今期が赤字になってしまったら、黒字だった前期に払った税金を戻すことができる制度があります。
法人税の還付金について、そしてその還付金を受けることができる制度についての知識を深めて理解し、上手に利用して企業の成長のために役立たせましょう。
目次
法人税の還付の基本
前年に払った税金の繰戻し還付
前年に払った税金の繰り戻し還付とは、前期は黒字経営で法人税を納付した法人が、今期は経営悪化などの理由で赤字になった場合、前期に納付した法人税の還付を請求できる制度のことです。
税務上では赤字のことを欠損金といい、税務署に欠損金による繰戻し還付を申請することができます。
簡単にいうと、赤字になってしまったら黒字の前期に支払った税金の一部を返してもらえるということです。この制度は法人税だけに適用されているため、地方税は還付を受けることができません。
この制度を利用すると税務調査が入る可能性が高くなるといわれているので、制度の詳細をよく理解しておくことが大切です。
対象は法人所得税
繰戻し還付の対象は法人所得税です。法人住民税や事業税には繰り戻し還付の制度がありません。
法人住民税は、繰越し還付の制度はありませんが、翌年度以降に支払う税金を減らすことができる繰越控除という減税処置を適用させることは可能です。
繰戻し還付の制度を適用させると、法人税は戻ってきてその分の赤字はなくなりますが、法人事業税ではなくならず、当該繰越し欠損金を翌年度以降に引き継ぎます。
そのため法人税の繰越し欠損金と法人事業税の繰越し欠損金には、繰戻し還付を請求した欠損金額分の誤差が出るという点を注意しておきましょう。
一度は停止されていた制度
繰戻し還付の制度は平成4年以降長期間にわたって停止していた制度です。しかし平成21年の税制改正により中小企業に限り復活しました。
復活した理由は、世界的な金融不安や景気後退が主な原因です。中小企業の円滑な資金繰りに寄与するために平成21年の税制改正によって復活。大企業には適用されない中小企業のための制度で、会社の成長や生き残りのための重要な節税対策の1つです。
制度の適用停止について
◼ 1.解散等の事実が生じた場合の欠損金額は適用停止
◼ 2.中小企業等の平成21年2月1日以降に終了する各事業年度で生じた欠損金額を除いて、平成4年4月1日〜平成30年3月31日までに終了する各事業年度で生じた欠損金額は適用停止
中小企業等の平成21年2月1日〜平成28年3月31日までに終了する各事業年度で欠損金が出た場合に繰り戻し還付の制度が認められます。
繰戻し還付の条件
中小企業が対象の還付
繰戻し還付の制度を利用できる対象法人は中小企業です。資本金が1億円以下の法人で前期まで黒字で今期から赤字になってしまった青色申告法人が対象ですが、対象法人や適用要件については細かく定義されています。
対象を細かく限定している理由は、中小企業の円滑な資金繰りに寄与することが目的だから。中小企業は赤字になった際の資金繰りの悪化の影響が大きく出やすいので、その救済措置として繰越し還付の制度を利用することができます。
対象法人の中小企業の詳細
◼ 1.資本金もしくは出資金が1億円以下の普通法人(資本金5億円以上の親会社の100%子会社の場合は適用外)
◼ 2.法人税法で定められている公益法人もしくは協同組合など
◼ 3.法人税法以外の法律で公益法人などとみなされる法人の場合(管理組合法人、認可地縁団体、防災街区整備事業組合など)
◼ 4.人格のない社団など(PTA、マンション等の管理組合など)
前年度と今年度の連続で確定申告している
対象法人だけでなく適用要件についても細かく定義されています。その1つが前年度と今年度の連続で確定申告しているということです。
還付所得事業年度である前期と、欠損事業年度である今期と連続で青色申告書の確定申告書を提出していることが制度を受けるための必須条件。前期が黒字で今期が赤字であり、取引をしっかり記録して損益計算を行う青色申告をしていると、前年度の黒字で支払った税金を戻してもらえます。
期限内に申告していること
申告書と請求書を期限内に提出しているということも適用要件です。期限内に申告していないと繰戻し還付の制度を利用することはできません。
赤字の期に青色申告書の確定申告書を期限内に提出しており、その確定申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出していることが大切です。申告書と請求書を期限内に提出することで適用要件は満たされます。
還付金の請求
還付金の計算方法
計算式
還付金=還付所得事業年度の法人税額×(欠損事業年度の欠損金額÷還付所得事業年度の所得金額)
わかりやすくいうと、「還付所得事業年度の法人税額」とは前期に納付した法人税額のこと、「欠損事業年度の欠損金額」とは当期の赤字金額、「還付所得事業年度の所得金額」とは前期の黒字金額のこと。欠損事業年度の欠損金額(当期の赤字金額)は、法人が還付金額の計算の基礎として還付請求書に記載した金額、もしくは還付所得事業年度の所得金額が限度です。
還付金の計算例
前期に納付した法人税額が300万円、当期の欠損金額(赤字)が800万円、前期の所得金額(黒字)が1,000万円だとします。そして「還付金=法人税額×(当期の赤字金額÷前期の所得金額)」の計算式に当てはめてみましょう。
300万円×(800万円÷1,000万円)=240万円
となるので、この場合の還付金は240万円ということになります。
当期の欠損金額(赤字)が限度額を超えた場合の計算例
前期に納付した法人税額が200万円、当期の欠損金額(赤字)が1,500万円、前期の所得金額(黒字)が1,200万円だとします。
すると欠損金額(赤字)300万円が上限を超えていますが、還付を請求できなかった分は欠損金の繰越控除制度というものを利用して、翌期以降の所得金額から控除することが可能です。
200万円×(1,500万円(実際は1,200万円)÷1,200万円)=200万円
計算式に当てはめてみるとこのようになりますが、欠損金額1,500万円は上限を超えているので、実際は1,200万円で計算することになり、還付金は200万円ということになります。
期限内に還付請求書で申告する
繰戻し還付制度を利用するためには、期限内に還付請求書で申告しなければいけません。提出期限は確定申告期限内で、提出期限が土曜、日曜、祝日にあたる場合はこれらの日の翌日が提出期限になります。
青色申告書及び繰戻し還付請求書を期限内に提出することが制度を利用する必須条件となるため、提出期限を過ぎてしまわないように気をつけましょう。請求書を作成したら青色申告書とともに税務署に持参するか送付して提出してください。
税務調査に対応できるように整理しておく
今期が赤字になってしまった中小企業にとって、繰戻し還付の制度を利用して税金が戻ってくるというのはとても魅力的な節税対策になります。ただし繰戻し還付を請求すると税務調査が行われる可能性があるのです。
税務調査といっても、電話で1分ほどの問い合わせがあるくらいの簡単な税務調査で終わる場合があります。「どうして赤字になったのか」などの問い合わせにきちんと対応できるよう、欠損金が出た理由などを整理して税務調査に対応できる準備を整えておきましょう。
還付制度を上手に利用し会社を成長させよう
欠損金の繰り戻し還付制度は、中小企業の成長のための味方になる制度です。還付を請求すると税務調査が行われるといわれていますが、必ず実地調査が行われるということではなく、税務署からの問い合わせで済むケースもあります。
欠損金が出た理由、それに影響した科目の内訳などを整理し、繰り戻し還付制度についてしっかりと理解しておけば臆病になることはありません。還付制度を上手に利用して会社を成長させましょう。