与となります。保険料率は保険料額表で確認することが可能で、毎年改定される点に注意が必要です。
協会けんぽは、会社がある都道府県により健康保険の保険率が異なります。健康保険組合は、3.0%~13.0%の範囲なら保険料率を独自で決めることができるのです。
ただし、標準賞与の上限は年度の累計額が540万となっています。1年間の標準賞与の累計が540万を超える分には保険料がかかりません。
保険料率は平成29年9月以降18.3%で固定
厚生年金保険の保険料率は、平成16年の法改正により将来の保険水準を固定したうえで、給付水準を調整する仕組みが導入され平成29年9月に18.3%で固定されるまで、毎年9月に段階的に引き上げられていました。
平成29年9月以降は、厚生年金保険料率は上がりません。この保険料で厚生年金の支給財源が足りなくなるようであれば、年金の給付水準を調整されることになります。つまり年金支給額が抑えられます。
保険料水準固定方式
改正前の方式は、「給付水準維持方式」でした。この給付水準維持方式は年金の給付の水準を維持するために、5年に一度財政再計算をして保険料を決める方式がとられてきたのです。
しかし、保険料不足と年金給付の増大により、少子高齢化の日本では給付を維持するために、保険料の引き上げという選択が取られました。
この問題を解決するために導入されたのが、保険料水準固定方式。保険料水準固定方式とは、保険料を一定額で固定して、その範囲で可能な年金給付を行うということです。
計算サイトでシュミレーションしてみる
厚生年金保険、健康保険の保険料額の自動計算ツールは、健康保険、厚生年金保険の保険料額表を基に算出されます。健康保険料率は協会けんぽの保険料率が基本となっていますので、健康保険組合の保険料率とは異なってきます。
入力項目
☑1.会社の所在地
健康保険料率は都道府県により異なります。健康保険適用事業所の届け出を行っている場所です。
☑2.標準報酬月額または報酬
社会保険料については、非課税手当の交通費も保険の対象賃金。通勤手当は他の手当と異なり、一定の限度額までは所得税が非課税となります。
☑3.年齢
40歳~64歳の方は、介護保険料が加わり健康保険の保険料が計算されます。40歳の誕生月から介護保険の徴収が開始。また65歳の誕生月から介護保険料の徴収はありません。
計算自動ツールに入力することで、簡単に厚生年金保険料や健康保険料を確認することができます。
標準報酬月額が増えた場合のメリットを考えよう
標準報酬月額が増えると保険料も高くなります。しかし高い保険料を払うことのメリットは、各種給付金の支給額が増えること。例えば、健康保険では生活保障給付である出産手当金、傷病手当などの給付があります。
厚生年金では、将来の老齢厚生年金がそれまでの標準報酬月額と保険料を納めてきた月数で計算され、障害厚生年金、遺族厚生年金などの給付額が多くなることも。将来を考えて、確実に収めるようにしましょう。